3話 絶望と孤独

今日も明日もどんな日もいつもと同じ日々。

ただ、日に日に俯くことは少なくなっていった。

いつも楓真は僕が俯いていると、背中を押してくれた。

俯いてても何もいいことがないのは事実だ。

周りに心配をかけ、自分はどんどん暗くなるだけなのだから。

僕は俯くのを止め学校に行くようにした。

すると今まで嫌いだった学校が楽しくなって行事も自主的に行動するようになり楓真を気にしていても明るくなれた。

楓真の死を僕はやっとの思いで少し乗り越えられた。

「渉?最近元気そうで何か嬉しいことでもあったの?」

お母さんは嬉しそうに聞いた。

「嬉しいことがあった訳じゃないけど、最近学校が楽しくて、ずっと暗かったら楓真にも心配かけちゃうと思って」

渉は笑顔を母に向けた。

「ゲホゲホ…」

お母さんはこの頃よく咳をするようになっていた。

「佳代子…大丈夫か…?一度病院で診てもらった方が…」

「大丈夫よ!体はこんなに元気なんだから!心配しなくて大丈夫!」

お母さんが咳をする度僕とお父さんは心配だった。

ある日学校でいつものように授業を受けていると、先生からお母さんが外で倒れて病院に搬送されたと報告される。

「お父さんが家に居てるから今すぐ帰ってあげて!」

「は、はい…」

僕は人が全然いない昼下がりの路地を家に向かって走った。

「渉か!車に乗りなさい!」

お父さんは運転している時手が痙攣しているかのように震えていた。

「お父さん大丈夫?」

「大丈夫だ…」

お父さんはずっと険しい顔をしている。

そうしている間に病院に着き、お母さんのいる病室へ向かった。

病室の前には看護師の人達がいた。

「譲葉御一家の方々ですか?」

「そうです!妻は大丈夫なんでしょうか…?」

「今佳代子様の精密検査の結果を調べていますので少しの間寄り添って居てあげてください」

「分かりました…」

それからゆっくりと病室のドアを開けると、お母さんはベッドに横たわっていた。

「佳代子大丈夫か…?」

「あなた…?ごめんなさいあなたにも渉にも迷惑かけてしまったわね…」

お母さんは申し訳なさそうにしていた。

「佳代子様?検査の結果がわかりましたので、御一家の方々と一緒に結果を見ていただきたく思います…」

「はい…それで妻の病状は?」

「佳代子は肺癌である事がわかりました。ステージ4で身体中のリンパにも転移していることが分かりました…これ以上は当院でもできる限りで、余命約1年あるかどうか…」

「そんな馬鹿な…何か手は無いんですか!」

「余命は約1年程ですが少しでも長く生きるためにも抗がん剤治療は可能ですが、それで持って約5年程です…手術が出来ず申し訳ありません…」

お母さんは泣かずに俯いていた。

それからは毎日学校の帰りに病院に寄ってお母さんのお見舞いに行くようにした。

お母さんは日に日に病状が悪化していき元気が少しづつ無くなって行った。

「渉?私渉の役に立てなくてごめんね?私が死んでも、お父さんが渉のこと守ってくれるから心配しなくても大丈夫よ。渉は笑顔で誠実で長生きしてね?これはお母さんとの約束だよ?」

それ言った次の日の朝、お母さんは息を引き取った。

黒い傘の列が家の前に並んでいた。

みんな黒い服を着てお母さんの写真の前で灰をつまんで何かしていた。

お坊さんはお経を読んでいる。

「渉…?お葬式は終わったから部屋に戻っていいぞ…」

父は絶望したような顔をしていた。

僕は部屋へ戻り1人で泣き続けた。

学校はしばらくお休みにした。

それからはずっと外にも出ずご飯の時以外は部屋にこもった。

濡れている窓を見つめていると、ふと喉の乾きに気がついた。

僕は飲み物を取りに行くため部屋を出てキッチンに向かった。

父は雨なのにも関わらずベランダで外を眺めていた。

「渉…?……お父さん…もう耐えられないんだ。お母さんの事裏切ることになるけど許してくれ…ごめんな…渉…」

次の瞬間父はベランダから飛び降りた。

「え…?お父さん…?」

僕はガラスのコップを落としその場で気絶した。

辺りは騒然としていた。

父が飛び降りた後、近所の人に発見され通報をしたそうだ。

父はすぐに病院に運ばれたが既に死亡していた。

警察が部屋を捜索し気絶している僕も発見され病院に運ばれた。

僕はその事を知らず目が覚めた。

「ここは…」

「大丈夫ですか?自分の名前は言えますか?」

医師達にそう言われ完全に目が覚めた。

すると2人の警察官が横に来て会話を始めた。

「渉君ですね?急な事で嫌かもだけれどお父さんのこと教えてくれないかな…?」

「お父さんは…僕に謝って飛び降りました…」

警察官はノートにメモを書いていた。

「これからの事だけれど、養護施設に行くけど大丈夫…?」

警察官は僕の顔色を伺って問いかけた。

「はい…」

それから数日後に退院をして、家に帰宅すると知らない人が家の前に立っていた。

「あなたが渉君かな?私は施設の者なんだけど、今日からその施設で暮らして貰うために来ました。渉くんが必要だと思うものをリュックにまとめて持ってきてくれないかな?」

僕は無言で頷いて部屋へ向かった。

電気の付いていない薄暗い部屋で僕はリュックに日々使うものを詰め部屋を出ようとした時ふと写真立てに入っていた家族写真を手に取って部屋を出た。

「それじゃあ施設に向かおっか」

僕は手を引かれて施設へと向かうのだった。

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