3便:「―Dispatch―」

 ――夜が明け、上った日の光がその土地を照らす。

 闇が晴れ、空には雲一つない青空が広がる。

 明けて迎えた朝の時。その中でその土地――ビーサイドフィールド行政区域は、活動を開始した。

 街並みを縦横に走る一般道を、自家用車や公共車両等、数多の自動車が列を成して走る。

 歩道には通勤の社会人。通学する学生、子供達の姿が散見され、賑わいを見せている。




 ――そんな騒々しく動き出した街の中。〝血侵(ちしん)〟は、またがる自転車を飛ばしていた。

 シャツにチノパンにシューズという、面倒の無さを最優先にした洒落っ毛のない服装。

 乗るは、適当に選んで購入した買い物用自転車。いわゆるママチャリのその籠には、適当に荷物を詰め込んだリュックサックが突っ込んである。

 そんな姿様相の血侵が目指すは、職場であるキャピタルビーチ交通管理隊事務所の存在する、ハーバーノースインターチェンジ(以降、IC)。

 血侵もまた、街を行き交う人々と同じく、出勤の最中なのであった。

 夏が終わり、秋口に突入した気候の中。心地の良い涼しい風を身体に感じながら、自転車を走らせ進める血侵。

 そして血侵はそれから物の数分程で、職場の存在するハーバーノースICに到着した。

 IC区画は、いくつも幾重にも高架やランプ線が通り、円形を描き入り組んでいる。その外観、構造は、見る者によっては圧巻されたかもしれない。

 しかし血侵はその光景を、すでに見慣れた物と特段気に留めず、その構造物の下を通る道を、自転車で潜り通り抜けてゆく。そして、構造物直下の空間を利用して設けられている、基幹道路関係会社の事業所の敷地内へと踏み入った。

 事業所敷地内には関係会社、部署の建造物が多く並び、そして多種多様な車両の姿が見えた。一般的な業務用自動車からトラックに始まり、基幹道路での作業時に用いられる標識車やメンテナンス車両。やや遠くに見える車庫には、巨大な除雪車や、特殊車両の鎮座する姿が見える。

 そんな敷地内を、血侵は速度を少し落として自転車で抜けてゆく。

 そして指定された駐輪場に到着。そこに自転車を停め、鍵を掛けてリュックを取り、そこからは徒歩に変わる。通路を通って並ぶ建造物の間を抜け、目的の建物――交通管理隊の事務所建物の元へと辿り着いた。

 事務所の建物前には、また駐車場空間が広く取られている。そしてその一角に、それまでの各種業務車両とは大きく様相の異なる、数台の自動車が止まっていた。

 それは同一種の、大型普通乗用車の群れ。その多くは、ルーフ上に赤色警光灯を装備している。警察車両であるパトロールカーであった。

少数は一見、一般の普通乗用車と変わらぬ外観色合いだが、よくよく見ればルーフ上には不自然な蓋。フロントにも赤色灯が隠すように埋め込まれている事が分かる。その正体は、いわゆる覆面パトカー。

 さらには大型ワゴン車をベースとした、事故処理車も数台。

 その全ては、警察組織。基幹、高速道路を管轄担当する、高速道路交通警察隊――通称、高速隊の保有する車両だ。

 事業所敷地内には、警察の高速隊がその一角を借りて駐留。少し言葉を崩せば、間借りしているのだ。

 並ぶ各種警察車両の周辺には、何名かの高速隊警察官が取り巻いている姿が見える。見るに、朝に行われる車両点検の最中であるようだ。これもまた見慣れた光景であった。


「おはようございます」


 そんな警察官達の近くを歩み通り抜ける際、血侵は端的に、しかしはっきり聞こえる声量で挨拶の言葉を彼らに掛けた。

 血侵等の交通管理隊と、警察の高速隊は法的にも運用的にもまったく別系統の組織ではある。しかし、実際こうして拠点は近しい所に置かれ、さらには事故などの事象、現場では連携を取る事も常だ。決して遠い存在ではない。

