第55話 誘い誘われ

「ごちそうさまでした」


 俺と恋瀬川はケーキを美味しく食し、そして帰宅しようと準備をしていた。



「ねえ、今度の週末、来週にお祭りあるじゃない?」


「祭り?」



 この時期の祭りというと……ああ、例大祭か。神宮の。中の島の公園とか、神宮やら表参道やらで出店がたくさん出るやつだ。妹の茜と一回行ったことがある。



「神宮のお祭りなら、そうだなあるな」


「ね、行こうよ。ほら、三人で」


「三人で?」



 恋瀬川と渡良瀬仲良しコンビで行くんじゃないのか? そこに、三人ということは、俺が入って三人ということか? いいのか、俺みたいなやつがついていって。役には立たないぞ、たぶん何も。



「わたしは構わないけど……」



 恋瀬川が言う。こいつは生徒会長の仕事だって大変だろうに、断らないんだな。俺はそう思った。



「ふたみんくんが一緒なら、心強いですね。ほら、お祭り人混みで危ないじゃない?」



 渡良瀬母親を見て、恋瀬川を見て、それから渡良瀬彩芽を見た。



「いいのか、俺も一緒で」


「何を今さら」



 渡良瀬はそう、言った。来るのは当たり前だと、そう言わんばかりに。













 ※ ※ ※













 そしてそのお祭り前日。夕飯を食べていたときであった。



「というわけで、お兄ちゃん今度、ともだ……知り合いとお祭り行ってくるから」


「お兄ちゃんが女の子とお祭りに行く!? ……そうかそうか、お兄ちゃんはもうそんなに成長したんだね。あ、それと、茜も同じクラスの女の子とお祭り行くから。寝坊しても起こしてあげないから」


「お、おう……」



 お兄ちゃんは一言も女の子と行くとは言ってないんですけどね。いや、まあ、事実か違うかって言われたら、事実なんで、はい、そうなんですけども。



「茜は学校楽しいか? うまくやっているか?」


「なにその、テンプレ心配性の親質問。お兄ちゃん親じゃないし」


「いや、そりゃ気になるだろ。友達できたかとか、授業は分かるかとか、いじめられたりしてないかとか」


「あのね、お兄ちゃん。祭りに行くほど仲の良い友達出来たし、授業は分かるし、いじめられたりもしていないよ。茜より、友達のいないお兄ちゃんのほうが心配だよ。担任はよく知っている大垣先生だから、まあ、たぶん大丈夫だろうけど。でも、大丈夫? 新しいクラスでひとりぼっちで惨めになってない?」


「そうだな……ひとりぼっちのことは多いが、でもひとりきりではない。知り合いが増えたからな。生徒会長の恋瀬川、生徒会の手伝いで知り合った渡良瀬、学年一のイケメン香取、香取と同じ部活の多々良、あとは野球部の国崎とか。ほら、たくさんいるだろう、知り合い。挨拶とかするんだ。まあ、挨拶ぐらいしかしないけど、同じ班の恋瀬川と渡良瀬とは世間話くらいはする。そう聞くと、ほら、やっぱり少し充実しているようだろう?」


「ふーん。そっか、そっか、お兄ちゃん」


 

 適当に流された……。なんだよ、そっちから聞いておいて。いや、聞き始めたのは俺の方か。でも、聞かれたのは間違いなく聞かれたはず。だから答えた。でも、知り合いを作れと言ったのは茜じゃないか。茜に言われたから、義妹いもうとに言われたから作ったんだ。知り合い。まあ、俺のため思っての言葉だったんだろうけれども、あれは。それくらいはわかってる。お兄ちゃんわかってる。義妹を理由にしていることも、わかってるんだ。



 何かを理由にしないと行動できないことも、十分にわかってるんだ。

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