第36話 年末年始
冬休みはクリスマスから始まり、年末年始を挟んで三週間弱のお休みである。それと、北国の冬にはこたつはない。あれは本州の文化だ。個人的にはそう思う。こっちは基本床暖房、床暖である。床暖がなければ、ストーブ。床に敷く電気式のやつとかもいい。エアコンは無い。エアコンで暖を取ろうなど、そんなぬるくて寒いことはしない。あとは、まあ、そうだな。フリースとかを着込んで、ぬくぬくと過ごすのだ。
大晦日。紅と白の歌合戦をみながら、つゆだくのそばをすする。あと毛蟹を茹でてある。これは毎年恒例のやつ。大晦日にはうちの家族は毛蟹を茹でて食べます。
おせちはお正月、一日からである。こっちの地方の人は大晦日から食べる習慣があるそうだが、しかし、我が家は違う。母親が内地の人だからかな。
「あっ、そういえばお兄ちゃん。茜、初詣友達と行くから」
「ほーん、そうか。いっといで、行っといで」
「お兄ちゃんは誰かと行かないの?」
「ん? おれ? いかない、行かない。一緒に行くような約束も、そんなやつもいないよ」
「えー、お兄ちゃんまだ友達いないの? 年越しちゃうよ」
「うるせぇ。ほっとけ」
年を越しても、越さなくてもひとりぼっちはいつもボッチだし。孤独なやつはいつまで経っても孤独なんだよ。
「でもさ、ほら。恋なんとかさんとか、いたじゃない。夏休み。お兄ちゃんと話してたよ。仲良かったりしないの?」
「恋……恋瀬川? 誰だそれは。いや、どこだ、それは。知らない。知らないよそんなところ」
「じゃあさ、渡良……さん? お兄ちゃんと話してたよ。仲良かったりしないの?」
「わた……渡良瀬? 誰だそれは。いや、どこだ、それは。知らない。知らないよ、そんなところ」
どっちも利根川水系になるのかな。知らんけど。
「そっかぁ……あ、ほら、同性の人もいた。ほら、イケメンの人。あの人は、仲良かったりしないの?」
「イケメン……? イケメン、誰だそれは。香取……香取? なんだ、それは。線香か? 知らない。俺は知らないよ、そんなモノ」
「もう、しょうがないな、お兄ちゃんは。そしたら私と行く? ついてくる?」
「行かねえよ。小学生の群れについて行ってどうする。茜が誰かと行くなら、俺は一人で行くよ、今年は。いや、来年か?」
「そっか。わかった」
妹はそれきりだった。テレビには男性人気アイドルグループが歌っていた。妹はそれに夢中のようであった。俺はそれを横目で見ながら、そばをすすった。
※ ※ ※
ごーん、ごーん。
除夜の鐘が鳴った。
新年の到来である。
海外とかだと、盛大に花火を打ち上げたり、カウントダウンをしたりして、それこそ盛大に新年を祝っているイメージが強いけど、日本はどこか
俺は居間にいた母親と妹に正座で深く礼をして、新年の挨拶をした。
それから、今どきというか、なんというか、メッセージアプリもあけましておめでとうの言葉が並んだ。恋瀬川、渡良瀬との三人の生徒会・手伝いグループチャットでのやりとり。香取個人から。多々良個人から。それと大垣先生個人から。今年は親戚一同が集まる予定はない。だから、先生とも会う予定はなかった。だから、個人でメッセージを送ったのだろう。俺にしてはやりとりする人数がだいぶ増えたように思う。友達はいないが、しかし知り合いはだいぶ増えた。これなら妹との約束を果たしたことになるだろう。つまり、妹と俺との間に取って良い一年だったと言える。新年も良い年にしていきたいものだ。
〉初詣いかない?
それは渡良瀬からのメッセージであった。俺はそのメッセージをみるなり、少し様子を見て返事をしないでおいた。やがてもう一つメッセージが来る。
〉いいわよ
恋瀬川はオーケイということらしい。矢継ぎ早にもう一つ。
〉ふたみんは? 行こう!
俺は仕方なく返信する。
〉いつですか。
〉明日! 今日だ!
……いつですか。明日ですか、今日ですか。
〉元旦に行きたいから、今日! 十時に駅前集合ね。
駅前、か。
〉お参りは、神宮ですか。
〉もちろん! 頑張って起きてね、ふたみん。
俺に遅刻は許されないらしい。やれやれ。
〉じゃあ、おやすみ
おやすみ。
俺は寝る前に妹に一言初詣の件について報告してから、それから寝ようと思った。
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