第3話 ようこそパーティーへ

あれから数日が経った。

特に何も変化はなく、平和な日々を過ごしていた。けれどいつお迎えとやらが来るのかもわからず心まで平和とは言えなかった。あの日以降毎日ドギマギしてあまり眠れなかった。


そしてその日はやってきた。

「リリア~お迎えが来たわよ~」

お昼ご飯を食べ終えて一息ついている頃にお母さんの呼び出しではっとする。

あぁ……ついに来ちゃったんだ。うぅ…緊張する。

そう思いながらも待たせたらいけないのですぐにお母さんの声のした玄関へと向かう。

「お迎えに上がりました。リリア様」

目の前には、きれいな角度で礼をした紳士が立っていた。

わぁ…かっこいい人…。

「では、こちらへお乗りください」

紳士は優しい笑みを浮かべながら私に手を差し伸べた。紳士の笑顔で緊張はどこかへ消え私は手を取った。気づけばそこは馬車の中。しかもその馬車は──

「空を飛びますのですぐに着きますよ」

そう、空飛ぶ馬車だった。王族しか手に入れることのできない特別な馬車に私は今乗っている。

小さな窓から見える景色が新鮮でつい見入ってしまう。

空飛ぶ馬車から見える景色…素敵……。

気づけば街一帯を見渡せるくらいの高さになっていて、空飛ぶ馬車ってすごい…。

景色を眺めていると

「リリア様。到着いたしました」

もうお城に到着していて…。あぁ……どうしよう…。もう着いちゃった…。

「リリア様、まいりましょう」

紳士…もといローズさんの執事さんのジャックさん。

ジャックさんに再び手を引かれてとうとうお城の中に入ってしまった。

どこまで広がる豪華絢爛な空間。その空間に吞まれそうになるも引かれた手が止まることはなく、気が付けば見知らぬ扉の前にいた。

「メリッサ様お連れしました」

「はあい♪」

この声…。聞き覚えのある声と共に開いた扉から出てきたのは、この間の女性だった。

メリッサさんっていうんだ。あの時は名前を聞けなかったことを思い出す。

「では、私はこれで。メリッサ様、あとはよろしくお願いいたします」

「はあい♪さあ、中へ入ってちょうだい」

ジャックさんに促されるようにメリッサさんのいるほうへ歩いていく。

メリッサさんのいる部屋にはきれいなドレスや布、それから針なんかもたくさんあって。

「あの、ここは…?」

「ん?アタシの部屋よ。部屋って言っても作業部屋よ。アタシ、デザイナーなの。あ、気軽にメリちゃんって呼んでちょうだいリリアちゃん♪」

「えーっと…では、その……メリちゃん…。私はこれからどうすれば……」

恥ずかしさを隠しながら、勇気を出して呼んでみるとメリッサさんはとてもうれしそうな表情をした。

「メリちゃんって呼んでくれてありがとう♪この後のことは心配しなくていいわ。アタシがとびきり美しくあなたを仕上げるから」

そう言って、メリッサさんは何かの作業をしていた手を止め、おもむろに指を鳴らす。

広い部屋にパチンという音が響き渡り、突然扉が開く。

「メリッサ様!こちら準備完了です!」

「そう。じゃあお願いね」

メリッサさんが微笑むと扉から出てきた女性たちに連れられ別の部屋へと移動した。

あれよあれよという間に私はドレスを着ていた。

キレイなドレス……。鏡に映る自分を見て新鮮な気持ちと同時に、ドレスに着られている感じがしてなんだか恥ずかしくなった。

着替えが終わりメリッサさんに部屋へと戻る。

「あら、とっても似合ってるわ。さあ次はメイクね。ここに座ってちょうだい。動かないようにね?」

メリッサさんの言われるがままに椅子に座る。

真剣な表情で私の顔を見つながら手を動かすメリッサさん。

またまたきれいなお顔と距離が近くてドキドキしていると

「はあい。終わったわよ。次はヘアメイクをするから。また動かないでいい子にしててね?」

そう言ってメリッサさんは私の後ろに回り髪の毛に触れる。

誰かに触れるとむずむずするけど……なんでだろう、ドキドキもする…。

勝手に緊張しているとあっという間にヘアメイクは終わり鏡には

