生徒会役員選挙編

第39話 生徒会役員選挙

 冬休み明け。


 俺は一人で歩いて登校して、ひとりで下駄箱へ行き、靴を履き替えて、ひとりで教室に入った。いつものとおりにスマートフォンを籠に入れて、教室の隅の席に座る。本を開いて読書をして、ホームルームが始まるのを待った。



 担任の大垣先生がやってきてホームルームが始まった。



「はい、みんなおはようございます。あけましておめでとうだな、今年もよろしく。さて、話は今月末のことになるんだが、みんなも知っての通り生徒会選挙が行われる。まあ、興味がない人も月末一週間前には立候補者が張り出されるから、顔ぶれぐらいは見ておいてくれ。立候補したいものがいた場合は、私、大垣のところに来るように。生徒会顧問は私だからな。まあ、大半は今の一年生が就くことになるだろう。三年生はあと少しで卒業。二年生も三年生になり、忙しくなるだろうからな。もちろん、三年生になってもやりたいという意欲のある者は立候補者してくれ。三年生でもできないわけじゃない。うむ、今日の話は以上! 解散!」



 生徒会選挙か……。そうなると恋瀬川は今月で引退、代替わりするのかな。そうすると、つまりは、生徒会長補佐もなくなる。そうなるのか。特別推薦だか、特別代理だか忘れたが、そのようなけったいな任も解かれるわけだ。良かった。それは良かった。俺に平穏が再び訪れる。それはとても良いことだなと、心の底から思った。






 ※ ※ ※







「生徒会長をあなたにやってもらいたいのよ、九郎九坂くん」




 は?




「私の代わりに生徒会長を務めてほしいの」




 それは放課後、生徒会長室でのこと。俺と渡良瀬、そして恋瀬川。いつもの場所にしていつものメンバー。そしていつもの言葉ではない、特異な言葉。



「な、なんでだよ。どうして俺が」


「あら? 適任だと思うけれども」


「次は今の一年生、春からの次の二年生に代替わりするんじゃなかったのかよ」


「あら、今の二年生、春からの三年生がやっても、それは何も問題ないという、大垣先生の話聞いていなかったのかしら」



 大垣先生からの話は、ホームルームのときにも、始業式でも聞いた。だからちゃんと覚えている。理解している。だから、だからである。俺は世代交代のための生徒会選挙だと、そう認識していたのだ。


「三年生がやってもいいなら、恋瀬川が生徒会を続けてもいいんじゃないのか? それこそ生徒会長を」


「今年の私の抱負、自分らしくいることなの。だから辞めるわ。疲れちゃったし。任期だし?」


「それで、その代わりを俺がやれと?」


「さっきも言ったと思うけど、なかなか適当な人選だと思うんだけれども」



 なぜ恋瀬川の中では俺の株がこんなにも高いのだ。



「どこかだ! 嫌だぞ、俺は。そんな大役みたいな、面倒ばかり抱え込みそうな、そんな役回りにはなりたくない!」


「あなた、生徒会長をなんだと思ってるのよ」



 俺は渡良瀬の方を見た。生徒会長で言ったら、彼女のほうが人選としては的確なのでは無いかと思った。スクールカースト上位だし、他人からの人気とかありそうだし。



「あたしはりうりーの意志を尊重したいな。これまで、生徒会長として頑張ってきていたし。辞めるならやめるで、いいと思う」



 だから、もう、ゴールしても良いよね……? ってか。まあ、恋瀬川が辞めること自体は悪くない。それは寧ろ大団円なのだろう。拍手で迎えてやるべきことなんだろう。俺も問題ない。特別代理補佐がなくなるのは喜ばしい事だ。



「俺も別に、恋瀬川が辞めることは、構わないと思う。辞めることは、止めないさ。でもそのことと、俺が生徒会長をやることは別問題だ」


「すぐに決めなくてもいいのよ。まだ二週間ほど時間があるわ、ゆっくり考えてみて」


「いや、でも俺は……」



 渡良瀬も両手をぐっと胸の前で握りしめてこちらを見ている。いや、まじかよ……。



 俺は新年早々思わぬことを考えねばならなくなってしまった。



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