4話 生贄の夜

僕は施設へと行くことになり、虚ろな足で手を引かれて向かった。

施設というのを聞いて想像は出来なかった。

どんな所なのか、これからどうなるのか、不安でこころの余裕はなかった。

「着いたわ。ここが施設よ」

「僕はここで何をしたらいいんですか…?」

「あなたの事を引き取ってくれる人が見つかるまでここで暮らすのよ」

僕はそれ以上は何も聞かずに建物に入った。

施設には色んな子供たちがいたが、僕とは違って笑顔で溢れていた。

僕はそんな子供たちを見て恐怖が押し寄せた。

遊ぶ時間も僕は部屋の片隅で家族写真を眺めてお母さんとお父さんとの思い出に浸った。

「渉君?ずっとそこで何してるの?」

突然施設の女性のスタッフが喋りかけてきた。

「写真見てただけです…」

「その写真に写ってるのはお父さんとお母さん?」

僕は小さく頷いた。

「そっか…お父さんとお母さんの事好きだったんだ。私もそうだったからわかるよ。私の両親は私が修学旅行に行ってる時に家に強盗が入って殺されてしまったんだ…。家に帰ってきてみれば部屋がめちゃくちゃにされて、血だらけになってて…。それから大人になって、私のように心に傷ついてる子供たちを助けてあげたいって思って今ここにいるの」

「そんな事が…その犯人は捕まったんですか…?」

「怖いことにそれがまだ捕まってないんだ。だから私もいつ狙われるか怖くてね」

そんな近くに殺人事件があったと思うと寒気がした。

それから1ヶ月が経過した頃、僕はお父さんの弟さんに引き取られる事になった。

僕は荷物をまとめて親戚の人と車に乗って家へ向かった。

その間車内で雑談が始まった。

「渉くんの好きな趣味とか色々おじさんに教えてくれないか?」

「僕の趣味は読書です…」

「読書か〜渉君のお母さんは絶対にしなさそうだよね。渉君のお父さんとおじさんは毎日勉強させられてたからな〜。休憩の代わりに読書を良くしていたよ。渉君は絶対にお母さんみたいになったらダメだよ?」

「どうしてダメなんですか…?」

「君のお母さんは頭が悪いだろ?それに蛇神の関係とかなんとかであの古臭い家を売ることができないって言い張ってさ。住んでもないのにな。売れば相当な金が手に入ったろうに」

僕は自分の親を馬鹿にされて腹が立つが歯向かうことは出来なかった。

それからはご飯を食べる時に親の事を罵倒され、お母さんに似ている行動をしたら暴力を振るわれたが僕は言うことを聞くだけだった。

ある日おじさんは僕が邪魔だと言って遠い別の親戚に渡されることになった。

僕はおじさんに車に乗せられ連れていかれた。

「渉!次行く所で迷惑かけるんじゃないぞ。キレられるのは俺なんだからな。分かったな!!」

しばらくして着くと山に囲まれた小さな村が見えた。

話を聞くとどうやらお父さんの弟の嫁さんの父だそうだ。

話を聞くだけで頭が割れそうだった。

僕は普通に生活ができるならどこでも良かった。

車から降りて村に行くと白髪の男の人がいた。

「君が渉君かな?部屋へ案内するからついて来な」

部屋へと案内され着いた場所は埃っぽく湿っているボロボロの小屋だった。

僕は嫌だったが仕方なくその日はそこで就寝した。

朝の4時頃僕は突然の腹の痛みで目が覚めた。

どうやら村の人にお腹を蹴られたようだった。

「早く起きろのろま!タダで飯が食えると思うな!」

僕は涙目になりながら早朝から薪取りを手伝った。

手袋もなく木をひたすら触るため手は木が刺さったり皮膚が切れて血だらけでボロボロだった。

ひたすら仕事をさせられ、夜になって家に帰っても風呂は3分しか入れない。

そして晩御飯も米を水でふやかした物を茶碗に少しだけ。

身体は持たなかった。

案の定すぐに体調を壊し、寝込んでしまった。

村からは部外者扱いで、心配してくれる人は誰1人いなかった。

「お前ただ寝てるだけだし、この村に要らねぇんだよ。最後にせめてこの村の神社の生贄の代わりになれよ。同族の恥晒しなんだから死ねよ。まぁ、どう足掻こうと今日の夕方に連れていくからな。まぁ、せいぜい神様の生贄にされることを誇りにでも思っときな」

首と手を麻縄で縛られ夕方に雨の中神社に連れられ本殿の前で蹴り倒され1人になった。

僕は身体中ボロボロで雨が傷口に染みて痛かった。

このまま死ぬ事が出来たらラクになれる、そう信じて僕は目をつぶった。

「お母さん…お父さん…会いたいよ……寒い…」

僕は気が失う瞬間なにか暖かいものが手に触れたが、見ることも出来ず気を失った。

僕はしばらくして目が覚めた。

「…んん……?」

「ようやく目が覚めたか」

そこには大きな蛇が僕に向かって喋りかけていた。

「我の住処に土足で立ち入り何驚いた顔をしているのだ」

「ご、ごめんなさい…ごめん…なさい」

「神に対して謝るだけか。貴様を祟りにあわせてやろう」

「はい…」

「何を言っているのだ?祟られればお前の血族は皆途絶えるのだぞ?」

「構わないよ…家族いないから…」

「なんだ、訳アリのようだな。話ぐらいは聞いてやる」

僕はここに来るまでの間のことを話した。

「それは甚だしい話だな」

「同情なんて…いらない…神なんていない…」

「今なんと言った…?」

「神様なんて絶対にいない!」

「神である我の前でそのような愚見を!」

「だって…本当にいるならあの時に助けてくれたはずだよね…!でも…誰も助けてくれなかった…」

「それは…」

「何も言い返せないんだよね?……僕が愚かなら祟りにでもあわせればいいのに!…僕は同族の恥晒しなんだ……殺してくれればいいんだ…ただそれだけで…」

「それは無理だ…」

「神様ならお願い聞いてよ、僕を殺して…?早くお母さんとお父さんに会いたい…」

蛇神は僕の手と首に縛られた麻縄を噛みちぎった。

「なんで……?」

「今は体を休めていろ。しばらくここに居ていいがあてが見つかればすぐに立ち去れ。良いな?」

「はい…」

そして僕は小さく丸くなって蛇神に背を向けて寝た。

寝ている時僕はお母さんとお父さんの夢を見た。

「お母さん……もう、疲れた…」

蛇神は寝ている僕を囲うようにして寝た。

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