第3話:対面

ここは【カサンドラ】、貴族と裕福な平民のみが利用できる喫茶店である。喫茶店のシークレットにて3人の男女が対面していた。1人の男はアルクエイド・ロザリオ伯爵、残りの男女はレオン・ゴルテア侯爵令息、アシュリー・ゴルテア侯爵令嬢である


「御初に御目にかかります、私はアルクエイド・ロザリオと申します。以後、お見知りおきのほどを。」


「こちらこそ初めまして、私はゴルテア侯爵が子息、レオン・ゴルテアです。こちらは妹のアシュリーです。」


「・・・・アシュリー・ゴルテアと申します。ロザリオ伯爵閣下に御目にかかり光栄にございます。」


「・・・・貴方がアシュリー嬢か。御初に御目にかかります。」


「・・・・こちらこそ。」


「伯爵閣下、まずは席に座りましょう。」


「そうですね、では御二方、御先にどうぞ。」


「いいえ、伯爵閣下が御先に。私は家督を継いでいないただの侯爵家の子息にございます。」


「左様か・・・・では失礼致します。」


3人が席に座った後、シークレットルームに喫茶店の店員によってコーヒーと菓子が運ばれた。運び終えると店員が「どうぞ、ごゆっくり」と言い残し、退出した


「まずは頂きましょう。」


「そうですね。」


「えぇ。」


出された菓子とコーヒーを頂きつつ、アルクエイドは此度の招待した理由について尋ねる事にした


「早速ですが私を御招待した理由をお聞かせいただきませんか?」


「え、えぇ、そうですね・・・・アシュリー。」


レオンが促すとアシュリーはアルクエイドの方へ視線を変えた


「して、どのような御用で参られましたか?」


「・・・・伯爵閣下は私を気遣っている事を父から伺いました。」


「ああ、その事ですか。私はありのままを申し上げたまでの事です。誰だって好き好んで成金で女遊びの激しい放蕩者と結婚したい令嬢はおりませぬよ。」


アルクエイドからの大胆不敵とも取れる返答にレオンとアシュリーは思わず呆気に取られたが、すぐに我に返りアルクエイドに返答の趣旨を尋ねた


「伯爵閣下、今のは謙遜と取ってよろしいのでしょうか?」


「いいえ謙遜ではございません。隠しようのない事実です。」


「閣下・・・・恥とは思わないのですか?」


アシュリーは軽蔑しきった眼差しでアルクエイドを睨んでいた。アルクエイドはアシュリーの眼差しに怯むことなく、真っ直ぐに対応した


「アシュリー嬢、恥をかかなければならない事は沢山ある。家を残すには多少の悪評も甘んじて受けなければなりませぬよ。」


「貴方には貴族としての誇りはないのですか!」


「アシュリー、止せ!」


激高するアシュリーを必死で止めるレオン、そこへコンコンとノックがして「何かございましたか?」と店員が尋ねると、アルクエイドは「大丈夫です、御心配なく。」と声をかけた後、アシュリーの方へ目線を向け、語り始めた


「アシュリー嬢、一つだけ教えてやろう。この世の中、いつ何があるか分からない。貴族の立場にあれど明日は我が身、ふとしたきっかけで家は没落する。そう私の元婚約者とその実家のようにね。」


アルクエイドの口から元婚約者とその実家の名を聞いたアシュリーは先程の怒りが一瞬に消え、鬼気迫る雰囲気を醸し出すアルクエイドを凝視した。レオンもまたアシュリー同様、ただならぬ雰囲気を醸し出すアルクエイドにゴクリと息を飲んだ。2人の様子を見たアルクエイドはこれ以上、話しても無駄と判断し先程の話は取りやめることにした


「これは失礼しました、この場で言う事ではございませんね。」


「いいえ。こちらこそ妹が失礼を致しました、ほらアシュリー、謝りなさい。」


「・・・・申し訳ございません。」


「話はここまでにしましょう、さて・・・・」


「閣下。」


「アシュリー嬢、如何されましたか?」


「閣下はどうしてそこまで自分を卑下するのですか?」


アシュリーの質問にアルクエイドは「考えた事すらなかった、いや考える暇すらもなかった」と返した。アシュリーは哀れむような目でアルクエイドを見つめると、アルクエイドは「そんな哀れむような目で見るのは辞めてほしい、私はそれほど悲しくありません」と言うとアシュリーは「申し訳ありません」と謝罪した


「今日はお暇と致しましょう、レオン侯爵令息殿。」


「そうですね、アシュリー。」


「・・・・ごきげんよう、伯爵閣下。」


「ごきげんよう、アシュリー嬢。」


互いに後味の悪い結果を残しつつ、対面は終了した。屋敷へ帰ったレオンとアシュリーは事の顛末を父であるクリフに報告した。話を聞いたクリフは「はぁ~」と溜め息をついた後、アシュリーを嗜めた


「アシュリー、失礼のないようにはするなと申したはずだぞ。」


「も、申し訳ございません!」


「それでどうするのだ、ロザリオ伯爵殿との婚姻は?」


クリフとしてはそこが一番気になるところであり、単刀直入に尋ねるとアシュリーは迷いつつ「まだ決められません」と答えた。娘(妹)の反応を見たクリフとレオンは内心、「おぉ」と驚きを隠せなかった。今までのアシュリーだったらすぐに「御辞退致します」の返答するはずだった。だが今は決められないと返事が来たという事は脈ありだと感じたのである


