続・ひねくれぼっちにラブコメなんて有り得ない!?

誕生日編

第47話 誕生日、祝して第二期第一話にして最終回!? そして新たなる孤独

 四月になった。妹は無事に入学し、俺よりも早く家を出て徒歩で登校している。自転車通学の俺とは時間が違うので、一緒にはならなかった。たまには一緒に行こうぜと誘うのだが、なんだかんだはぐらかされてしまっている。いつかはできるといいな、と思う四月であった。



 本州は桜が満開のようだが、こっちではまだ桜は咲いていない。桜は来月、例年は五月のゴールデンウィークが満開のピークだ。早くて四月の末に咲き、ゴールデンウィーク前後で満開のピークを迎え、それがすぎると葉桜となってしまう短き春。まだ肌寒いくらいで、まだ冬なんじゃないかと思うほどだってのに、暦は季節感とズレながらも過ぎて行く。そう。四月とは、あっという間に過ぎて行く月なのである。だから、こんな指摘を、もう過ぎたことを指摘されることなど、思ってもいなかったのである。



「九郎九坂くん、あなた、四月四日が誕生日だったそうじゃない」



 それは恋瀬川の一言であった。



 それはクラス替えが始業式に行われ、間違えて二組に入りそうなところを慌てて新しいクラスである一組に入り、出席番号順だった席順はあっという間にくじ引きで席替えが行われ、奇しくも同じクラスになった恋瀬川と渡良瀬と同じ班になり、そして俺はそんな班で取っていた給食中の話題の一つとして、そんな話を振られたのだった。



 またこのメンバーが揃うとはな。しかも、同じクラス、同じ班。何か仕組まれた陰謀すら感じる。



「え、ふたみん四月誕生日なの? 超早生まれじゃん」


「え、ああ、まあな」



 早生まれ。それは一月一日から、四月一日までに生まれを誕生日とする人のことを言うのだ。だから正確には俺は該当しない。



 早生まれとは、たとえば、小学一年生で考えると、生まれた年を新年一月一日ごとに数えた数え年を数えたとして、数え年七歳で入学する。具体的には、満六歳で早生まれの子は、六歳になったばかりだが、数え年で七歳という扱いで小学一年生で入学する。四月二日以降の生まれの人は、前年に六歳を迎えており、入学する年に七歳となる年で入学している。数え年と、満年齢としては同じ七歳だが、その年の一月一日から四月一日までを六歳で迎える人と、四月二日以降に七歳を迎える人で、差ができる。だから早生まれ。四月四日生まれの俺は、早生まれには該当しない。既に十五歳を迎えたことになる俺は、早生まれではない。早いか遅いかって言うと、遅いってことになるのか? 人間実際年を取るのは前日の二十四時だっていうからな。四月一日生まれが早生まれ扱いなのも、実際年を取るのは三月三十一日だから、ってことらしいしな。そこまでを早いと言うなら、俺は遅いのだろう。遅生まれ、ですかね。



「それなら誕生日祝いやらないとね!」


「え? ケーキなら家族で食べたから別にいらないんだけど」


「即答!? えー、いいじゃんー、やろうよー、知らなかったから少し遅くなっちゃったけど、でも、いいよね、ね、りうりー?」


「ええ。いいんじゃないかしら」



 恋瀬川まで賛成するのか!? 



「なんだ、なんか面白そうな話ししてるな」



 ……香取。香取香平も同じクラスだったな。給食の食器を下げに行くところみたいだけど、いいのか? 下げなくて。俺なんかに構ってると落として割るぞ。



「九郎九坂くん誕生日だったんだね、おめでとう!」



 俺はその後ろから祝福してきた多々良に会釈して応えた。そう、このクラスには多々良もいる。全員集合だな、このクラスは。



「おっ、そういやこの間だったな、九郎九坂。おめでとう!」



 担任の大垣先生も飲んでいた牛乳パックを置いて拍手を始めた。香取も拍手する。すると、香取くんどうしたの? という女子が話を聞いて俺を祝す。そしてそれはクラス全体になった。全員がいつの間にか祝杯ムードとなっていた。


「おめでとう」


「おめでとう」


「おめでとう」



 拍手、拍手、拍手。



 ……エヴァの最終回か、これは。



 期せずじてして起きた祝杯の渦に、これは当の本人がなにか言わなきゃ収まりそうもない雰囲気になってしまった。恋瀬川と香取。そして渡良瀬。この三人に大垣先生を加えたらとんでもない影響力が生まれることを、俺はこの日実感した。改めて知った。思い知らされた。



「あ、ありがとうございます……」



 少し立ち上がって、そう言うと、香取は満足そうに離れて行った。彼がいなくなると、出来上がった渦のような輪はなくなった。俺も座り、ようやくヒト心地落ち着けると思った。



「なんか、すごかったね」



 渡良瀬が言う。まあ、確かにすごかったな。



「あなたみたいな人がたくさんのひとに祝われることなんて、そうそうないんじゃないかしら。噛み締めておいたら?」


「皮肉かよ。……まあ、そうするかな」



 クラスをざわざわさせるほどの、そんな二人からの言葉に俺はいつも通り答えた。まだ四月だっていうのに、クラスはどこか結束していた。



 ただ一人を除いて。



 自ら孤立を望む彼を除いて。



 孤独を選んでいる彼以外で。




 ちなみに、今回は俺じゃない。俺も孤独主義、ひとりぼっち党、党首であるが、しかし今回の一人ぼっちは俺じゃない。俺には期せずじて、知り合いが何人かいるからな。彼らに話しかけられると、挨拶をされると一人ぼっちではなくなってしまう。俺の学生生活も変わったものである。まあ、それでも群れることを良しとするつもりはないけどね。そういう意味では、彼のように振る舞うことは、ある意味では昔の理想そのものだ。



 孤独とは一人ぼっちのことである。



 その点では今も変わらない。ぶれてはいない。否定はしないし、肯定だったらいくらでもする。理論はここに根付いている事は変わらないし、ヒトはヒトリであるべきだと、そう考える考え方自体は変わっていない。しかし、妹との約束を破る訳にはいかないから、仕方なく人付き合いも少しはやってやろうかと、そう思っただけだ。



 だから、現時点で俺は彼のことを問題だとは何も思っていないし、何か問題だと思って行動するつもりはなかった。そんなことより、誕生日のお祝いの言葉を、せっかくだから言われた通りに、せいぜい噛み締めて置こうかな、なんて思っていただけである。

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