第34話 クリスマスイベント
それから約二週間後。
十二月二十三日。クリスマスイベント当日。
俺は妹を連れて会場のホテルを訪れていた。妹にはお兄ちゃんまだ友達いないの? と言われたが、お嬢様学校の女子校の生徒と最近知り合いになったと話すと、それは喜んでくれた。しかし、それが相手の生徒会の人達だということがわかると、それは友達じゃない、と言った。だから知り合いだって言ったじゃない……。
妹をバイキングに連れていき、あれやこれや料理をひとしきり取ったあと、テーブルにつかせて食事とさせた。ホテルの人が気を利かせて世話を焼こうとしたが、茜は「一人でいることは慣れていますので。そのうちに兄も戻ってくるでしょうし」と言ってそれを断った。つまり、俺は妹の元へこれから戻らねばならないのだ。生徒会の仕事とか適当にやっつけて、さっさと戻って妹と美味しい食事しよう、そうしよう。
「妹さんには少し辛抱してもらってちょうだい」
恋瀬川にそう言われた。
「なんでだよ、人手足りないのか?」
「ええ、思わぬところで使っちゃって。だから九郎九坂くん、受付をしてちょうだい」
受付? 俺が?
「あなたよ。渡良瀬さんが今一人だから大変なの。もうひとりいると助かるわ」
「そうか、まあ、なら仕方がないか」
というわけで、仕方がなく俺は受付をすることになった。
「ああっ、ふたみん。手伝い? ありがとー、ひとりで大変だったんだ」
「俺は何をすればいい」
「記名を受け付けて。あたしは入場者プレゼント渡すから」
「わかった」
それから俺は受付をした。人は次から次へとやってくる。なにせ入場無料なのだ。北青学園の生徒、親、家族、地域の人、うちの学校の生徒、親、家族、地域の人。でかいホテルを貸し切り、バイキングと軽いステージ上での催し物が行われる。それは各学校から代表して数名、である。
「やあ、九郎九坂くん。手伝いかい?」
香取だった。
「メリークリスマス、香取。その通り、俺は生徒会の手伝い。あと、ここに記名な」
「大変だな、まだしばらくかかりそうだ」
後ろの列を見て彼は言う。
「そうだな。まだ掛かりそうだ」
俺は記入を終えた彼に言った。
「妹がひとりで食事をしている。もし見かけたら声をかけなくても良いが、気にかけてくれると嬉しい」
「わかったよ」
彼は会場の中へと消えていった。
それからの受付も忙しかった。それからの、だいたい三十分くらいが忙しかった。入場者がおおよそ入り切ると、受付はがらんと静かになった。会場の中の方がざわざわと賑やかで、たぶん忙しそうだ。
「渡良瀬、俺ひとりでもうできるからさ、中手伝ってこいよ。きっと、北青の連中とかがあたふたしてるぜ」
「もう、ふたみんまたそういうこと言う。……まあ、でもそうだね。ここは任せた」
「ああ、任された」
閉まっている分厚い扉を開き、彼女は会場へ吸い込まれていった。
そして俺はひとりになった。いつものことである。
こうしているとまるで、悪いことをして教室から締め出されて、廊下に一人立たされているかのようである。そう考えると酷く惨めだ。
三十分が経った。
誰も来なかった。それもそうである。開場時間は過ぎ、絶賛パーティ中なのだ。多少の遅刻は、渡良瀬と居たときにだいたい処理してしまったし、この時間になると、遅刻というより大遅刻である。そんなことよりも、せっかくのクリスマスイベント。俺もご馳走に預かりたいものである。もう、受付なんて、誰も来ないんじゃないの? そう思ったので、俺は上司に確認の連絡を取ることにした。
〉受付、もう締めて閉めてもいいか?
恋瀬川 〉ええ、構わないわ。
了解が取れたので、俺は受付シートをまとめ、後ろの物品と一緒にし、机の上の布を片付け、テーブルを片付けた。物品とシートを手にすると、俺は体で扉を押し開けて中に入った。バックヤードのようなところに入り、適当なところにダンボール箱を置いて、俺はパーティ会場へと戻っていった。
適当に料理を見てみようかな。そんなふうに俺は思って、妹のところへと向かったのだった。
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