第98話

神坂冬樹かみさかふゆき 視点◆


「冬樹も美晴みはるちゃんも身内のことだからかしら?

 単純な事が見えてないのね?」



僕とみはるさんの美波みなみへの呆れの籠もったやりとりを聞いていたみゆきさんが言葉のボールを投げ入れてきた。



「みゆきさん、どういうことですか?」



「そうね。私から見えてるあなた達について話すわね」



「ぜひ、お願いします」



「私からもお願いします」



「まず、美晴ちゃんが少し年齢としの離れたお姉ちゃんでしょ。

 だから、下の子ができると割りと自分がしっかりしないととなりがちで、特に美晴ちゃんの場合は自分の妹だけではなく冬樹の家の子達も対象になって、普通の姉弟妹きょうだい以上に自覚的にしっかりしがちなのよ」



「たしかに、私には赤堀あかほりさんが仰るところはあると思います」



「そうでしょ。どんなに仲の良いお隣さんでも余所の家という意識は出てくるし、美晴ちゃんは常に余所の家のこどものお姉ちゃんでもあるから、美晴ちゃんが自分で思っている以上にしっかりしていると思うのよ。

 それで、次に冬樹のお姉さんだけど、やっぱり余所の家のこどもがいるお姉ちゃんで、美晴ちゃんというお手本までいるから相当しっかりした人なんだと思うのよね。ちょっとビデオチャットのやりとりで喋っている言葉遣いを聞くだけでも硬いしっかりした人だって感じさせるものがあるもの。

 実際にそうなんでしょ?」



「そうですね。うちの姉さんはしっかりしていると思いますし、小学では児童会長でしたし、中高では生徒会長を務めていることもあって、他の人からもしっかりしていると言われているのをよく耳にします」



「やっぱりね・・・

 そしてね、そんなしっかりした実の姉と仲の良いお隣さんのお姉さんがいると、その下の子はしっかりするか甘えん坊になるか極端になりがちなのよね」



「冬樹と妹ちゃんは双子だからお互いに負けたくないって気持ちで高めあったんじゃないかな?

 冬樹なんか高校生って思えないくらいしっかりしてるし、こういっちゃ難なのだけどしっかりした大学生に見える美晴ちゃんよりもしっかりしている様に感じるわよ」



「僕がしっかりしているかはともかく、ハルに負けたくないって気持ちがあったかなかったかで言えばあったと思います」



「たしかに冬樹くんと春華はるかちゃんって学校の勉強とか体育祭とか色々なところでお互いをライバル視して張り合っていたわよね」



「あの妹ちゃんも張り合っているっていうのはちょっと意外な気がするわね・・・

 言葉遣いが冬樹に比べると幼さを感じるって意味でね?」



「たしかに喋り方はちょっと砕けていますよね。

 でも、あれも小学の高学年の頃にマンガとかアニメにハマるようになってからなんですよ。

 その前は姉さんの真似をして今よりもしっかりした口調だったんですよ」



「なるほどね。そういったサブカルの影響か。

 でも、小学校の高学年になるくらいまではしっかり者のお姉ちゃんの影響を強く受けていたってことは、言葉遣いの印象以上にしっかりしてるのでしょうね」



「そこはみゆきさんの推測が近いと思います」



「なら、答えが出てこない?

 美晴ちゃんの妹ちゃんは、思いっきり甘えん坊でしょ?」



「「あっ」」



僕と美晴さんは思わず息を呑み、しかもそのタイミングが一致した。



「基本的には甘えん坊気質なのよ。でも、周りがしっかりしているし、その中で甘える気持ちもだいたい満たされてきていたから誰も気にならなかった。

 でも冬樹が学校で孤立して、冬樹の姉妹きょうだいにも近付けない雰囲気で冬樹とは別の形で孤立していたんじゃないのかしら?

 冬樹をハメた男の子だって、話を聞けば妹ちゃんの事が好きだったみたいだし、タイミングがズレて・・・じゃないわね、ズラされてしまって、今まで上手くいっていたものが全然上手くいかなくなって精神的に追い詰められているわよ」



「そんなにですか?」



「私は学校での冤罪が晴れてからの冬樹しか見てないけど、単純に今の冬樹と美晴ちゃんの妹ちゃんで比べたら追い詰められているのは妹ちゃんの方だと思うよ。

 冬樹の中に『裏切られた』って気持ちがあるのはしょうがないと思うけど、このまま妹ちゃんを突き放すと二之宮にのみやってに取り込まれてもっと堕ちていっちゃうわよ。

 何ていうのかな。高校生にはピンとこないと思うけど、悪い宗教が信者を取り込む手法なのよ。

 目標ターゲットを周囲から孤立させて、そこへ聞き心地のよい言葉を言ってあげることで自分を信頼させ依存させるようにするのってね」



「赤堀さんの仰っていること、わかります。大学からそういった感じの手口で新興宗教なんかが学生を信者にしようとするから気を付けるようにって話がありました」



「大学生ならわかるか。

 で、今の妹ちゃんって二之宮ってがどこまで意図しているかはわからないけど、そういう状況で自分の側に取り込もうとしている様にみえるのよね。

 だって、本来なら誰よりも信じておかしくない冬樹や冬樹のお姉ちゃんが言っても二之宮ってを信じようとするのって異常よ。

 何らかの意図があって的確に動かないと短期間で長年家族同然で関係を作ってきていた人たちとの信頼をひっくり返すなんてできないわよ」



「そ・・・それは・・・はい」



「冬樹はもうどうするべきかわかっているんじゃないの?

 本当にどうなってもいい相手だっていうのなら良いけど、美晴ちゃんの妹に対して本当にそう思えるの?」



「それは思えないですね・・・

 どうでもいいとか思おうとしていても、心の奥底では悔しかったのだと思います」



「まぁ、冬樹はもう少し心の整理に時間がかかるかな?

 って、ことで美晴ちゃんの出番だ。

 いま冬樹へ言った通りで、妹ちゃんはけっこうヤバい状況だと思うんだよね。

 甘ったれでわがままなところはあるのだろうけど、変な宗教に引っかかって取り返しがつかないところまで堕ちて良いなんて思ってないでしょ?」



「・・・はい」



「私もここに置いてもらっている恩があるから協力するしさ、でも主導するのは美晴ちゃんじゃないと駄目だと思うんだよね。

 だからさ、一回お家へ帰って妹ちゃんとちゃんと向き合ってきなよ」



そして、みゆきさんは僕の方へ向き直して言葉を続けた。



「状況があるから今すぐとは言わないけど、冬樹もできるだけ早く妹ちゃんとちゃんと向き合ってあげなね」

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