第118話

神坂冬樹かみさかふゆき 視点◆


美波みなみと約束した土曜日になった。美晴みはるさんとふたりで家を出ようとしたら、みゆきさんも職場へ行くのに一緒に出るというので途中まで同行する事になった。



「いつもより30分以上早い時間ですけど、良いのですか?」



「いいの、いいの。こういうのも新鮮でいいじゃない」



「たしかに、たまに違うことをすると新鮮なのはありますよね」



「でしょ?

 しっかし、早いと言えばそっちじゃない?

 遊びに行くにしては早い時間よ」



「そうなんですけど、今日の目的のボードゲームカフェの開店時間に合わせているんですよ。

 開店からフリータイムで入ると夕方まで同じ料金で居られるので」



「ボードゲームって人生ゲームみたいなの?」



「そうですね、人生ゲームもボードゲームですね。

 対象が大人のものとか凝った物なんかもあるんですよ。

 人狼ゲームとか聞いたことありませんか?」



「それはあるけど、ボードなんか無いんじゃない?」



「そうですよね。厳密には違うのですけど、ボードゲームとして扱われているんですよ」



「へぇー。じゃあ、そういった頭を使う感じのゲームなんかもやるってことね」



「そんな感じです・・・」




話している内にボードゲームに興味を持ったみゆきさんへ僕と美晴さんで説明していたら、あっという間にみゆきさんと別れる駅になった。



「それでは、お仕事頑張ってください」



「そっちこそ、思いっきり楽しんできなさいよ!」




みゆきさんと別れたらすぐに待ち合わせた駅に到着した。



「美波たちはまだ着いていないみたいですね」



「そうだね。でも、約束の時間まではまだちょっとあるし、ちょっとメッセージを送ってみるね」



「はい、お願いします」



美晴さんはスマホを操作してメッセージを送ったらすぐにスマホが震えた。



「あと、5分くらいで到着するって」



「わかりました。ありがとうございます」




ちょうど5分経ったくらいで、見慣れた人影がこちらへ向かってくるのが見えた。



「おまたせ!」



「ごめんね、待たせちゃって。

 美波ちゃんが髪のセットが上手くいかないとか言い出してドタバタしてたら電車1本乗り遅れちゃったの」



春華はるかちゃん!

 それは言わないでよ!」



「まぁまぁ、美波。まだ待ち合わせた時間にはなっていないし、気にしてないよ。

 ハルも相変わらず美波をおちょくっているんだな」



「おちょくってなんかないよ。事実を言っただけだもん」



「ううぅ、春華ちゃんのいじわる!」



「ほら、ふたりとも周りを見てみろ。

 こんなところで騒いでたら迷惑だろ」



「そうよ、夏菜かなちゃんの言う通り、周りに迷惑だから落ち着きなさい」



「お姉たちの言うとおりだね。ちょっとはしゃいじゃったかも。

 って、フユ!?」



「ハル?僕がどうかした?」



「笑顔だったからからさ・・・すごく嬉しいよ!」



「うん、春華ちゃんが言うようにすごく良い笑顔だったよ」



「美波まで・・・って、姉さんに美晴さんも?」



「うん、久しぶりに冬樹の笑った顔を見たな」



「そうね、冬樹くんの心の底からと感じられる笑顔は最近見なかったわよ」



みんな口々に僕が笑顔だという。実感はないけど、きっとそうなのだろう。


ハルと美波のやり取りを見て懐かしいと思ったし、心が安らぐ思いがした。




目的のボードゲームカフェの開店直前に到着し、開店と同時に入店をした。


受付から見やすく、バックヤードとの出入り口のすぐ側の席に陣取った。


手前味噌になるけど、うちの女性陣はみんな見た目が良くナンパをされやすいのでその対策だ。



「何からやろうか?

 せっかくだから冬樹が決めてよ」



いきなり美波から振られて面食らったけど、方向性だけは決めていたのでとりあえずそれを口にした。



「久しぶりだし仲直りの意味もあるから協力型のゲームが良いかな?」



「さすがフユ!良いこと言うね!」




そんな流れで協力型のゲームで場を温めてから、チーム戦や個人戦のゲームもやったりした。


やはりボードゲームは楽しいし、楽しい時間を共有できたことで美波たちとのわだかまりもずいぶん和らいだような気がする。




◆神坂春華 視点◆


夏休み前にフユの住んでいたマンションへ泊まりに行った時のことはまだ脳裏に焼き付いていた。


お姉が入院した時はお姉のことで頭が一杯で時間も短かったからそれどころじゃなかったけど、今日は考える余裕があったからずっとフユに拒絶されたらどうしようかという恐怖心があった。


美波ちゃんがせっかく作ってくれた機会だしと思ってセッティングしてもらう事にしてからも、不安で断れば良かったかもしれないという気持ちもあって、恐怖心と期待とが綱引きをしていた。


最初の協力型ゲームの最中からその不安な心を払拭することができて、チーム戦の時には横に並んで前のようにじゃれ付くこともできたので、案ずるより産むが易しだったと思うことができてる。



その道を切り開いてくれた美波ちゃんにはすごく感謝しているけど、同時に2ヶ月くらいでここまでフユをそこまで前向きにしてくれたであろう美晴お姉にも感謝している・・・





フユ達と別れて最寄り駅まで戻り、家まで歩いている最中に美波ちゃんへ思っていることを告げることにした。



「あのさ、美波ちゃん」



「なに?春華ちゃん」



「今日はありがとね。美波ちゃんが動いてくれなかったらフユと遊べなかったと思う」



「何言ってるの?

 冬樹と遊びたかったのはわたしもだよ?」



「うん、それでもありがとうだよ。

 でもね、それはそれで感謝しているけど、フユと美晴お姉がすごくお似合いだなって思ったんだよね。

 だからさ、美波ちゃんとフユのことは応援できない・・・と言うか、中立かな?」



「そっか、春華ちゃんは協力してくれないか・・・

 まぁ、わたしもお姉ちゃんと冬樹を見てたら、すごく強力なライバルだなって思ったけどね」



「口を挟んですまんが、私も美波に協力はしないぞ」



「夏菜お姉ちゃんも駄目かぁ。

 まぁ、ふたりとも冬樹のことが一番だもんね。

 今の冬樹を見ててお姉ちゃんよりわたしってならないよね」



「うん、ごめんね。

 でも、あたしが美波ちゃんのことも大事に思っているのは信じてほしいな」



「うん、わかった」

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