第99話

岸元美晴きしもとみはる 視点◆


赤堀あかほりさんに言われてみて改めて考えてみたけど、美波みなみは昔からわがままなところがあった気がする。


でも、人なんて誰しもがわがままな部分を持っているものだし、美波に限らず私だって冬樹ふゆきくんたちだって完全無欠のわがままひとつ言わない聖人というわけではなかったから、そもそもわがままだと指摘すること自体烏滸がましいところもある。


たまに我が強いなと言う時があったってちゃんと注意をすれば引き下がっていたし、良くも悪くも口にしてもそれを突き通すようなこ事はほとんどなかったから、軋轢になりようもなかったし、まったく素っ気がないよりは多少わがままを言ってくれる方が可愛いまであると思うから、私だけでなく夏菜かなちゃんも『美波はしょうがないな』と思いつつも問題視はしてこなかった。


それこそよくある人間関係だ。友人関係でもあるけど多少わがままを言っても愛嬌で許して可愛がるなんて言うのはどこにでもある話だと思う。傍で見ていてわがままを言っているのに隣で文句を言いながらも一緒にいる子なんていうのもよく見る。


それとは逆にわがままが許容できなくなったからかいつの間にか共に行動をしなくなる人もいて、ある時期から行動を共にしなくなり、それぞれが新しい別の友人と行動するようになるなんていうのはこどもの頃から何度となく見てきた。


私の直接の友人ではいないけど、様子を見ていたら察せられる事例はいくつもある。



そう、私にとっても初めてなのだ。



美波とどう接すれば良いのかわからないというのが率直なところだし、そもそも元々私が高校くらいには美波を避けがちだったし、それこそ大学へ進学してから2年半近くは一人暮らしをさせてもらっているのを良いことにほとんど接点を持ってなかった。


あの頃はずっと冬樹くんとお付き合いするのが美波だと思っていてその姿を直視するのが辛かったからだったけど、今度は混乱した状況に乗じて私が冬樹くんとお付き合いすることになった故の気不味さがある。美波の様子を見ていると自分がしたことを棚上げして、まだ冬樹くんとお付き合いしたいと思っているみたいだし・・・


でも、放っておいて二之宮にのみやさんとの関わりが強くなっていくのは色々な意味で怖い。


原因で監禁されたとは言え『喉元過ぎれば熱さを忘れる』でパパ活を再開して、それに美波も一緒になってやるようになってしまったら、美波も倫理観が崩壊してしまうかも知れないし、それこそ美波が監禁されたり殺傷されたりなんていうトラブルも考えられるし、そうでなくても二之宮さんに都合よく捨て駒にされるなんていうことも考えられる。


また、二之宮さんも冬樹くんのことが好きだということだし、倫理観と言うか価値観がまるで違う人の好意なんていうのは悪意以上に恐ろしい。世の中には好きな人が自分の願う通りにしてくれないからと言って殺してしまう人もいるし、二之宮さんにはそういう気質がある可能性も考えないといけないと思う。



・・・ずっと目を背けていたとは言え、私は美波の姉なんだし、とにかく行動しないと・・・まずは、お母さんに相談かな。




神坂かみさか夏菜 視点◆


岸元美波は物心が着いた時には側にいて、以来ずっと側に居続けた妹のような存在だ。


また美波の姉である美晴さんも私にとっても実の姉と言っても良いくらいには信頼しているし、家族に相談したくないことを相談する機会があるとすれば、その時は美晴さんに持ちかけさせてもらうだろう。


もちろん、実の弟妹である冬樹も春華はるかも聡明な聞き分けの良い子たちで、私が年上だからこそ弱みを見せたくないという気持ちはあれど両親と同じだけの信頼を寄せている


そういった関係で、時にはケンカをする事があったりもしたが、大きな衝突などなく今年の春まで良好な関係を維持し続けてきた。



ただ、その良好さに胡座をかいて真の意味での信頼関係の構築を怠っていたし、それに気付かされた時には手遅れだった。


けっして冬樹を信頼していないわけではないのだが、同性である分だけ春華と一緒に行動することの方が多かったし比較をすると冬樹より春華の言う事を信じてしまいがちだし、あの日だって春華が冷静でないことに意識が向かず春華が口にしたことを一時とは言え信じてしまい、その後取り返しがつかないことになってしまった。




美波も妹分ではあるので可愛い存在だとは思っているが、私達神坂・岸元の家族の中で一番精神が幼いのはわかっていたし、それ故のわがままさも時々感じさられていた。


しかしさっきのは何だ?


私達より、二之宮凪沙なぎさを信じるというのは、裏切りに近い物を感じたし、怒りも込み上げてきた。






・・・だが、ちゃんと美波と向き合わないと冬樹の時と同じ過ちを繰り返すと思う。


正直なところ理由は想像もできないが『身勝手なやつは知らない』と言って見捨てるのは姉として行ってはならないと思い、美波と話をしてみることにした。



「美波、なぜ二之宮凪沙を信じようと思うんだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る