第2話:話し合い
ここはロザリオ伯爵邸、今日はロザリオ伯爵家当主のアルクエイド・ロザリオ伯爵とゴルテア侯爵家当主のクリフ・ゴルテア侯爵が御茶会をする日である
「ご多忙の中、ようこそお越しくださいました、ゴルテア侯爵閣下。」
「いいえ、こちらから招待しようと考えていた所だ、ロザリオ伯爵殿。」
「ささ、どうぞ。お座りください。」
「うむ、では失礼する。」
席についたところで家令のジュードが合図を送るとメイドたちが菓子と紅茶の入ったティーポットとティーカップが運ばれた。メイドたちがテキパキと作業をし、アルクエイドとクリフの下へ紅茶の入ったティーカップと菓子が置かれた
「では頂ましょう。」
「では。」
御茶会が開始した。和やかな雰囲気になりつつ、本題に入る事となった。そう、アルクエイド・ロザリオとアシュリー・ゴルテアの婚約である
「お話は伺いました。不躾ながらお尋ねいたしますが、侯爵閣下は私が【成金貴族】である事を御存じのはずでは?」
「ええ、勿論。貴殿の事を悪く言う者もおるが、私はそうは思わない。現に国有数の資産家でありロザリオ伯爵家中興の祖だと私は左様に思う。」
「お世辞でも嬉しゅうございます。」
「いいや、貴殿は商売の他にも領地経営で領民から慕われ、また経営する孤児院で優れた人材を輩出したと専らの評判だ。」
「畏れ入りまする。ですが私の悪い評判も同時に聞いておられるはず・・・・女遊びが激しいとね。勿論、否定するつもりもございません。私も商売を展開する中で会合の場所として娼館をよく利用しておりますので。」
私がそう言うとゴルテア侯爵は渋い顔をした。分かってはいたけど、本人の前でやらないでほしいな・・・・
「侯爵閣下、アシュリー嬢の御存念は?」
「・・・・あまり芳しくはない。」
「でしょうね。余程の事がない限り、成金で放蕩者を夫に迎えたいとはとても思えません。アシュリー嬢が気の毒でしかありませんな・・・・あ、これは失礼をし致しました。」
自分で言ってて悲しくなってくる。身から出た錆だが私だって人間だ、女の肌は恋しいよ・・・・
「侯爵閣下、よくよく御吟味の上で御決断ください。」
「あ、ああ。」
微妙な雰囲気のまま御茶会は終了した。ゴルテア侯爵が帰った後はジュードからの長い説教が始まった
「折角、向こうが縁談を持参致したのに旦那様が潰してどうするおつもりですか!」
「いや、悪かったと思ってるぞ。それにアシュリー嬢から私に対して好意的でない事も分かった。それでいいじゃないか。」
「良くありません!前々から娼館に行くのは控えろと申し上げました。」
「仕方ないだろ。向こうが良かれと思ってセッティングしたんだよ、商売にも響くし断りづらいだろう。」
「だったら他の場所にすればよろしいでしょう!」
「キャンセル料が馬鹿にならないんだよ、それに娼館は情報収集する上で良き場所でもある。」
「全く!」
一方、ゴルテア侯爵家では家族会議が行われていた。当主のクリフ・ゴロテア、その妻のエリナ・ゴロテア侯爵夫人【年齢は39歳、身長167㎝、金髪ロング、細身、美乳、碧眼、色白の肌、彫りの深い端整な顔立ちの美人】、長男のレオン・ゴルテア、そしてアシュリー・ゴルテアが広間にて勢揃いしていた
「というわけだ。」
「だから言ったのです!そのような者をアシュリーの婿に迎える等!」
「母上、落ち着いて!」
一方、アシュリーは複雑な心境であった。先方(アルクエイド・ロザリオ)は普通なら秘密にする事なのに父にありのままの自分をさらけ出し、かつ自分を気遣う素振りを見せている
「お父様。」
「ん、どうした?」
「私、1度ロザリオ伯爵閣下にお会い致します。」
それを聞いた家族は目が点になったが、すぐに我に返り理由を問いただした
「アシュリー、どういう風の吹き回しなの!」
「落ち着いて、お母様。私はただ真意を尋ねたいのです。」
「真意?アシュリー、それはどういう事だ。」
