第43話 居場所


 生徒会役員選挙が行われた。


 生徒会長は立候補一名、信任投票にて当選。現二年生の恋瀬川凛雨。



 他、役員は全員現一年生。春から二年生になる生徒が全員当選した。



「……生徒会役員は以上紹介された新しいメンバーになりますが、生徒会のメンバーは生徒の皆さん、生徒一人ひとりです。規約にも、理念にもそう書かれています。良い学校生活のため、皆さんのご協力をお願いしていきたいと思います。以上で新生徒会長となりました、恋瀬川凛雨の決意表明と致します。ご清聴ありがとうございます」



 恋瀬川が壇上で一礼した。全校集会で、新生徒会役員が紹介され、そして生徒会長恋瀬川の決意表明であった。それはつつがなくおわり、全校の拍手で締められて、後は降壇するだけ。それだけだったはずなのに。恋瀬川はマイクに戻って、一言付け加えていった。



「あとついでに、二年生の九郎九坂二海くんには生徒会長補佐をこの場で任じます。役員と生徒の間で活躍してくれることを望んでいます。あと、これは大垣顧問からの特別推薦ですので、よろしくお願いします」



 じゃあ、よろしく。



 恋瀬川は颯爽と、世界一凛としてかっこよく去っていった。









 ※ ※ ※





「りうりー、生徒会長就任おめでとー!」


「ありがとう。どこかの誰かさんに担がれて当選したようなものだけど」


「そんなことはない。少なくとも、俺は担いでない。清き一票を投票しただけだ。……っていうか、それよりも、おい。あれは何だよ恋瀬川。全校生徒の前で宣言しやがって。聞いてないぞ」



 俺は生徒会長室て書類の整理に追われながら、文句を言っていた。さっそく補佐として使われていたのである。



「あら、だって事前に言わなかったもの。それは聞いてなくても仕方ないわ」



 おい。



「りうりー、あたしは? あたしは?」


「渡良瀬さんも希望なら補佐を継続できるわよ。人手はいくらあっても足りないからね」


「やったー! よろしくね、りうりー!」



 補佐官は二人もいらないのでは? やはり俺はいらないから帰ってもいいかな。



「あなたは特別推薦だから駄目よ。せいぜいわたしにこき使われなさい」


「よろしくね、ふたみん!」



 ……なんだよ、ちくしょう。やっぱり恋瀬川を生徒会長になんてするんじゃなかった。俺が生徒会長になって恋瀬川をこき使ってやるんだった。失敗したな、ちくしょう。



 まあ、その仮定は有り得ないんだろうけども。俺はそう思いながら手を動かしていた。



 その日は雪が積もる日であった。深々と降りしきり、次々と積もっていく。ストーブもガンガンと焚かれて、ガンゴンと音を立てている。紙の擦り切れる音と、ストーブの音。雪によって静謐で静かになった部屋にはそれだけが、聞こえていた。炭酸の音を立てるのさえ、煩わしく思えるような、そんな温かい静かさ。ピンと張り詰めた緊張感のような静かさではなく、決してなく、温かささえ感じる柔らかな静かさだった。だから心地よいとさえ感じるのは、多分間違いじゃないだろう。



 またこの三人で過ごすことが増えるのだろうか。四月からクラスが入れ替わろうと、この関係性が出来上がって、続く限りはこの三人で過ごすのだろう。友達ではない、友人ではない、決してない、恋人とかましてや絶対に有り得ない。他者を理由に、周囲を言い訳にして出来上がった歪な関係。不明瞭な関係性。しかし、俺はその不透明さが嫌いじゃなかった。嫌いだったら、渋々補佐の立場を受け入れることはない。全力で拒否して、拒絶して逃げている。不完全だから、不安定だからこそ、そこには確かな関係が生まれている。そしてそれは誰も認めていない。認めていない関係だ。各々が、各々の認識で、それぞれ違う捉え方で認識している。だから、全て間違いで、全てが正解だ。そうでなくちゃ駄目だ。そうでないと、駄目だ。



 だから、俺は居場所をここに見出すことができたのだから。




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