「そうか・・・・それで伯爵とはいつ会うのだ?」


クリフがそう尋ねるとアシュリーは「会ったばかりなのでまだ」と答えた


「そうか。アシュリー、部屋へ戻ってなさい。レオン、お前はここへ残れ。」


「はい。」


「では失礼致します。」


アシュリーが部屋を出ていった後、レオンに詳しく尋ねた。レオン曰く、ロザリオ伯爵が元婚約者とその実家の話になった途端にアシュリーに迷いが出始めたと答えた


「そうか・・・・レオン、此度は御苦労であった。お前も下がっていなさい。」


「はい、では失礼致します。」


レオンが部屋を出た後、クリフは数日後に行なわれる夜会、初参加するアシュリーのエスコート役にアルクエイド・ロザリオ伯爵に依頼しようと考えていた


「折角の機会を逃すわけにはいかない。」


ロザリオ伯爵家との婚姻をどうしても進めたかったクリフにも事情があった。ゴルテア侯爵家は創業以来の譜代の名門貴族として押しも押されぬ地位を築いてきたが、領地の産物の著しい減少、家格を維持するために質素な生活を強いられた。財政の方は火の車ではないが、それほど余裕がない。なにより新興(成金)貴族の台頭によって地位が揺らぎ始めたのである。そこで目をつけたのがロザリオ伯爵家である。家格においては他の成金貴族よりも高く、ゴルテア侯爵家ほどではないが歴史ある由緒正しい家柄である。現当主であるアルクエイド・ロザリオは幅広く商売を展開し大成功を収めた事で国有数の大金持ちとなり一部では【ロザリオ伯爵家中興の祖】をもてはやされている


「私の代でゴルテア侯爵家を潰すわけにはいかない。」


クリフが固く決意する一方で、アシュリーは再び訓練所の下を訪れていた。そう初恋の相手であるシェズの下へ訪れたが・・・・


「あ、あれは。」


アシュリーは思わず身を潜めてしまった。アシュリーは恐る恐る覗くとそこにはシェズとこの家に仕える侍女のクラリス・ハーゲン【年齢18歳、身長160cm、銀髪ロング、細身、巨乳、碧眼、色白の肌、彫りの深い端整な顔立ち、ハーゲン男爵家の令嬢】がいた。クラリス・ハーゲンはハーゲン男爵家の令嬢であり、行儀見習いという形でゴルテア侯爵家に雇われている。アシュリーは2人の会話を盗み聞きする形で聞いた


「クラリス嬢、いいのですか仕事は?」


「今は休憩中ですので御心配には及びません。シェズ殿は今日も自主訓練にございますか?」


「えぇ、いつ如何なる時も訓練は欠かせません。旦那様や奥方様、レオン様、アシュリー様を御守りするのが私の役目です。」


「・・・・シェズ殿、その中には私も含まれていますか?」


クラリスの発言に盗み聞きしていたアシュリーはドキッとした。女特有の勘でクラリスはシェズに恋心を抱いている事に気付いたのである


「えぇ、勿論。」


シェズは屈託のない笑顔で答えるとクラリスは・・・・


「な、なら、私と結婚前提にお付き合い頂けませんか!」


「えっ!」


アシュリーはショックに似た感情でその場に動かなくなり、シェズは呆気に取られたが我に返り尋ねた


「ちょっと待ってほしい。貴方はハーゲン男爵家のご令嬢、私は一介の騎士です。結婚の前提のお付き合いは御両親がご了承されないでしょう。」


「御心配には及びませんわ。シェズ殿が騎士爵(準貴族)となれば婚姻は可能です。聞けばシェズ殿は騎士爵に推薦されていると聞き及びました。」


「そ、それはそうだが。」


「シェズ殿、私には分かっております。貴方がアシュリーお嬢様に対し身分不相応な思いを抱かれている事を。」


クラリスからの鋭い指摘にシェズの表情が曇った。側で聞いていたアシュリーもドキっとした


「シェズ殿、貴方も分かっておられるはずです。貴族の娘に生まれた者の運命を。ましてや由緒正しいゴルテア侯爵家ともなれば尚更です。」


「・・・・分かっています。」


「シェズ殿、私とてこのような事を申したくて申しているわけではございません。ただ、今のアシュリー様とシェズ殿を見ていると何やら胸騒ぎがしてなりません。」


シェズは何も言わず黙って聞いていた。シェズ自身も身分という壁の前ではどうにも出来ない事を誰よりも実感していた。それ故にアシュリーとは成るべく関わらないようにしてきたのである。それまで黙っていたシェズはクラリスの方へ視線を向け話し始めた


「クラリス嬢、騎士爵になるまで待ってほしい。」


「・・・・はい、私はお待ち申しております。」


それを聞いたアシュリーは愕然とした。アシュリーの存在を知らないシェズとクラリスは約束を交えた後、訓練場を離れた。アシュリーはというと2人が去った後、その場で座り込み、すすり泣く事しかできなかったのであった





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