兄のレオンが尋ねると、アシュリー曰く、普通だったら外面を良くするために後ろ暗い事は隠すのだがロザリオ伯爵は隠そうとはせず、ありのままを語った事にアシュリーは違和感を覚えたのである。理由を聞いたクリフは・・・・
「アシュリー、会うにしても先方はどう説明するのだ。真意を確かめるにも向こうが素直に教えると思うか?」
「それは分かっております。ですがこのモヤモヤした感じが心の中で覆っているのです。このわだかまりを取り除きたいのです。」
「う~ん、しかしだな。」
「父上、私もアシュリーと一緒に参りましょう。」
「お兄様!」
兄が自分と一緒に行くと名乗り出た事に驚いた。レオン曰く、相手が相手なのでアシュリーには荷が重いと説明してくれた。最初は戸惑ったが今は心強い味方を得た心地であった
「お父様、御迷惑をお掛け致しますが、どうかお願いいたします。」
「父上!」
「・・・・分かった。」
「貴方!」
「アシュリーがこう申しておるのだ、それに実際に会った方がいいだろう。」
息子と娘の懇願にクリフは了承した。縁談を持ちかけたのはこちらであり、もしかしたらという期待もあった。エリナは反対を押し切り、クリフは再び面談の手続きを取った。それから数日後、アルクエイドの下へゴルテア侯爵宛ての手紙が届いた。早速、手紙の内容を一読したアルクエイドは目を見開き、その様子を見たジュードが尋ねた
「旦那様、如何なさいましたか?」
「これは驚いた。ゴルテア侯爵の御令息のレオン殿と御令嬢のアシュリー嬢が私と対面したいとの仰せだ。」
「おお、これは幸運にございますな。」
「いや幸運とは言い難いかもしれないぞ。向こうの狙いが分からない以上、慎重にあたらねばな。」
「して、いつ頃に御対面を?」
「1週間後だ。場所は貴族御用達のカフェ【カサンドラ】のシークレットルームだ。その日の会合はキャンセルにして予定は開けておけ。」
「畏まりました。」
アルクエイドの返書がゴルテア侯爵家に届いた。1週間後に貴族御用達のカフェ【カサンドラ】にて対面する旨を伝えた。クリフは早速、レオンとアシュリーを執務室へ呼んだ
「レオン、アシュリー、予定通りに【カサンドラ】のシークレットルームにて行う。」
「「はい。」」
「くれぐれも失礼のないようにな。」
「「はい。」」
執務室を出たアシュリーは緊張が解けたのか、「はぁ~」と溜め息をついた
「アシュリー、分かってはいると思うがくれぐれも伯爵の前で粗相をおかすなよ。お前が言い出した事なんだから。」
「分かっております。」
「私もできるだけ、お前に力を貸す。それだけは忘れるな。」
「感謝致します、お兄様。」
レオンと別れたアシュリーはその足でとある場所へと向かった。向かった先は侯爵邸にある訓練場である。そこで1人鍛練に励む若い騎士の姿があった。騎士はアシュリーの存在に気付き、臣下の礼を取った
「これはアシュリーお嬢様!」
「相も変わらず稽古に励んでますわね、シェズ。」
若き騎士の名はシェズ・アルバート【年齢19歳、身長175cm、色白の肌、細身の筋肉質、金色の短髪、碧眼、彫りの深い端整な顔立ちの美青年】、ゴルテア侯爵家に仕える騎士である。シェズとは昔からの幼馴染であると同時に初恋の相手でもある
「シェズは1週間後に喫茶店【カサンドラ】へ参ります。護衛として着いてきなさい。」
「ははっ!」
「・・・・シェズ、アルクエイド・ロザリオ伯爵閣下を御存じかしら?」
「ははっ。」
「私はその御方と【カサンドラ】で会うことにしました。シェズ、私は・・・・」
「お嬢様、私は臣下として御家のため、お嬢様の幸せを考えております。」
アシュリーが何か言おうとした瞬間、それを遮るようにシェズは臣下としての意見を述べた。アシュリーはあくまで臣下としての立場を貫くシェズに苛立ちを隠す事なく、「馬鹿」と言い放った後、その場を立ち去った。残ったシェズは「これでいいんだ」と自分に言い聞かせつつ、雑念を振り払うように稽古に励むのであった
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