第108話

岸元美波きしもとみなみ 視点◆


映画の感想も一通り交わし終えたところで思い切って今まで注意されていたことについて、二之宮にのみやさんに聞いてみることにした。



「あのさ、二之宮さん。デリケートな話になるけど聞いていいかな?」



「内容にも拠りますけど、答えたくなかったらそう言いますから、とりあえず言ってみてください」



「ごめん、ありがとね。それじゃあ、聞くね。

 冬樹ふゆきが二之宮さんを襲ったって話、二之宮さんが仕組んだって聞いたんだけど本当なの?」



「それは隆史たかしから聞いたのかしら?」



「わたしが直接じゃないけど、鷺ノ宮さぎのみや君がそう言っているみたい」



「それは残念ね・・・知っていると思うけど、隆史は岸元さんの事が好きだったから、神坂かみさか君の事が好きな私と協力しあっていたのは本当だけど・・・それは私への責任転嫁がすぎるのではないかしら?」



「じゃあ、二之宮さんが仕組んだわけではない?」



「岸元さんには私を信じてもらえると嬉しいけど、それ以上は言えないわね」



これだけハッキリわたしの目を見て言えるのだし、嘘をついていないように思うんだよね。もう一回、冬樹たちに話をしてみよう。



「うん、信じたいと思う。あとさ、これも言いにくいのだけどパパ活をしているのって本当?」



「それは本当よ。うちはそれほど裕福でもないし、でも付き合いとか美容とかちゃんとやりたいと思ったらどうしてもお金がかかるし、バイトをするという選択肢もあるけど、それにばかり時間を掛けてたら受験勉強が疎かになってしまうから効率を考えてね」



「知らないオジサンと触れ合うのは嫌じゃないの?」



「嫌かそうじゃないかで言えば、嫌だけど1~2時間程度我慢するだけで何万円かのお小遣いをもらえるのだから、それは割の良いバイトにならないかしら?

 岸元さんはバイトをしたことがあるかしら?」



「それはないけど・・・」



「どんなバイトだって大変よ。ファミレスやコンビニのバイトだってオジサンに絡まれることはあるし・・・

 逆に聞くけど、岸元さんは隆史の友達やサッカー部の男子達に無理やり事をされたでしょ?

 それであなたは汚れたかしら?

 神坂君と付き合う資格を喪ったのかしら?」



「汚された様な気持ちにはなったけど、冬樹と付き合う資格は喪ってないと思う」



「そうでしょ。当たり前よね。だって、身体を重ねただけで汚れるなんておかしいもの。

 ちゃんと洗えば綺麗になるわよ。

 それともその時から体臭がキツくなったりしたのかしら?」



「そんなことはないよ・・・」



「そうでしょう?

 岸元さんは汚れてなんかいないし、私もそう。

 私だって色々な人と身体を重ねてきたけど、見た目でわかるかしら?」



「そんなの、言われないとわからないよ・・・」



「そうでしょう。当たり前よね。一部では汚らわしいとかいう人もいるけど、結局そういう事を人たちって事実があったことを知ってから言うのよ」



「そうなのかな?」



「そうよ。岸元さんは学校の裏サイトに動画が流出してしまったから、それを知っている人たちには噂をされてしまっているけど、知られる前はそんな事なかったでしょ?

 見た目ではわかっていないの。ただ単にそういうものだという思い込みを押し付けてきているだけ。

 そうでなかったら、岸元さんは汚れていることになるのよ?

 でも、そんなことはないでしょう?」



「そう、そうだよね・・・セックスをしたくらいで汚れるはずないよね」



「そうよ。当たり前じゃない。そうじゃなかったら、あなたのご両親だって世の中の大半の人だって汚れていることになるわよ」



「そうだよね、そうなんだよね。大人なら誰でもやっていることだもんね」



「そう、その上でそれに気付けている人がオジサンと僅かな時間触れ合ってお小遣いをもらっているだけなの。

 たまにはおかしい人がいて酷い目に合うこともあるけど、そんなのは別に事故だから。

 何も悪いことをしていなくたって車に轢かれてしまう人もいるでしょ?

 それと変わらないわよ」



二之宮さんはやっぱりいい人だと思う。7月からずっと悩んでいたことが全部ではないけど解決して気持ちが軽くなった気がする。



「ありがとう、二之宮さん。なんかモヤモヤが晴れた気がするよ」



「それは良かった。岸元さんの力になれたのなら嬉しいわ。

 それでなのだけど、もし良かったら今度一緒にお小遣いをもらいにいかないかしら?」




◆神坂夏菜かな 視点◆


美波が二之宮凪沙なぎさと別れてから、春華はるかと一緒に合流した。



「あのさ、夏菜お姉ちゃん。

 わたし、やっぱり二之宮さんが悪い人に思えないんだよね。

 夏菜お姉ちゃんが言っていたことを直接聞いてみたけど、わたしの目を見て否定してくれたよ」



晴れやかにそう語る美波はここ最近ではなかった笑顔だったけど、とても不安な気持ちにさせるものだ。


恐らく二之宮凪沙と話している内に美波の抱えている不安を解消させる事ができたのだろう・・・それが、本当の意味で美波にとって良いものであれば良いのだが、二之宮凪沙は底が知れない恐さがある。



「そうか、私はどうも聞いている話に偏りがあるから判断が付けにくいが・・・

 ただ、これだけは覚えておいて欲しいのだが、私も春華もお前のことを気にかけているし、当然美晴みはるさんや冬樹だってそうだと思う。

 それだけは忘れないでもらいたいな」



「そうだよ、美波ちゃん。あたしももちろん心配しているからね」



「そうだよね、ありがとう。みんなわたしの事を気にしてくれているんだよね。ちゃんと覚えておくね」



そうやって見せる表情は、やはり不安にさせる笑顔だ・・・



「ところで、二之宮とはどんな話をしたんだ?」



「色々だよ。映画の感想はもちろん、ファッションとかコスメとかアルバイトとか。

 二之宮さんはわたしにはない知識や経験があるからすごくためになったんだ」



「そうか、それは良かったな」



「うん」

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