第66話

神坂冬樹かみさかふゆき 視点◆


興信所からの連絡は、まず鷺ノ宮さぎのみやに関してで、ひとつは父親がもう失脚しそうだということだった。


学校がSNSで炎上した際に週刊誌でも事件が取り扱われ主犯が鷺ノ宮だというところまで特定されてしまい、それを鷺ノ宮の父親の会社の敵対派閥の人間に利用され、先日その情報が社内の全社一斉配信メールで暴露され、会社を辞めざるを得なくなったらしい。


子供のしつけがちゃんとできてなかったとは言え気の毒にも思える。


姉は婚約者の家族が犯罪者と親族になるのが嫌だと反対し始めたらしい。今のところ婚約者自身はその反対に抗って予定通り結婚したいと主張しているけど、今後どうなるのかはわからないとのこと。


当の鷺ノ宮本人はこれから裁判が行われ少年院送致になる見通しとのことだ。


また、現在の家を売却し近々神奈川のアパートへ引っ越しするらしいとのことなので、もう会うこともないだろうと思う。



次に二之宮にのみやさんについてで、彼女は俗に援助交際とかパパ活と呼ばれる事を行っているとのこと。それで得たお金の多くを美容に費やしているそうだ。目をみはるほどの美人だと思っていたけど、そういった影の努力が物を言ったのかもしれない。


もっともそれをいつから行っていたのかがわからず鷺ノ宮たちに凌辱され心が壊された結果なのかもしれないので、偏見の目で見ないようにしようと思う。


家庭環境にも問題がある様な気配があるとのことで、そう言ったことも援助交際の背景にあるのかもしれない。


また、二之宮さんは夏休みだというのに頻繁に学校へ登校し長い時間を学校で過ごしているとのことで、これも目的がわからない。部活は暫定的に作った法律研究部にしか所属していないし、生徒会活動も文化祭実行委員も参加していないので違和感がある。






美晴みはる姉さんと買い物に行くためにエレベーターで下っていたら途中の階で止まり、乗り込んできた人を見て驚いた・・・



「先生、こんにちは。

 このマンションにお住まいなのですか?」



「え、ええ。そうだけど、冬樹君もこのマンションに引っ越してきたの?」



「はい、先日越してきました。まさか先生と同じマンションだったとは思いもしませんでしたよ」



先生は隣りにいた美晴姉さんを見てから尋ねてきた。



「ここでも岸元きしもとさんと一緒に暮らしているのかしら?」



「はい、そうです。今は美晴姉さんとふたりで暮らしています。

 今回も急いで探したので部屋を余らせてて、使っていない部屋がありますよ。

 一応まだ学校に籍は残っていますけど生徒と教師の関係ではなくなりますし、お時間ができたら遊びに来てください。

 腕によりをかけてご飯を作らせてもらいます」



「そうね、冬樹君の近況も聞きたいし、その時はお願いね」



「はい、よろこんで。

 では、僕らはこっちなので。では」




◆岸元美波みなみ 視点◆


両親にはわたしが鷺ノ宮くん達にされたことを言えずにいたけど、事件が公になり仲村なかむら先輩が妊娠してしまっていたこともあり夏休みに入ってすぐに学校を交えて彼らの保護者からの謝罪の場が設けられ、結局わたしがされたことやそのきっかけである冬樹や春華はるかちゃん達と関係が疎になっていたことなどを知られてしまった。


怒られることもなく、むしろ心身の心配をしてもらったけど、どうして冬樹を信じずに卑劣な男に騙されたのかと呆れらたのが一番インパクトが大きかった。そして、お姉ちゃんが冬樹の家へ住み込みをした理由も察したらしい。



あの日は安全日だったし生理は来ていたものの仲村なかむら先輩が妊娠したという話を聞き念のため妊娠検査薬で確認をし陰性だったから大丈夫だろうと思っていたけど、いつもなら来ている頃なのに来ない。


精神的に全然落ち着いていなかったからそのせいだと思いたいけど、改めて検査薬で確認をしたら・・・陽性だった。




たった1日のことなのにどうしてと思う気持ちがあったけど、このままにするわけにもいかないのでお母さんに付き添ってもらって病院へ行きちゃんと検査してもらったらやはり子供を宿していた。検査薬では本来陽性でも陰性と結果が出ることがあるらしいとのことだけど、よりにもよってなんでわたしがそんな事になるのという恨めしい気持ちでいっぱいだった。


事が公になってから鷺ノ宮くん達の保護者も交えて話し合いをし相応の示談金をもらっていたので手術費用は問題がないけど、お姉ちゃんや春華ちゃん達にも知られたくなかったのでお母さんとお父さんにはお姉ちゃんを含み誰にも言わないようにお願いした。


お姉ちゃんはずっと冬樹の家に行ったきり帰ってこないし、連絡もメッセージでしかやり取りしていないから気付かれることはないだろうし、この先も知られずに済ませたい。




◆神坂春華 視点◆


夏休みが始まった日、フユの家に泊まった日から4週間くらい過ぎた。


この間はフユは引っ越しをしたり学校を辞める手続きをしたりしていたらしいけど、あたしは特に何もなかった。今までなら長期連休にはフユやお姉や美波ちゃんと一緒に遊びへ出掛けたりもしていたけど、フユとは絶縁状態だしお姉の受験勉強に付き合ってあたしも勉強ばかりしていた。


夏休みに入ってからは美波ちゃんも一緒に勉強する事が多かったけど今日は4日ぶりで、お父さんに来客があるので美波ちゃんのお部屋にお邪魔している。


美波ちゃんが飲み物を用意してくれている時に、持ってきていない資料集を見たくなり借りようと本棚から引き抜いたら、チラシのような印刷物も巻き込んで引っ張り出してしまった。


巻き込んで落としてしまった印刷物を慌てて拾い、ふとそれを見ると『人工中絶について』と書かれていた。



「お姉!これ!」



「どうした春華?

 これはっ!」



「美波ちゃん、もしかして・・・」



「たぶん、そうだろうな。昨日までの3日間、体調が悪いからと会わなかったのはこれだったんだろうな。

 美波が言わなかったということは私たちには知られたくないんだろう。

 それは戻して美波が言ってくるまでは知らないフリをしよう」



「う、うん。そうだね」

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