 そんな相手に対する、最低限の礼節。コミュニケーションであった。

 血侵の挨拶に、近場に居た科学者(ヒト)系の警察官や、トロル系の警察官が同様に「おはようございます」と返事を返して来た。

 そして互いに小さく会釈を交わし、そして血侵は車両点検中の彼らの傍を後にする。

 その先、また別の一角に設けられる駐車場区画に、見慣れた黄色のSUVパトロールカー――巡回車の並び停まる様子が見えた。

 先の高速隊のパトカー群とはまた性質の違う、SUV特有の無骨さを醸し出す巡回車。

 その並ぶ巡回車を横目に、血侵は事務所建物の通用扉を開けて潜り、建物内へと踏み入った。




 通用扉を潜り、続き伸びる廊下を通って抜ける血侵。そして突き当りの一番奥にある、開け放たれた扉を抜け、その先の空間へと踏み入った。

 先に広がっていたのは、事務机や椅子、棚類が並ぶそれなりの広さの空間。この場こそが、血侵の所属するキャピタルビーチ交通管理隊の事務所であった。

 そしてその事務所内の所々に、管理隊の青い制服を纏う、隊員の姿が見える。

 事務机でパソコンに向かう者。壁のホワイトボードに向き合う者。私物の携帯端末を弄っている者や、雑談している者等様々。

 多くは昨日の夕方から勤務している夜勤者。そして一部は血侵よりも早くに出勤してきた、本日の日勤者であった。


「おはようございます」


 血侵はそんな様子を見せる事務所内の各員に向けて、また端的な挨拶の言葉を発し上げる。


「あぁ、おはよう」

「おはようございまーす」


 挨拶の言葉により隊員各員は血侵の存在、出勤に気づき、そして挨拶の言葉が返ってくる。

 血侵はそれ等を聞き、軽く会釈を返しつつ、事務所の端を抜けて奥側にある更衣室を目指す。


「よぉ、血侵さん」


 その途中、血侵を呼び止めるように掛かる声があった。

 少し独特な重低音の声色。

 血侵が視線を落とせば、すぐ傍の事務机。そこに備わる椅子に座す一人の人物の――凄まじい容姿が目に映った。

 180crw、いや190crwは優にあるかという長身が、座っていても分かる。そして濃い青色の制服の上からでも、その身が筋骨隆々の鍛え上げられた物である事が見て取れるが、にもかかわらず一方で、どこかスマートな印象を同時に受ける。

極めつけは、血侵を向く堀の深く濃い顔面と、眼。

 そんな強烈なインパクトを与える外観の男が、そこに居た。


「あぁ、おはよう〝スウザン〟さん」

「元気しとるか?」

「まぁまぁだ」


 しかしそんな男を前に、血侵は特段驚く様子もなく、男の名らしきものを口にし、変わらぬ端的な挨拶を返し、そして言葉を交わす。


「おはよ」


 そんなやり取りに続き、今度は筋骨隆々な男の向こうより、別の高く通る声が聞こえ来る。視線を移せば、男より奥側の事務机に、一人の女の姿が見えた。

 身長160cm前後。整った顔立ちに、しかし吊り上がったキリリとした眼が特徴的で、気の強そうな印象を受ける。ボブカットにして一部を結い上げた、淡い金髪が目立つ。

 制服の上位は脱した、シャツとズボンのラフな格好で、パソコン画面に相対しつつも、視線をこちらへ向けていた。


「〝ソシ〟さん、おはよう」


 そんな女にも、血侵は同様に端的な挨拶を返した。

 ――両名は、血侵の先輩隊員であった。

 筋骨隆々の男は、〝スウザン Vs スティングレイ〟と。

 気の強そうな女は、〝AX ソシ アリセスエイン〟と言った。

 どちらも血侵より半年早く入社し、交通管理隊隊員となった者だ。


「昨晩は、どうだった?」


 しかしそんな先輩隊員の両名に対して、血侵は端的なタメ口で。夜勤者であった二人に、昨晩の勤務状況を尋ねる言葉を発した。


「特には、何も起きとらん」


 一方のスウザンは、それに特に気を害した様子もなく、問いかけの言葉に独特の口調で返答。


「こっちも。小さな落下物が、一つ二つ。そんなもん」


 続けソシも、パソコンモニターに視線を向けながら、返答を返す。こちらも特段、血侵のタメ口を気にした様子はない。

 それは、このやり取りが彼らにとって普通の事であるからだ。

 血侵より隊員としては先輩である二人。しかし32歳である血侵に対して、スウザンは28歳、ソシは22歳と、二人とも年下であった。加えて、入社時期も半年だけの差と、大きく開いている訳ではない。

