第72話 結果報告と頼み事

 翌日。



 朝のホームルームの前。登校してきたらいつものようにスマートフォンを籠の中に入れ、そして自分の席に着いた。教科書を机に入れていると、香取がやってきた。



「おはよう、九郎九坂くん」


「おはよう、香取」


「それで、昨日の話はどうなったのかな」


「ああ、それな。そうだな……」



 俺はスマートフォンが手元になかったため、ルーズリーフを一枚取り出し、説明しながら、だいたいは読み上げながら箇条書きをした。



 ・碓氷は修学旅行中、五人の輪の中に入って行動する。五人とは、香取、九郎九坂、恋瀬川、渡良瀬、多々良の五人。


 ・他の女の子からの連絡は全て断れ。俺を理由にして。一緒に行くことが決まってるとか、そうやって。しつこいようなら俺に許可を取れるか聞くテイで俺の連絡先を教えて連絡させろ。なんとかする。


 ・二人きりになって告白されることはなくなった。二人だけというのは、禁止にした。これは約束した。



「まあ、こんなところかな。碓氷は自由時間俺たちと一緒にいるけど、まあ、それは妥協点としてかな。そんなものだ」


「なるほどな。これなら全ての条件を達成できるわけだ」


「まあ、そういうこと。やってることは一年前と変わらねえよ」



 俺は香取に、多々良へ修学旅行のときに一緒に行動してくれるかを聞いておいてくれと頼んだ。彼は了承した。そして紙切れ一枚持って去っていった。



 今度は俺が立ち上がった。



 恋瀬川の席へ向かう。



 俺が来ると、そこにおしゃべりのために恋瀬川の席に居た渡良瀬と合わせてふたりが、こちらの方を向いた。少しというか、かなり照れくさい。



 ふたりは、何だろう? という顔であった。



 こういうのは、たぶん初めてだ。俺からなにか言い出すのは、おそらく、間違いでなければ、たぶん。初めてだと、そう思いながら。



 俺はなんとか、言葉を紡いで、言った。



「あの、今日の放課後、いいか。香取のことで話がある」



 恋瀬川と渡良瀬はそれを聞くと、安心したように、安堵したように笑って、笑顔で答えた。



「ええ、構わないわ」


「いいよ、大丈夫」


「そうか。それなら、そういうことで。よろしく」



 俺はそれだけ言うと、足早に去った。



 後ろではにぎやかな笑い声が、主に渡良瀬だが、二人の笑い声が聞こえてきたような気がした。






 ※ ※ ※











 その日の放課後。



 委員会には遅れると言って、俺は生徒会長室へ向かった。



「どうぞ」


「失礼します」


「九郎九坂くん。待っていたわよ」 


「ふたみーん、やっほー」


「ああ、すまない。少し待たせた。委員会にな、連絡していて」



 俺は渡良瀬と、向かい合うようにソファに座った。恋瀬川はいつもの玉座だ。



「じゃあ、早速だがお願いがある。修学旅行のことだ。修学旅行、自由時間の時に俺と香取と、あと多々良と一緒に行動してもらいたい。五人一緒に居て、仲良しグループみたいなので香取に言い寄る女の子を追い払う作戦だ。事前に連絡してきた女の子たちにはすべて断りを入れている。二人きりにはなれないと、それは駄目だと強く念押ししている。実際、修学旅行のときには俺が極力傍にいようと思う。香取を一人にはさせないようにする。隙を見せないようにするわけだ」


「そう。つまりあなたと、九郎九坂くんと行動すればいいのね」


「ああ、まあ、そうだな」


「そっか、でも、それだと恋は叶わないのかな」


「一人だけ特別に許しているやつがいる。碓氷陽葵ウスイヒマリという女の子だ。彼女も修学旅行の自由時間に同行する。彼女だけは、香取と一緒の時間を共にできる機会があるというわけだ。なにせしつこかったからな。メッセージ程度では引き下がらなかった」


「じゃあ、六人で行動するのね」


「そうなる。その、それでも頼めるか」


「断らないわよ。九郎九坂くんの策略で、お願いだもの」


「そうだね。香取くんだけじゃなくて、女の子にも譲歩したのは、ふたみんの良いとこだよね」



 策略とか、良いとことか、そんな感想を持たれたわけだが、それはどちらも間違いで、でもそんなに間違ってはいない。



「それじゃあ、よろしく……頼みます」


「はい、頼まれました」


「ええ、わかったわ」



 それからは修学旅行の話をした。どんなところに行くのかとか、楽しめるといいねとか、みんなで行動できるのは楽しみとか。なんかそんな事を話して、いや、渡良瀬が話していただけで、あとの二人は頷いていただけかもしれないが、しかしまあ、話をしていてそれなりに過ごした。



 ある程度時間だなと、頃合いを見計らって、俺は声をかけた。



「そろそろ。おれ、委員会の仕事残してるから」


「そっか。じゃあ、また明日だね」


「さようなら、また明日。九郎九坂くん」


「ああ、じゃあな」



 俺はそう言って二人と別れて、いつもの場所へと、図書準備室へ仕事と言うなの任され事を果たしに、向かって行ったのであった。


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