第10話
▫︎◇▫︎
彼にドレスを選んでもらって、宝石を贈ってもらって、ネージュのデビュタントはあっという間にやってきた。
デビュタントの前日である誕生日にはオリオンとエリアンヌに盛大にお祝いしてもらって、幸せいっぱいに食事やプレゼントを堪能した。
でもやっぱり、不安は拭えない。
彼との本のやり取りが、恋文のやり取りが、唯一の心の救いだ。
今日までの日々で、ネージュは自分が誰にも望まれていない存在だと、誰にも必要にされていない存在だと、死すらも望まれているのだと、嫌というほどに理解させられていた。
何度も暗殺者を送り込まれた。
父親に、義父に、義母に、その他沢山の人に嬉しくない贈り物をされた。
涙を流しても、嗚咽を漏らしても、誰も、オリオンとエリアンヌ以外に誰も助けてくれない。
苦しい、痛い、辛い。
どんどん感情が麻痺していって、苦しみの感情に再現がないことを理解させられる。
死を望んでいたあの頃よりも恵まれている。
でも、あの頃よりもずっと辛い。
死にたいとは思わない。
死ぬ勇気もない。
[ネージュ?]
届いてこない音が苦しい。
悲しい。
辛い。
音を返してほしい。
僅かでもいい。
ほんの一瞬でもいい。
ただ、音が欲しい。
「オリー」
(でも、彼にだけは気づかれたくない)
ネージュはにこっと笑って、デビュタントの定番である純白のドレス姿でくるっと回って見せる。
きらきら輝く七色の真珠や美しくカットされたダイヤモンドが輝く。胸元や耳、腕、足、ティアラには黄金の繊細な細工や大粒のルビーが輝く。
[行きましょう。私の晴れ舞台に]
にっこりと笑うと、彼は心底嬉しそうに頷いた。くるくると髪を弄んで、本当に幸せそうだ。ネージュにとっては魔窟へと向かう行為であっても、彼にとっては慣れた場所に向かうだけ。それがなんだか悔しいと思ったけれど、ネージュは一瞬キョトンとしたような表情をした。
何故なら、彼も真っ白なスーツを身に纏っていた。アクアマリンの宝石とプラチナの細工のブローチなどを身につけている姿は、控えめに言ってイケメンだ。
[オリオンもデビュダントなの?]
[あぁ、そうだよ。ネージュとお揃いにするために遅らせたんだ]
にっこり笑う彼は爽やかに見えるのに、どこかぞっとする雰囲気を纏っていた。
《行こう、ネージュ》
「………えぇ。オリー!!」
ネージュは彼の手を取る。
昔とは変わってしまった剣だことぺんだこの目立つ手。
けれど、そんな手がとても愛おしく感じられた。
(私には、あなたしかないの)
ふわっと舞踏会の会場へと歩みを進め始めたネージュとオリオンの後ろから優しい風が巻き上がる。
冬の冷たい空気には、柔らかく儚い雪の結晶が混ざっていた。
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