 そして、各々が堅苦しい関係を好まなかった。そういった諸々の理由から、半ば同期のような関係、接し方となったのであった。


「そいつぁ、良かった」


 その両者から、昨晩は特段大きな事象が無かった事を聞き、端的に零す血侵。

 そして血侵は一度その場を外し、更衣室へと向かった。

 簡単なセンスの私服から、管理隊隊員の制服へと着替える血侵。

 身支度を整え、再び事務所へと戻る。

 それからアルコールチェックを行い、本日の自分の割り当て――搭乗する巡回車、及び担当する巡回ルートを確認。他、引継ぎ事項や連絡事項を、パソコンにて確認、目を通す。

 それが終わると血侵は、巡回業務の準備へと取り掛かる。

 大きなアタッシュケースを棚より引っ張り出し、事務机上で広げ、中に束ね詰まる車検証や緊急車両指定証等の書類を確認。全て巡回時に携行しなければならない物だ。

 まずその確認を終え、それからトランシーバー。管制と繋がるハンディ無線等の、無線機類も準備。巡回記録のためのレコードタブレットの充電も確認し、身に着けるべき物は身に着け、必要な携行品を全て整える。


「――さてと」


 そこまでで、巡回業務のための前準備は終わった。

 後は始業時間に始まる朝礼と、合わせて行われる巡回車点検まで時間がある。

 それまでの間に、時間潰しを兼ねて掃除などの雑務を終えてしまおうと、血侵は給湯室へ向かおうとする。


「っと」

「とととっ」


 しかしそこで、血侵は事務所出入口より現れた人影と鉢合わせた。


「あぁ、ヘキサさん。おはよう」


 血侵は鉢合わせた人物の姿を見止め、そして挨拶の言葉を口にする。

 姿を現したのは、ゴブリンリーダー系の女隊員、ヘキサであった。


「あ、血侵さん。おはよう」


 対するヘキサは鉢合わせた事に驚き、少し目を丸くしていたが、相手が血侵と分かると同様に挨拶を返してきた。

 補足するとヘキサの年齢は24歳と、また血侵より一回り年下である。


「あ、ひょっとして給湯室の掃除しようとしてた?ゴメン、もう私が終わらせちゃった」


 ヘキサは続けて、血侵が掃除他雑務にかかろうとしていた事を予測推察。そして彼女の口から、すでにそれ等は終わっている旨が知らされた。


「あぁ、終わってたのか。いえ、それはどうも」


 間が悪かったかな?といった様子を見せるヘキサに、血侵は淡々と礼の言葉で返す。

 しかし、時間潰しの当ての第一候補は無くなってしまった。

 それならばと血侵は、勉強――現場での作業要領等の復習に時間を当てようかと、考えを浮かべる。



 ――トゥルルッ――トゥルルッ――トゥルルッ――



 ――と。

 事務所内に、一際響く電子音が鳴り響いたのはその瞬間であった。

 発生源は、並ぶ事務机の内の一つ。その上に置かれた電話機だ。

 それは、主に管制センターからの緊急要請を受け取るための電話。それが鳴り響いたという事はすなわち、高確度で緊急事象が発生した事を意味する。

 事務所内に静かな緊張が走り、そして思い思いに過ごしていた各員の視線が、一斉に電話機に向く。


「――はい。キャピタルビーチ交通管理隊ッ」


 電話の受話器を取ったのは、一番最寄りに居たスウザンであった。

 彼の独特の重低音での、しかし端的な応答の言葉が、寄せられた受話器の通話口に向けて発せられる。


「――お疲れ様です――はい、故障車。はい――3rd 上りの、3.7――」


 やはり電話の相手は、管制センターであるようだ。スウザンが口に出して復唱するそれは、事象内容。そして事象の発生位置を示す情報だ。

 スウザンはそれが事務所内の他の隊員にも伝わるよう、意図して聞いた情報を口に出しながら、同時に手元に取って寄せたメモ紙に、その内容を書き取っている。


「えぇ――了解です――はい、失礼します――」


 それから一つ二つ受け答えをした後に、スウザンは締めくくる言葉を口にして、通話を終了。受話器を置いた。


