第92話
◆
二学期が始まり早くも9月も半分が終わろうかという月中の水曜日で、今日はいくつかの教科で勉強会があり職員室は慌ただしかったものの、教科ごとの集まりと言ったものとは無縁の音楽担当の教師としては特別でないただの一日でしかなかったどころか他の会議や委員会もなくなるため早く帰れた。
自宅最寄り駅へ辿り着き、近所のスーパーへ寄って買い物でもして帰ろうかと思いながら改札を出たところでばったり
気付いていないと言い逃れができないほど近い距離でお互いが認識した以上は何も言わないわけにもいかず声を掛けた。
「こんにちは、二之宮さん。こんなところで会うなんて偶然ですね」
「こんにちは、先生。先生はこの辺にお住まいがあるのですか?」
「ええ。ここが最寄り駅で自宅はここから歩いて数分のところなんですよ」
「そうなんですね。もしかして、
いきなり
「なんで神坂君と一緒になんて話になるんですか?
わたしは結婚していて夫だっているんですよ?」
「そうですよね。失礼しました。神坂君がこの駅の近くのマンションに住んでいるのでつい気になってしまいました。
荒唐無稽な話ですよね?」
「ええ、二之宮さんには申し訳ないのだけれど、ちょっと発想が追い付かないわね。
二之宮さんこそ、どうしてこの駅に来ていたのですか?
さっき名前を出していた神坂君には今は会わないようにしましょうって話になっていますよね?」
冬樹君はご家族にすら住所を教えていないはずなのに二之宮さんが知っていそうなことに疑問だったけど、相手は貞淑な優等生そうに見えて色々と問題のある生徒だから何かしているのかもしれない。ともかく注意をしないといけないと思ってしまった・・・本当は生徒を疑いたくはないのだけど・・・
「電車に乗っていたら知り合いっぽい人がいたので追い掛けて降りて、見失ってしまったので戻ってきた感じです」
「そうだったのですか。それでは、これで失礼しますね。
二之宮さんは気を付けて帰ってくださいね」
「はい、失礼します」
二之宮さんと別れた後、スーパーへ立ち寄って買い物していたら見られている様な気配を感じたので注意深く周囲を観察したら二之宮さんが隠れながらわたしを見ていた・・・
冬樹君との関係を疑ってそうだったし、このまま冬樹君の家へ行くと想像されてそうだと思い、冬樹君の部屋へ行かなくても同じ建物に入っていった時点で二之宮さんにとってはクロ扱いだろうと言うことで、買い物をしてからあえて自宅のマンションとは反対の方へ行き、たまたま目に付いたマンションへ入りエレベータへ乗って最上階まで上がってから地上の様子を見たら、二之宮さんが帰っていく様子が見えたので、そこから自宅へ帰った。
◆神坂冬樹 視点◆
高梨先生から大事な話があるとの連絡をもらい、ぜひ来てくださいと返したら、本当にすぐにお見えになった。
先生のご尊顔を拝する事ができて恐悦至極だったのだけれど、先生がもたらせた話は悪い知らせだった。
なんでも、先生が帰りに駅の改札で二之宮さんと遭遇し、俺と同居している事を疑い探りを入れるような事を言ってきた上に、先生を尾行までしていたとのことだ。
幸い途中で気付いた先生が機転を利かせ別のマンションへ入っていく姿を見せたことで目を眩ませることができたようだった。
しかし、問題はそれだけでは済まず・・・
「冬樹くん、本当にごめんなさい。二之宮さんに尾行されてたのは元々私のはずなの・・・
今日実家へ行った時に帰りに駅まで一緒に行って・・・
私が油断して尾行に気付かなかったから・・・」
「俺だってそんな尾行されるなんて想像しませんよ。
美晴さんは何も悪くないです。
起きてしまったことはしょうがないですから、これからのことを考えましょう」
「・・・ふゆきくん・・・」
「そうよ美晴ちゃん、百合恵は神経質だから気付けただけよ。
第一、その二之宮って
だったらいくらでも裏をかけるじゃない」
「そうよ、美晴さん。わたしは気にしいだから気付けたっていうのはあると思うわ。
みゆきがいう通り裏をかけるでしょうし、冬樹君ならいくらでもどうにかしてくれますよ」
「そうですよ。なんならまた引っ越せばいいですし。
前に住んでた
「そんなホテル住まいみたいにぽんぽん引っ越しするとか・・・やっぱり、冬樹に養ってもらいたいわね」
「みゆきはまた何て馬鹿な事を言っているの・・・でも、そうですね。引っ越しができるのなら良い選択肢かも知れませんね。
わたしとしては寂しいですけど」
「先生も言ってくださったように、引っ越しましょう。
美晴さんが普段行わない尾行に気付けなかったように、そうそう引っ越しをするなんて思わないなら、二之宮の注意を引き付けることだってできますよ」
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