第42話 アンケート

 

 翌日。


 それから、俺は一日をかけて、まずは一年生の野球部に連絡を取って、とあるネット上で集計できるアンケートを一年生のクラス中に、クラスLAINEとかに、流してもらった。そして解答してもらった。二年生には、八組には香取と多々良。七組は生徒会役員、六組は野球部二年生、他のクラスは渡良瀬の知り合いにお願いするために、渡良瀬に。俺は全員に頭を下げてお願いした。最敬意の礼に対して、当然全員が困惑した。しかし、俺の願いに真剣さが伝わると、答えてくれた。特に渡良瀬と香取は喜んで答えてくれた。お願いしてくれたことに喜んでくれたぐらいだ。彼は「頼ってくれて嬉しい」と言い、彼女は「ようやく頼ってくれたね。こちらこそお願いします」と言った。



 そうやって一年生と二年生全体へ疑似信任投票を行ったのだった。



 そしてそれを図書館にあるコピー機で紙の束にした。紙の束をもって生徒会長室にノック無しで入り込んだ。当然ながら、恋瀬川は驚いていた。引き継ぎ用の書類にでも目を通していたのだろうか。眼鏡をかけていた。



「あなたノックを……」



 恋瀬川はメガネを外して、俺に向き合った。



「ああ、すまないすまない。ちょっと気がっていたモノでな」


「大垣先生みたいなこと言うのね」



 ? 大垣先生もノックをいつもしないのか。それは、良くないな。今度会ったら小言を言っておこう。それより。



「それより恋瀬川、これを見てくれるか」


「ええ、なにかしら」



 恋瀬川は俺の渡した紙を一枚、一枚とめくって確認していた。そして、ため息をついて、俺に言った。



「これ、あなたがやったの?」


「いや、俺は何もしていない。全校生徒が勝手にやった。恋瀬川凛雨の生徒会長続投を望む署名。ほぼ全員が署名している。ちなみに、俺も署名している」


「あなたも?」



 恋瀬川は何枚か更にめくって、そしてその文字を見つけたようだった。



「俺も全校生徒のひとりだからな。恋瀬川に生徒会長であって欲しいかと問われたから、まあ、そうだな、それがいいなと思ったから署名した」


「あなたってひとは……」


「ほぼ全校生徒全員だぜ? 周りがこれだけ言うなら、周りが理由になるなら、しょうがないよな、恋瀬川」



 恋瀬川は沈黙した。紙をめくる、その音だけが続いた。



「あなたも……」


「え?」


「九郎九坂くんも、わたしに生徒会長になって欲しい。そう言うのね」


「あ、ああ。反対する理由はないからな」


「そう」



 恋瀬川は紙を整え、机の隅に置くと、立ち上がった。



「ど、どこへ……」


「大垣先生のところへ、立候補届けの用紙を貰いに。あなたも来る?」


「いや、俺は出ないし……」


「そう」



 恋瀬川は部屋を出ていった。おれは密かにガッツポーズを決めたのは、誰にも言わない秘密である。

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