第8話

神坂冬樹かみさかふゆき 視点◆


高梨たかなし先生の癒やし効果もあってとても良い気持ちだったので、休み時間にクラスメイトに声を掛けられても嫌な気持ちにならずに応対できたし、春華はるかがやってきてちゃんと話がしたいと言われても、二つ返事で近い内に家へ顔を出すと約束できるくらいだった。



そんな感じで放課後を迎えると二之宮にのみやさんを学校から徒歩2分ほどの現在住んでいるマンションのエントランスまで来てもらって合流し、自宅へ招待した。



「おまたせ!アイスティーしかなかったんだけどいいかな?」



「お気遣いありがとうございます。紅茶、おいしそうですね。

 こんなに学校から近くて、セキュリティがしっかりしているマンションに住んでいたんですね」



「家族から縁を切られちゃったから引っ越さないといけなかったのもあるけど、学校から近い方が都合が良かったからね」



「ごめんなさい。私のせいよね」



「たしかにある意味ではその通りだけど、別に信じなかったのは家族の選択したことで、その時が来たきっかけがあの件だったと言うだけだよ」



「それだって、私が」



「いいって、過ぎたことだから。それより、これからの話をさせてもらいたいのだけど良いかな?」



鷺ノ宮さぎのみやを相手に不法行為による慰謝料請求の民事裁判を起こすが、二之宮さんにはその際の証人として協力してもらう事を約束してもらった。


方針として俺の収支は度外視で鷺ノ宮に金銭・社会的信用の損失を与えること最優先で取り組み原則として最後まで上訴を行うつもりで、目一杯高めに算出した慰謝料を支払わない限りは徹底的にやり合うつもりでいる。



「長い期間の戦いになるので、ちゃんと負担に応じた補償はさせてもらうから安心してほしい」



「そんな、そもそも私が迷惑をかけたのだしお金は要らないわ」



「弁護士さんに言われた事だけれど、二之宮さんが思っている以上に負担になるはずだから、そこはこちらの誠意として受け取ってもらえるとありがたい。

 『誠意は言葉ではなく金額』という言葉もあるように、そこはちゃんとさせて欲しい。

 お金に抵抗感があるなら他のことで協力させてもらっても良い」



「神坂君はなんでそこまでしてくれるんですか?」



「う~ん、たしかにハメられたから恨んだのは間違いないのだけど、学校に説明した時に自分が迫ったからと言って俺の無実を主張してくれたし、すぐ後に二之宮さんが鷺ノ宮に脅されていることを知ったからね」



「え?それってどういうこと・・・」



「実はあの後すぐあの空き教室や学校の何箇所かに防犯カメラを設置して鷺ノ宮や二之宮さんの動向を観察していたんだよ。

 だから、申し訳ないけど二之宮さんが鷺ノ宮にされていたことは知っているし、その時の映像も持っている」



「あ・・・あぁ・・・」



「そして、テスト最終日に空き教室で行われていたことの映像は証拠として警察に渡したんだ」



「そう・・・なのね。でも、やっとわかったわ。何で警察が知っていたのか・・・」



「だからさ、最初は二之宮さんに対して絶対に許せないと思っていたけど、そんな気持ちは無くなっていて全て鷺ノ宮にぶつけてやろうって思っているんだ。

 それと今から残酷なことを言うけど、鷺ノ宮という抑止力がいなくなったから他のヤツから二之宮さんの映像が流出する可能性があると思う。

 既に手遅れかもしれないけど、今から抑えれば間に合うかもしれない。二之宮さんが求めてくれるならそれにも協力するよ」



「それはありがたいけど、どうしてそこまでしてくれるの?」



「尊敬する人に軽蔑されたくないからかな。この2ヶ月くらい学校中から腫れ物のように扱われてどこにも居場所が無い状況の中、居場所をくれた女神のような人がいるんだけど、その人にだけは胸を張って会える自分でいたいんだ。

 それに鷺ノ宮が逮捕されて復讐心を強く持っているのが疲れたっていうのもあるかな」



ふと二之宮さんを見ると、俺の方を見て驚いた表情をしている。


なんでだろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る