第62話
◆
激しく後悔している。
いくらなんでも嫌なら拒否をしてくるだろうし、拒否をしてこないから上手くやれていたのだと思っていたけど、現状を見れば散々なものだ。
先週の三連休の初日に百合恵を連れて川越の実家へ顔を出したら、姉貴が子供達を連れて遊びに来ていていつもの様に
兄貴たちが子供自慢をするのでうらやましい気持ちもあり百合恵を責めるようなことを言ったりもした。酒が入ってたこともありいつもよりも強い口調で教師の仕事を辞めるようにと言ったら、百合恵は怒り出し婚姻を解消すると宣言し家から出ていった。
そうしたら先程まで同調する様にこどもができないのは百合恵のせいだみたいなことを言っていた
心を落ち着けてから詫びの言葉を言うために百合恵に電話やメールをしてみたが反応がなく、それを何度か繰り返しているうちにブロックされ、親父達にスマホを借りて連絡を入れてみたがことごとくブロックされてしまった。
気持ちが落ち着いたら帰ってきてくれるだろうと思い、予定を繰り上げて実家から自宅へ戻り待ったが、その日は戻ってこなかったし、その翌日も戻って来る様子がなかったので夜になり百合恵の実家へ電話して聞いてみたが何も知らないとのことで、逆に『百合恵にそんな事をさせるなんてどういう事なのか』と訝しまれてしまった。
三連休の最終日、とりあえず百合恵の職場の学校へ行き校門でしばらく待っていたら百合恵が姿を表したので、思わず手首を掴んで声を掛けた。
気持ちが焦っていたこともあり厳しい言い方をしてしまったため、その場にいた男性教師に諌められその場は引くことにした。
そのまま家に帰る気にもなれず、大学時代からの友人で小学生のこどもが二人いる
ことの顛末を説明したら、木下の奥さんからあれこれダメ出しをされた。
その中でも一番衝撃的だったのはこどもができない原因は男にある場合もあるという話だった。
これまでオレはその事を知らなかったのでこどもができない原因は百合恵の体質なのだろうと思っていたが、オレが悪い可能性もあるということだ・・・
他にも奥さんは言葉巧みにオレが過去に百合恵へ放ってきていた言葉を推測して掘り起こし、それほどの事を言ってきたのなら別れられても仕方がないとまで言い切られ、別れたくないなら誠意を持って謝罪すれば考え直してもらえるかもしれない・・・つまり、修復不可の可能性も十分にあると説教された。
木下の家で奥さんに滅多打ちにされて帰宅してからネットで調べたらWHOの調査レポートでカップルの不妊の原因は女の方がやや多めのものの男が原因であることも十分に多いことがわかった。
オレは調子に乗っていた。幼少の時から見た目がよく頭も良かったからモテたし、実際に誰にでも自慢できるような大企業に就職し、同期との出世レースでも先頭集団に居続けていることもあり収入もかなり良く、蓄えだって十分あり低金利だから住宅ローンを組んだけど繰り上げ返済できるくらいにはある。
あと幸せな家庭に必要なピースはこどもができいつも家を守ってくれる
次に百合恵を会う時はちゃんと謝って許してもらうのだと思い、百合恵の言う『顔を出すまで放っておいて』の顔を出してくれる時を待つことにした。
その時は思いのほか早くやってきた。
反省したつもりでいたが、いざ百合恵と話をしていると百合恵の言い方に反発するように百合恵を責めるような言い方をしてしまい、謝るどころではなかった。
幸か不幸か、厳しい条件付きながら即離婚と言う状況だけは回避できた。
1週間振りに食べる百合恵の朝食は今までで一番手が込んでいて美味しかった・・・泊まっていた先の友人にでも教わったのだろうか?
◆高梨百合恵 視点◆
強引な言い方をしたところはあるけれど、悠一さんが了承してくれたので『こどもが生まれないのはどうの』とか『仕事を辞めろ』とか言われないだけでもとりあえずは良いし、言われれば約束どおり離婚すれば良いだけと思うだけでも心が落ち着く。
生徒たちは夏休みになったとは言え、元々は休みの予定ではなかった日でもあるし事件の後始末などもあるのでほとんどの教職員は登校していた。
いつもより長めの朝礼を終えた後は淡々と自分の溜まっていた仕事を行っていたが、
冬樹君の医師から事情を聞かせてほしいということでそのまま電話口で質疑応答した。
それから少し経ってまた美晴さんから電話があり、今度は診断結果を教えてくれた。無意識の拒否反応と意思が弱まって言われるがままになる・・・おそらくそれだけではない気がする。
わたしと話をする時にオーバーな好意の表現をしてくれる事が多くなってきているけど、おそらくそれも精神的な何かな様に思う。落ち着いたら美晴さんに相談してみよう。
そして、今日3度目の電話は冬樹くんからで、自分の状況を踏まえて学校を辞め高卒認定試験で資格を得て大学受験に臨むようにするのと、連動して転居するつもりとのことだった。
また、ボイスレコーダーで録音した音声の保存方法を教えて欲しいとお願いしたら、今日これから学校へ来て対応してくれると約束してくれた。
自分が大変な時だというのにわたしにまで気を遣ってくれて本当にいい子だと思う。
それはそれとして、一応お世話になったので・・・
「塚田先生、ご心配をおかけしていたわたしのプライベートの件ですが、主人と話をして決着しました。
お気遣いいただきありがたかったのですが、もう大丈夫です」
「そ、そうですか。それはよかったですね」
「ええ、お陰様で。ありがとうございました」
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