「――3rd 上りの3.7。路肩に故障車です」


 そしてスウザンは先のメモ書きを取り、改めて事象の情報を、事務所内の各員に伝わる声で発する。


「乗用が白線上にわずかに乗り、わずかにはみ出し停止。管制から路上カメラで確認したとの事」


 続け、詳細情報を言葉にして伝えるスウザン。


「――俺等か」


 その詳細情報を聞いた血侵は、一言そう口に出す。

 すでに時間割は、夜勤隊が出動すべき担当時間から、日勤隊の担当へと切り替わっている。

 そして日勤の内でも、起きた事象に対してどの隊(巡回車)が事象に向かうかは、担当巡回ルートや時間割を前提に、前もって定められている。

 それ等の決まりから、今入った事象に向かうべく本日の割り当ては、血侵等であった。


「早速か――よし、ヘキサ、血侵。準備しろ」


 そんな血侵と、そして隣にいたヘキサに声が掛かる。

 見れば、先にゴブリン系の主任隊員、セトビスの姿があった。

それまで向き合っていた事務仕事を中断し、すでに出動に向けた身支度を整え始めているセトビス。


「えぇ、了解」

「了解ですっ」


 そんなセトビスからの促しを受け、血侵とヘキサもそれぞれ、出動のための身支度に取り掛かった。


「開局、しときます」


 その血侵等の一方。先に電話を受けたスウザンが、そう声を上げた。


「手伝うよ」


 さらに、隣席していたソシも名を上げ、机を立つ。


「70で」

「そうだ、頼む」


 これより使用される巡回車の号車番号を、確認するスウザン。

 そしてセトビスよりの任される言葉を受けながら、セトビスは棚より巡回車のキー類を取り。ソシは、先に用意してあったアタッシュケース類を方に下げて。先立って事務所を飛び出して行った。




 ――出動の際には、〝開局〟と呼ばれる、管制センターへ巡回開始を知らせる無線送信等を行わなければならない。

 また、朝夕には本来、巡回車の稼働チェック。搭載装備品の数量、動作チェック等を行わなければならない。

 突発の緊急出動時にはいくらか簡易化されるが、それでも出動時に行うべき項目は少なくなく、それを実際に出動する要員だけで行うには、負担が伴う。

 それを軽減するために、出動しない手空きの人員が、補佐を行うのだ。




 事務所を飛び出し、巡回車の並び停まる駐車スペースに繰り出したスウザンとソシ。

 二人は、本日血侵等が使用する一台の巡回車に駆け寄ると、分かれてそれぞれ準備作業に移った。

 スウザンは運転席側のドアを開け放って運転席に乗り込むと、すぐさまエンジンを始動。巡回車はエンジンを唸らせ始動し、同時に電気が通り、車内に搭載装備される各機器が使用可能になる。

 車外スピーカー、LED標識器の操作機器、無線機等のスイッチを順に素早く入れていくスウザン。そしてスウザンは無線機の受話器を取って、通話ボタンを押して回線を開き、受話器を口元に寄せて言葉を発し始めた。


「――高速ハーバーノース70から、ストーンゼルコヴァ本部」


 それは巡回車から管制センターへ呼びかける際の、定型の文言。呼びかけ先の管制センターからは、すぐに応答があった。


《――ゼルコヴァです。ハーバーノース70どうぞ》

「3rd 上りの3.7。故障車、緊急出動開局どうぞ」


 管制センターからの促す音声。それを聞いたスウザンは、続けて先ほど受けた事象の情報を。それに向けてこれより緊急出動する旨を、管制に告げる。


《了解。開局、8時47分でお願いします》


 管制センターからはそれを了承。開局時間の指定、合わせの旨が送られてくる。


「8時47分、了解。以上、高速ハーバーノース70――」


 開局指定時間を復唱し、そして交信を締め括る文言を発するスウザン。開局のための管制センターとのやり取りは終了。これで管制側は、この巡回車がこれより出動する事を掌握し、出動のための準備の一発目が整った。

