第49話 ボランティア当日

 土曜日。つまりは清掃活動ボランティアの日。



 俺は学校まで制服で行き、あれ、制服で良かったかな、私服だったかな、制服でいいよな、いや違ったらどうしよう、ええと、こわいな、こわいな、と思いながら登校して、十時の待ち合わせ時間に間に合わせた。ちなみに制服で良かった。……が、二人は学校指定のジャージだった。慌てた俺は学校に置いてあった、自分の予備のジャージに急いで着替えた。



 恋瀬川と渡良瀬が前を歩き、その後ろに生徒会一行が続き、そしてその後ろ、最後尾の、つまり一番うしろに一人ぼっちで俺はついていった。いつものことである。



 しばらく徒歩で歩き、そして北青学園に着いた。恋瀬川が代表して挨拶している。そしてなにやら、誰かを呼んでいる。……俺?



 後ろを振り向いてみたが、しかし、俺は最後尾なので後ろには誰もいなかった。これで呼んでいるのが俺ではなく、他の誰かだった場合ものすごく恥ずかしいが、俺はそれとなく、仕方なさそうに前へ出てみる。



「九郎九坂くん、はやく」



 やはり俺であった。俺で間違いがなかった。良かった。恥ずかしい思いをするところだった。前に呼ばれるのも、それはそれで恥ずかしいんだけど。



「な、なんでしょう……」


「二海くん、お久しぶりです。筑和です」



 筑和。筑和明海。明るい海で明海だったか。彼女もまだ生徒会に残っていたんだな。



「ああ、久しぶり。まだ、生徒会長やってるのか?」


「はい。まだやっています」


「そうか。恋瀬川と同じだな」



 三年生になっても生徒会長をやるというのは、それは言葉で言い表すほど簡単ではなく、きっと難しい事なんだろう。それでもやり遂げているというのだから、彼女も、また彼女も力量のある人間であるということだ。



「二海くんには、とてもお世話になって」


「? 俺は特に何もしていないと思うけど」


「またまた、ご謙遜を。わたくしね、わたくし、それ以来わたくしの気になる殿方なんですのよ、二海くんは」



 その言葉に恋瀬川と渡良瀬が一斉にして、二人して振り向く。いや、知らねえよそんな事。



 俺は適当に言い逃れる。



「ええと、今日はよろしく」


「ええ、よろしくお願いしますわ」



 俺たちは道具を受け取りに、筑和の案内を受けた。



 そうして清掃活動ボランティアは始まった。



 まずは歩道を歩く。煙草の吸殻を中心に、トングでゴミを袋に拾い集めていく。途中、ビニール傘の残骸を見つけた。でかい収穫物だ。俺はそれを袋に詰める。穴が空きそうである。取り出して、少し分解して、それから入れ直した。他には潰れた缶とか、ペットボトルが見つかった。片方の手袋も多い。大人から、ちびっ子まで。雪の中から、雪が溶けてから出てきたモノだと、そう容易く想像がつくものが多かった。



 ちなみに、ボランティア袋というものがあり、今回集めているゴミ袋にはこれを使用している。市から無料で提供されているものであり、まとめて燃やせるゴミ・燃やせないゴミとして処理してくれるボランティアには必須のゴミ袋である。一人二枚も渡され、そんなにいらないやろ、必要ないだろうと思っていたが、堕天使にでも使われて捨てられたんじゃないかっていう、そんなビニール傘の残骸を拾った俺である。袋は二枚必要だった。先見の明を持って渡してくれた北青学園には感謝しなきゃだな。



 俺は適当に集め、ひとりでぐるっと一周してきて、俺は二袋を掲げて帰還した。恋瀬川たちも、北青学園のメンバーも、それぞれに集めて帰ってきた。意外とゴミはたくさんあり、なんだかんだで集まるものである。その重量感が、達成感に近いのかもしれない。そう思うと、なるほどもう一周してきても良いかもしれないとさえ、そう思えてしまうから不思議だ。しかしあっという間に二時間弱。もうお昼だ。俺は燃やせるゴミと、燃やせないゴミとを仕分けるのを手伝いながら、早く帰りたいなとか、そんな事を思っていた。ゴミを仕分け終えると、それをゴミステーションに出して、終了。ゴミステーションまでは俺が運ぶことになった。なんか、恋瀬川たちに押し付けられたのだ。こういう時ボッチは理不尽にいつも負ける。ひとりだから反対しようにも反対勢力がいないのだ。仕方なく、俺はひとりでゴミをゴミステーションに運んだ。この時、うちの生徒会役員がひとりでも、向こうの生徒会役員がひとりでも手伝ってくれてもいいんじゃないかと、普通に考えれば、そう考えるべきだった。そうすれば、この事態に、この状況に気づいたかもしれない。いや、悟ることができたかもしれない。



 俺はいつの間にかひとりぼっちであった。そしてそれはいつものことであった。



 恋瀬川からLAINE! のメッセージが来ていた。



〉北青学園の応接室でみんな待っているわ。はやく来なさい




 ひとりぼっちで置いてけぼりにしておいて、まあまあな言い分である。俺に最後の仕事を押し付けておいて、なかなかの言い分である。ひとつ文句でも言ってやろうかと、俺はそう思いながら、場所を思い出しながら応接室へ向かった。



 扉を開けた時、そこは既に真っ暗で、誰もいないかのようであった。

 

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