第46話 二年生編最終話

「卒業式は三月十日に行われるわ。在校生の出席はなし。在校生代表として生徒会長の私が祝辞を贈ることになるの。だから、基本的にやることはあまりないわ」



 残る大きな行事は卒業式くらいだと思っていたので、生徒会は特にやることないんだな、とそう思った。



「毎週の定例会議とか、学校生活改善のための検討とか、補修とか、下駄箱を新しくするとか、音楽室の機材とか、やることはたくさんあるのよ」


「でも、それは生徒会のやることだろう? 俺は生徒会長の補佐だからな。やっても今日みたいに書類整理だ」


「あら、決意表明のときに言ったと思うけど、生徒会のメンバーは生徒自身なのよ。生徒の協力なしでは、生徒会は運営できないわ」


「そうかよ」


「そうよ」


「じゃあ、手伝いが必要になったら、またこうやって呼んでくれ」


「ええ、そうするわ」


「じゃあ、終わったから俺行くわ。じゃあな、渡良瀬、恋瀬川」


「うん! じゃあね。また明日」


「ええ、また」



 俺は書類一式を恋瀬川に渡して、生徒会長室を出た。



 卒業式は三月十日、終了式、春休みの初めは三月二十日。翌月四月八日が、始業式で、六日が入学式。入学式は新入生とその保護者、在校生代表として生徒会長が出席する。つまり、このときも特に仕事はない。俺はイチ在校生として春休みを満喫していればいいのだが、しかし我が家としてはそうは行かない。



 妹、茜が中学校に入学するのだ。



 親はもちろん、当人も出席する。うちの学校に妹が入ってくる。なるほど、それは朗報だな。とてもめでたい。入学となると、もしかしたら一緒に登校するかもしれない。などと考えてみたりする。何か一緒にやるかもしれない。そう思ってみたりする。生徒会を手伝っているとしたら、妹は喜ぶだろうか。何を喜ぶんだ? などと、とんちんかんなことを思ってみたりする。そういう意味では、少し浮かれてるかもしれない。しかし、妹からしてみれば、それは少しウザイのかもしれない。学生生活にまで関与して、干渉してくる兄とかウザイかもしれない。クラスまでやってきたりするのは、それは少々ウザイかもしれない。ううむ。自重しておこうか。帰りに迎えに行って一緒に帰るとかもやめておこう。妹に嫌われたら、お兄ちゃんたぶん立ち直れないからね。



 

「さっむー」



 今日も、寒い一日であった。降り積もった雪は、足で踏みしめるとミシミシと音を立てる。ひとりで帰る雪道は、白くて寒々しい。中身の少ない、軽いリュックサックを背負って帰宅する。



 学校から離れてしばらくすると、俺は音楽を聞き始める。スマートフォンに入れたサブスクの音楽のサービスを、無線イヤホンで。帰宅時にしかできない、登校時にはできないちょっとした道草だ。



 空気が冷たいと、イヤホンを取り出す手もかじかんで動きにくくなる。落とさないようにそっと気をつけながら、スマートフォンと接続する。音楽が流れ始める。



 さて、エンディングである。



 特段行事もなく、用事もなく。何もなく中学二年生は終わり、中学三年生を迎える。だから二年生編はここまででおしまい。ありがとうなどと云う言葉は使いたくないが、しかし感謝はするべきかもしれない。ここまでの人達に。ひとりきりでは、決して訪れることがなかったであろうイベントの数々に。しかし、これは一つの区切りであって、終わりではない。まだ三年生編もある。中学校生活としても、三分の二が終わったに過ぎない。

 

 

 別に、これは次回作への布石を打つ訳では無いが、しかし来年もイベントとして起こるのは今年と大差ない出来事たちであろう。俺の人脈が増えて登場人物が増えても、起こる出来事は変わらないし、俺の生き方は変わらない。



 俺はいつもひとりぼっちで、孤独を好み、隅の方にいて、端くれみたいな存在で。何も変わらずに今日も、明日も生きていく。



 ひねくれぼっちのラブコメは、まだ続く。





 


 以上、ひねくれぼっちにラブコメは有り得ない!?


 中学二年生編 了

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