三年生・秋の宵編
第81話 選択肢を選び、√分岐を選択する
学祭も終わり、野球の大会も終わり、修学旅行も終わり、残すことはもう殆ど無い、そんな今日この頃。日が暮れるのも、太陽が沈むのも早くなったこの頃。秋の宵。今日も今日とて生徒会の雑用で俺たち三人は集まっていた。あれからなにかあるわけでもなく、何か起こすわけでもなく、何も起きずに日々は過ぎていた。表では平静を装って、何もないという風に過ごしていた。過ごしてきた。しかし、彼女たちの目線はいつも忘れてないよね、大丈夫だよね、と問いかけてくる。
大丈夫だ、問題ない。答えはすでに出している。
もちろんそれまでに何度も自問自答したし、答えては否定し、また答えにしては否定してきた。それが答えであると、本当に良いのかどうかを問い、それ自体を疑い、疑問視して、問い質して、理論を述べて答えを答えにした。俺は選択肢を選び、√分岐を選択する。問題はそれをいつ伝えるかどうかだ。どうやってというのは、それは決めている。口頭で言う。直接話す。それが筋だし、責任の真っ当な果たし方だと思う。だけどなかなか言い出せなかった。うまく言い始めることができなかった。その時点でかなりのチキン野郎なのだが、仕方がなかった。こんなことは初めてだったのだ。
その時。スマホが揺れた。俺はメッセージを受け取ったのだ。相手は大垣先生。なるほど、就職の件か。
俺は終わりかけの雑用を手早く終わらせ、そして恋瀬川に渡した。
「悪い、ちょっと大垣先生に呼ばれてな。行かないといけない」
「そう。いってらっしゃい」
「すぐ戻る」
俺はその場を後にした。別に戻らないでそのまま帰っても良かったのだが、あとからしたら実はこれが功を奏する事になる。
俺は職員室に着くと、ノックをして扉をそっと開けた。
職員室はいつも通りにぎやかであった。雑多に雑踏が雑音であった。俺は目当ての教師の机を見つけると、そこに向かった。
「やあ、九郎九坂。呼び出してすまない。逢引中だったかな」
「嫌な言い方しないでくださいよ」
「悪い悪い。いつもの場所でいいか」
「はい」
俺と先生は喫煙ルームに、パーテーションで仕切られた向こう側に移動した。俺は小さなソファに座る。
「この間の新聞販売店だが、面接と筆記テストを是非とも受けてほしいとのことだったよ」
「本当ですか。ありがとうございます!」
「九郎九坂ならきっとうまくやれる。面接も恋愛も」
「……まあ、なんとかしますよ」
「答えは決まってるのか」
「一応、はい。言い出せるシチュエーションが見当たりませんが」
「じゃあ、行って来い。そういうのは早い方が良い」
そう言った大垣先生は一つの鍵を取り出して、俺に突き付けた。
※ ※ ※
「渡良瀬、まだ残っているか」
俺は電話をして渡良瀬を屋上に呼んだ。大垣先生からもらった鍵で、許可をもらって入ったのである。確かに、シチュエーションとしては絶好かもしれない。
ガチャリ。
後ろの扉が開いた。渡良瀬がやってくる。まだ冬服前の、夏服の制服のワイシャツがバタバタと屋上の強い風で音を立てて揺れる。
「ふたみん、大事な話って何?」
風に負けないように渡良瀬が言う。
「俺は渡良瀬彩芽とは付き合えない。すまない」
風がやんだ時、俺はそう言った。
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