第107話

神坂春華かみさかはるか 視点◆


今日は美波みなみちゃんが二之宮にのみやさんと遊びに行くというので、お姉とふたりでひっそり尾行することになり、現在まさに追い掛けているところだ。


今の美波ちゃんは危なっかしいからしょうがないけど、これで1日が潰れてしまうのは不満にもなる。


待ち合わせ場所に向かう途中の電車の中でふと気になったことをお姉に聞いてみた。



「お姉さ、結局昨日ちゃん話を聞けなかったけど、鷺ノ宮さぎのみやのお姉さんと会ったのってどうだったの?」



「うん、その、なんだ・・・少し追い詰められてて不安定な感じがあったけど、基本的に常識がある感じで、身内のしたことだからと心底申し訳ないという気持ちが伝わる対応をしてもらったぞ」



「そうなんだね・・・たしかに鷺ノ宮も1年の頃は常識がある感じの印象だったし、二之宮さんと関わらなかったら案外常識的なままだったのかもしれないね」



「そう考えると、二之宮凪沙なぎさは怖いな」



「うん・・・あと、フユはどうだった?」



冬樹ふゆきか?

 そうだな、落ち着いていて以前に近い雰囲気になっていたな。

 私が近くにいても平然としていたし、峠は過ぎたのかも知れない」



「なら良いけど・・・あたしは怖いんだ・・・

 また近付いてフユを苦しめてしまうんじゃないかって・・・」



「それについては春華には悪いが想像するしかできないからな・・・

 ただ、ビデオチャットでやり取りしている時に見せているように、冬樹は私達のことを気にかけているのは間違いない。

 それは信じられると思うぞ」



「・・・そう、だよね。

 あたしも怖がってばかりいないで機会があれば歩み寄るようにするよ」




お姉と話をしていたら待ち合わせ場所に到着し、美波ちゃんが着いた時には二之宮さんは既に来ていてそのまま合流し『遊び』が始まった。


まず恋愛映画のチケットを購入し、昼食を摂り、ブティックや化粧品をウィンドウショッピングし、映画の上映時間がきたら映画館へ戻って観覧し、そのあとはカフェで感想を語るありふれたものだったけど、二之宮さんと話している美波ちゃんは終始楽しそうで、あたしといる時よりも楽しんでいる様に見えてもやもやした気持ちになった。


お姉もそれを察しているのか、普段から言葉が多い方ではないけど、いつも以上に言葉が少なくただただ美波ちゃんと二之宮さんの休日デートを見ているだけと言った感じだった。




岸元きしもと美波 視点◆


今日は二之宮さんと遊ぶ約束をした日だ。


周囲の人たちからは冬樹を陥れた張本人だから気を付けるようにと言われていたけど、一緒に居てお話している分にはそんな感じがしないので、そういったところも見極めたいのもあって、わたしから誘って遊ぶことになった。


わたしが心配だからと春華ちゃんと夏菜かなお姉ちゃんが尾行してきているけど、ちゃんと話をすればその誤解も解けると思うし、ここは見守っててもらおう。


今はわだかまりがあってもそのうち仲良くできると思うし、その橋渡しをわたしがしっかりできる様にしようと思う。



待ち合わせ場所に着くと約束の時間までには余裕があったけど二之宮さんが先に到着してた。そのまま合流してからまずは映画のチケットを取りにシネマの受付へ。スマホのWEBページから予約をできるのだから劇場まで足を運ばなくても良いのだけど、こういったのは劇場の雰囲気を見て選びたいというわたしの感覚を二之宮さんが受け入れてくれて、ここで見る映画と時間を決めた。


結局、今の時間から一番早い回は既に満席になってしまっていたので、その次の回まで待たないといけない状況になってしまったのだけど、二之宮さんはその間にお昼を食べて洋服やコスメを見れば良いと微笑みながら応じてくれた。


これが冬樹や春華ちゃんだと『これだから前の日にでも予約しておけば良かった』などというのだけど、この劇場で選ぶ感覚を共有できるのは嬉しいし、その間の時間の使い方もショッピングをしながら映画への気持ちを高揚させていくのが好きということも共感してくれて、こういうところでも二之宮さんとは仲良くなれるような気がする。


会話にしても、二之宮さんはわたしのことを否定したり難しいことを言って煙に巻いたりすることもなく、ずっと楽しくお話できてる。これが春華ちゃんや夏菜お姉ちゃんだとこうはいかない。ある程度話しているとどこかで小言を言ってくるし、子供扱いしている感じで注意をされたりもするのがちょっと不満なんだよね。


映画も春華ちゃんはアニメや漫画原作の邦画を好むので一緒に見ることが多いけど、二之宮さんは海外の映画が好きなわたしとそこも趣味があっていて、カフェでの感想会も本当に楽しかった。

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