クリスマスイベント編

第30話 孤高なる孤独を名乗るくらい

 

 十一月。



 ときは既に寒い寒い冬であった。風が冷たい。秋というのは残暑の九月と冬である十一月に挟まれて消えた。まあ、ダムの方に家族で紅葉を見に出掛けたりしたが、それはそこまで語ることではないだろうから、割愛する。閑話としてどこかで話すかもしれないが、まあ、ショートストーリー好きなモノ好きがいればだが、居るのならそれは楽しみに待っていればいいと思う。



 登校の時、もうそろそろ自転車は寒すぎて無理かなと思うこの頃。マフラーをしっかりと巻いて、でも手袋は手がかじかんでブレーキとかわや・・になるからしていなかった。中二独特の反抗期と思ってくれていい。独特すぎるけど。



 自転車置き場へ自転車を止め、靴を履き替えて校内へ。寒い寒いと思うと、その足も急ぎ足になる。ったくまだストーブは点かないのかよ。あれは十二月からだっけ? 酷い。酷いよ。もっと早く。死んじゃう。



 教室に入った俺は、スマホを教卓の籠の中に入れてすぐに自分の席へと向かった。俺は窓側だけど、廊下側と比べるとどちらが寒いのだろうか、などと少し思った。ストーブがあるし、二重窓であることを考えると、一枚扉しかない廊下側よりはマシかもしれない。いや、おそらくそうだろうと俺は思った。まあ、寒いことに変わりはないのだが。



「ふたみん、ふたみん」



 読書中であった。教室の自席で呼ばれたのは、果たしていつぶりであろうか。授業中に寝ていても隣の人間は、よく知らないクラスメイトでさえ呼び起こすことをしない。呼ばれない。教師に呼ばれることはあったかもしれないが、それをカウントしても年数回である。実に数奇なる出来事。不幸みたいなものである。



「……渡良瀬か。なんだ、どうした」


「今日、放課後時間ある?」


「いや、俺は図書委員だけど」


「そっか、そう、だよね……」


「なんだ、なにか用か」



 用がなければ話しかけてきたりしないと思うがな。



「ちょっと生徒会でね」



 また生徒会か。今度は何だ。また面倒でなければいいが。



「それは、恋瀬川が呼んでいるのか」


「うん。りうりーが呼んでる」



 そうか。まあ、それなら。



「仕方ない、か。わかった、行くよ。委員会にはなんとか言っておく」


「うん! わかった。よろしくね」



 




 ※ ※ ※

 








「来てくれてありがとう、ふたりとも。では、始めるわ」



 今日は生徒会室だった。生徒会の定例会議。週に一度行われるそれに、俺は初めて参加した。



 俺は生徒会役員ではない。



 そう伝えると、これからお手伝いをお願いしたいことがあり、その説明を定例会議でするから、ついでに参加してほしいとのことであった。恋瀬川の二度手間を考えると、まあ、分からなくもないし、それに生徒会役員の他のメンバーとはあまり顔を合わせたことがなかった。今回の、そのお手伝いが生徒会前提を巻き込んで行われるのだとするならば、顔合わせは大事だ。生徒会役員としてもお手伝い組が誰であるのか、知りたいことだろうしな。



「……ということで、今年はクリスマスイベントを他校と合同で行うことになりました。学校は北青学園中学です」



 おいおいおい。北青っていえば、お嬢様ばかりが通う、超女子校じゃないか。本当の、生粋の、女子オンリーの学校。そことクリスマスイベント? なんだ、ラブコメの主人公はクリスマスにまでイベントをやらないといけないのか。面倒だな、それは。



「それは、向こうの生徒会と合同企画、運営ということでしょうか」


「ええ。私達生徒会と北青学園の生徒会の皆さんで協力して準備、当日の運営をすることになるわ。そのために九郎九坂くんと渡良瀬さんにお手伝いをお願いしたの。ふたりとも生徒会に理解のある優秀な人達よ」



 俺が今度は手を上げた。



「向こうは女子校だろ? 場所はどうするんだ」


「ホテルを用意するらしいわ」



 手元の資料にもそう書かれていた。ホテルのレストランを貸し切る予定らしい。そうなると、食事はホテル任せか。ホテルのスタッフとの連携も必要だ。随分と大掛かりなことをやるんだな。



「日時は二十三日日曜日。書紀の大山さんと山下くんは都合が悪いと聞いているわ。他に都合がダメな人は居るかしら」



 なるほど、だからふたり補充で呼ばれたのか。クリスマス前の日曜日だから、家族と、大切な人と過ごす人は多いだろうな。それだけに、逆にその夜を大切な夜にすることもできるわけだ。



「ここに書いてあるように、一般参加オーケイなんだな。生徒も、その家族も。なんか知り合いとか、他校の友人とかもいいのか」


「ええ、もちろんよ。このクリスマスイベント、元々、本来は北青学園の企画だったのよ。それを一般にお客さんを呼ぶならどこか他校と一緒にやれないかって。そこで大垣先生の知り合いの先生がいらっしゃって、そのツテで実現したと聞いているわ」



 また、先生のさしがねか。それで俺を招集して、生徒会に参加させようとそういう魂胆か。どこまで俺のこと好きなんだよ、構ってやりたいんだよ、なんだよ、もう、一周して恥ずかしくなってきたよなんで俺が恥ずかしがってるんだちくしょう。



「わたしは都合大丈夫です! お手伝いします!」


「俺も大丈夫だ、問題ない」



 補佐二人の都合が確認取れたところで今日は解散となった。次回は既に他校に訪問して会議を進める事になるらしい。しかし、全員で押しかけては迷惑である。そこで生徒会長と選ばれし二人が訪問して会議を進めることになった。役員からの質問は来週までにまとめられて、生徒会長が代表して質問することになった。そしてその選ばれし二人というのが、もう勘の良い人でも、そうでもない人でもお気づきの通り、九郎九坂と渡良瀬の二人であった。……って、おい!



「なんで俺なんだよ。副会長とか行けよ」


「あら、あなたは生徒会長特別推薦代理補佐なのよ。ついてきなさいよ」


「す、少なくとも女子にすべきだろ。渡良瀬が選ばれるなら、もうひとりも女子でーー」


「女子校だからって、女子しか入れないわけじゃないわ。男子だって許可があれば入れると、少なくとも先生はおっしゃっていたわ」



 まじかよ……。たとえ許可があっても、相手は女子校だから全員女子。こっちも生徒会長と渡良瀬の二人が女子。つまり、全体の中では俺が男ひとりってことになるだろうがよ。なんだよ、それ。罰ゲームか? そうなのか?



「孤高なる孤独を名乗るくらいだもの。ちょうどいいじゃない」



 彼女はそう言った。



 無茶苦茶である。




 

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