 開局手順を終えたスウザンは、巡回車のキー類を社内の所定の位置に確実に置き、巡回車を降りる。

 車外、巡回車の後ろでは一緒に来たソシが、後部ドアを開け放ち、ラゲッジスペースに搭載された搭載装備類の確認を行っていた。


「――矢板、カラコン定数。他、後部は欠品ナシ」


 ソシの確認作業はそこでちょうど完了。彼女はスウザンに向けて告げながら、後部ドアを勢いよく閉める。


「おし、他じゃ」


 そのソシに、スウザンは促す。

 他にも確認事項は多々ある。

 スウザンとソシは、さらに手分けして各所の確認作業に掛かった。




 身支度を終えた血侵。そしてセトビスとヘキサは、先に飛び出して行ったスウザンとセトビスを追いかけ、事務所を出て駐車スペースへと出る。

 繰り出した先で、これより自分等の乗る巡回車と、それを取り巻くスウザンとソシの姿が目に映った。


「開局はヨシです。動作も以上ナシ」

「搭載品も異常ナシ。発炎筒も補充してあります」


 スウザンとソシは、筆頭者であるセトビスにそれぞれ報告の言葉を発する。二人の手により、すでに準備点検は全て完了していた。


「了解、すまんな」

「どうも」

「すみませんっ」


 二人の言葉を受け、そしてそれに礼の言葉を返しながら、血侵等はそれぞれ手荷物を巡回車に放り込み、そして自身等も乗り込んでゆく。

 今巡回にあっては、血侵は第2乗務員――助手席を。そして巡回の長であるセトビスが第1乗務員――運転を担当。また、ヘキサにあっては後席に乗り、研修中の血侵を補佐する。


「シートは上げて、ゲタも着けてあります」


 乗り込んだ各員の内、運転席のセトビスに対して、車外よりスウザンが覗きそんな声をかける。

 セトビスの座す運転席は、そのシートが、普通に人が座すには不可能なほどに上げて詰められていた。さらに足元を見れば、エンジンやブレーキペダルに、長さを延長するための特殊なゲタ――アタッチメントが装着されている。

 これ等はセトビス――ゴブリン系である彼が運転する上での措置配慮であった。

 セトビスに限らず、ゴブリン系の種族は科学者(ヒト)やゴブリンリーダー系と比べて、平均して半分程度の身長しかない。

 そんな彼等種族が一般的な規格の自動車を運転するには、こういった措置配慮が必要不可欠なのであり、そしてこれ等はこの世界において、一般的に広く普及している物なのであった。


「後は、座りを合わせてください」

「あぁ、すまん」


 セトビスは自分に合わせたセッティングに感謝しつつ、スウザンの言葉通り、さらに座席を微調整して整える。


「――よし、いいだろう」


 調整を終え、そしてセトビスは抱えていたヘルメットを被り、シートベルトを締め、出動準備を完了させる。


「ヘキサ、血侵、どうだ?」


 そして助手席の血侵と後席のヘキサに、準備状況を尋ねるセトビス。


「オッケーです」


 まず後席のヘキサから、問題ない旨が寄越される。


「――準備ヨシ」


 そして、助手席でレコードタブレットを操作入力をしていた血侵も、出発時の所定の入力を完了。タブレットを足元のグローブボックスに放り込むと同時に、返事を返した。


「よし、行くぞ」


 両者より確認を取ったセトビスは、発すると同時にサイドブレーキを解除。ギアをドライブに切り替える。


「願います」


 巡回車から安全のために距離を取った、スウザンから委ねる言葉が寄越される。さらに手を軽く翳すソシの姿もある。

 ここまで出動のための支援補佐してくれた、二人の見送りを受けながら、血侵等を乗せた巡回車は発進。

 事象――故障車の発生した現場に向けて、出動した。

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