第75話 修学旅行 初日そのさん

 ホテルに着いてからは、荷物を部屋に置いて、支度をしてすぐに夕食だった。夕食は大広間に各個人にお膳が一つ割り当てられていた。適当に座れー、と大垣先生が叫んでいたので適当に空いてるところに座る。隣には計ってか、香取が座った。向かいを見ると、女子の席には恋瀬川と渡良瀬がいた。なんだ、いつものかよ。



 鍋というか、この火のついているものはすき焼きだろうか。あ、お品書きがある。ふむふむ、ブランド牛のすき焼きか。こっちは茶碗蒸しか。これは、白米。これは……。



「九郎九坂くん、いただきますを前にあれこれ触らないの。はしたないじゃない?」


「あっ、悪い悪い。つい、な。うっかり」



 恋瀬川にたしなめられちゃった。しかし、こういうのあまり無いと言うか、普通はないと言うか、あっ、写真とっとこう。



「はしゃいでるな」



 香取に苦笑いされた。



「え? はしゃがないの、普通」


「まあ、気持ちは分かるけどな」



 はしゃがないのか、普通は。俺はまだ子供ということなのだろうか。それとも単に節操がないということなのか。まあ、いずれにしても、いずれでなくても、こういう時にわくわくできない大人にはならない、忘れないように生きていきたいものだと、そう思った。



 食事を終えると、時間制で風呂に入った。大浴場というのはとてもいいな、と思っていた。また、思春期特有の発達具合の差によるあれこれは端折ることとする。くだらないからな、そんなことは。



 部屋に戻ると、就寝まで時間があった。四人部屋なので、俺は香取を連れ出してロビーに出た。何か飲むか? そうだな、瓶コーラがあるじゃないか。これにしない? ということで瓶コーラ二本。軽く持ち上げて、ぶつけないで乾杯し、飲んだ。独特の炭酸が広がる。




「今日は失敗だったな。告白を事前に止めることはできなかった。油断と言うか、隙を突かれてしまった。明日以降はそういうの無いようにして、無事に過ごしていこう」


「そうだな」


「なんだ、乗り気じゃないな。お前のことなんだぞ、香取。お前が『告白をされそうだ、なんとかしてほしい』と相談するから」


「いや、そうだな。すまない。作戦を教えてくれ」


「明日は青森の残り、ねぷた祭りのねぷた村とそれから秋田だ。自由行動がキモとなるだろう。やはりいつものメンバーで集団行動し、そして俺が隣に居ることが監視にも抑止にもなるだろう。これしか無いと思う。あとは、まあ、あるとしたらっていうのはあるけど、それは明日次第かな」


「なんだ、濁すんだな」


「向こうの出方でかた次第だから。まあ、その時その時でなんとかするよ」


「そうか。任せるけど」


「まあ、楽しんでいこうぜ。中学の修学旅行は生涯に一度だけだ。お前も仲の良い友人とか誘ってくれていいんだぜ。俺の代わりができて助かる」


「じゃあ、そうだな。多々良とか」


「ああ、同じ部活なんだっけ? そういや今日居なかったな。じゃあ、明日は呼ぼうか」


「そうだな」



 俺達はそれからコーラを飲み干して、瓶入れに入れて部屋に戻った。コーラは甘くて、炭酸で、きっと思い出の味になる。そんな気がした。



 こうして修学旅行の初日は終わった。修学旅行はまだまだこれからだし、実際俺にとってはこれからのことの方が問題であった。

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