「なんだか……自分じゃないみたい」

つい言葉がこぼれて……

「そんなことないわよ?どこからどう見てもリリアちゃんよ。美しさに磨きがかかった、ね♪」

「あの、私…えっと……」

「まだ状況が呑み込めてないって感じね。もう色々と終わったからちゃんと説明してあげるわ」

ようやくここ数日のもやもやが解消されると聞いて姿勢を正す。

「いい?まず、あなたはこの国の第三王子であるローズに気に入られたの。それでパーティーに出席するためにはドレスが必要でしょ?それでアタシがあなたのところに尋ねたの。アタシ見るだけでサイズもわかるし、アイディアも浮かぶから。すごいでしょう?」

「は、はい。すごい…です」

「ふふ。話を続けるわね。今、リリアちゃんが着ているドレスは私がデザインして生地選びも何もかも全部私が手掛けた特別なドレス。ローズが初めて誰かを招待するんだからこれくらいしなくちゃね?と、まあアタシが話せるのはこのくらいかしら。あとは本人に直接聞いてちょうだい」

知りたいことの半分くらいは分かったけれどそれでもまだ気になることはあって……。

あとは本人にってことはローズさんに………?

「ジャック、終わったわよ」

メリッサさんは扉を開け外で待っていたジャックさんに話しかける。

「では、会場へ移動いたしましょう」

部屋を出る際にメリッサさんに挨拶をして、ジャックさんに手を引かれ、ドレスを踏んでしまわないように気を付けて歩く。


「こちらがパーティー会場です」

そう言って開かれた扉の先に広がっていた空間はまさに異世界に来たようだった。

このお城自体もパーティー会場も、どれも絵本の世界でしか見たことないもので。

このお城に来た時もそうだったけれど……私、本当にここにいてもいいのかな……。

ぼんやりと考えていると、大きな階段の上に四人の男性が並んでいた。

「本日はお集まりいただき──」

一人づつの軽い挨拶が終わり最後に

「では今宵、心ゆくまで楽しんでください」

その言葉で会場から歓声が上がる。

うまく空気をつかむことができず、困惑していると

「あっ!やっとまた会えた!!」

後ろから声がして振り向くと

「ねぇ、僕のこと覚えてる?ほら、この前ぶつかった人だよ?僕」

そういわれて記憶を掘り返す。

「あっ!」

「思い出してくれた?うれしいな~」

よく覚えている。きれいな金色の髪に青い瞳……。さっき階段の上でしゃってべってた人に似てるけど……。

「ローズ様、まだご挨拶が終わっておりませんよ」

「えー…せっかく会えたのに…」

「ローズ様、挨拶を済ませてからお部屋へお越しください。私は先にリリア様をお部屋へお連れしますので」

「えー………うーん、分かった。すぐ終わらせる!」

ローズ様………そう呼ばれた青年は勢いよくどこかへ消えた。

「申し訳ありません、リリア様。ローズ様は少々自由な方でして。では、まいりましょうか」

ジャックさんに手を引かれて歩いているけど…

「あの、さっきの……その、ローズ様って………」

「はい。先度の方がローズ様。あなたを招待した方です」

会話をしているうちに部屋に案内され

「すぐに来ると思いますので座ってお待ちください。こちら、ローズティーです」

手際よくローズティーを用意してくれたジャックさんは部屋から出ていき私は一人になった。

このローズティー、いい香りで美味しい。それにすごく落ち着く…。ジャックさん、私が緊張してるの気が付いてたのかな……。なんだか恥ずかしい…。

いい香りに安らいでいると

「リリア!お待たせ」

勢いよく扉が開く。開いた扉の向こうにはローズさんとジャックさんがいて、部屋に入ってきたのはローズさんだけだった。

「これでやっとちゃんと話せるね!リリア!僕、君と友達になりたいんだ」

美しい顔から無邪気な笑顔に変わり、私は──ローズさんに釘付けになった。

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