5話 再会
「チュンチュン、チュン」
朝になり外は雀の声が響いていた。
「………は!ここは…って誰もいない…やっぱりあれは幻覚かなにかだったんだ…」
「起きたか?」
僕は突然扉が開くのに驚いて腰を抜かした。
「そんな驚いてどうしたというのだ」
「あ…え……幻覚じゃ…」
「幻覚?何を言っている?まだ寝ぼけているのか?そんな事より我についてこい」
「は、はい…」
僕は足を引きずって蛇神について行くと本殿の裏側に大量の食料が置いてあった。
「まだ腐ってないものを置いてある腹が空けばそこの食料を食べてくれて構わない。それと…」
「ちょ、ちょっと待って…!」
「なんだ?」
「僕、ここにいていいの…?」
「昨日の夜に言ったであろう。あてが出来るまではここにいていいと」
蛇神は呆れたように言った。
それから僕はお腹が空いていたので食料を使って料理を作った。
蛇神にも謝礼の意を込めておにぎりをを握った。
「ど、どうぞ…」
「我にか?良いのか?それなら遠慮なく頂くとしよう」
蛇神は行き良いよく丸呑みした。
「ん〜…悪くないな。礼を言う」
僕は久しぶりに褒められてとても嬉しかった。
そして次の日も同じように過ごした。
暴力の振るわれない日常は僕にとって新鮮だった。
だが僕がいることでまた不幸なことが起きてしまったり、嫌われてしまうことが恐怖で僕はすぐにその場を離れるために蛇神に嘘を言った。
「僕、おばあちゃんに引き取ってくれるかもしれないのでそこに行ってみます…短い間ありがとございました」
「そうか、もう行くのか…。少し待て」
そう言って本殿に入っていった。
何かを咥えて戻ってきた。
「御守りだ、持っていけ。何かあればそれが助けてくれるだろう」
「ありがとうございます…」
「気をつけてな」
僕は村へと向かった。
村に入った瞬間村人たちが暴力を振るってきた。
「なんで戻ってきたんだ!汚らわしい!」
僕はあまりの痛みに倒れ込んだ。
「早く戻れ!」
そう言って村人達に腹や背中を蹴られた。
僕は抵抗出来ずただ御守りを握りしめた。
「手になにを持っているんだ!もしや、お供え物を取ったのか!それを渡せ!早く!」
僕は初めて優しくしてくれた蛇神から貰った御守りを死んでも渡したくなかった。
「嫌だ!これだけは誰にも渡さない…!」
「抵抗するな!持ってるものを離せ!…って!?…あれは!もしかして…神様?おぉ、これはなんと生贄が逃げ出してさらにお供え物を盗む、とんだ愚行をしてしまい申し訳ございません!すぐに本殿へもう一度生贄を供えさせていただきますので…」
「生贄になるのは貴様らだ」
蛇神は僕を囲むようにして守った。
「なんと、仰って…?」
村人たちは後ずさりをした。
「耳が腐っているのか?なら最後にもう一度言う。生贄として死ぬのは貴様らだ!」
おじいさんはいきなり倒れた。
それに怯えた村人は家へと逃げ込んで言った。
「蛇神…様…?どう、して…」
「なぜ嘘をついたんだ…?」
「嫌われたく、なかったから…迷惑…かけたく、なかった…から…ごめん…なさい…」
「そんな事を思っていたのか…」
「嘘ついて…ごめん…なさい…」
「嘘をつかれたが、その嘘は良心からの嘘だったんだろ?でなければ御守りをそんなに大切にしないはずだしな…。本殿に戻ろう。もう大丈夫だからな」
蛇神様は僕を本殿まで運んで寝かせてくれ、寄り添うようにそばにいてくれた。
そして朝を迎えた。
目が覚めて体を起こそうとすると全身に痛みが走った。
「大丈夫か?傷は痛むか?」
「痛いけど大丈夫です…その、嘘ついてごめんなさい…」
「謝るな…もう十分お前の気持ちは伝わった。もう今は謝らなくて大丈夫だ」
僕は今まで溜め込んできた涙を流した。
蛇神様は僕の頬に小さな舌をペロペロさせて何度も慰めてくれた。
「僕、もう1人になりたくない…」
「それなら我がそばにいてやろうか?」
僕は蛇神様の言葉に驚き蛇神様に目を向けた。
「我もここにずっといる訳ではないからな。ここを祀る人間が愚かならここにいる必要はない。お前があてを見つけるまでそばにいてやろう」
僕は蛇神様をゆっくり抱きしめた。
「いきなりどうしたんだ?」
「蛇神様、ありがとう…」
蛇神様は少し笑を浮かべて抱きしめ返してくれた。
そして行先が見つかるまで村近くの神社で過ごすことになった。
それからの毎日は幸せで家族の死もすぐに乗り越えられた。
蛇神様とは星を見ながら一緒に寝たり、山を散歩したり、楽しいことだらけの日々だった。
ある日の夜神社の近くで花火が上がっていた。
「蛇神様さん見て!花火だよ!」
「花火はいつ見ても良いものだな」
蛇神様は何か言いたげな表情をしていた。
「蛇神様、どうしたの?」
「そろそろお前には、我の本当の名を言うべきだと思ってな」
「僕多分だけど蛇神様の名前知ってるよ。多分、夜刀神だよね?」
「なんで我の名を知っているんだ…?」
僕は蛇神様の質問に答えようとしたが、息がが詰まって言葉が出なかったが、僕は蛇神様を信じて言った。
「僕、実は箭括氏麻多智と血が繋がっているんだ。僕のお母さんが箭括氏麻多智の子孫なんだ…」
蛇神様は「箭括氏麻多智」という名を聞いて目を見開いて驚いていた。
「もし、僕が嫌なら蛇神様のそばから離れるよ…?」
「その必要は無い。例え箭括氏麻多智の子孫であったとしてもお前はお前だ。麻多智ではないのだからお前を嫌いにはなったりしない。だから安心しろ」
僕は胸の内でずっとモヤモヤしていたことがやっと消えた。
「だが、蛇神と言っても夜刀神以外にもいるだろうになぜ我が夜刀神だと分かったのだ?」
「僕のお母さんが蛇神でも角が生えてる蛇神は夜刀神だけだって教えてくれたんだ。お母さんはずっとあの社に夜刀神が戻ってくることを願ってた」
夜刀神は何やら考えている仕草をしていた。
「もし蛇神様がいいって言ってくれるならあの神社に一緒に行かない?」
「それはいい提案だな。夜刀神社に戻ろう」
そして僕と夜刀神は祖父母の家の近くにある夜刀神社へ向かった。
「懐かしき場所だな。随分放置だったから穢れてしまっているな」
僕は夜刀神を祖父母の家に案内した。
「ここは?」
「ここが僕の祖父母の家なんだ。この家族写真を撮ったのがここなんだ」
そう言って僕は家族写真をカバンから出して見せた。
「僕ね、あの時ちゃんとお別れを言えなかったんだ。それだけが心残りで…」
「家族に会いたいか?」
僕はどういう意味かわからず夜刀神の顔を見た。
「我が家族に会わせてやる。これでも我は神だということを忘れないでくれよ?」
僕は夜刀神の後ろをついて行った。
ずっと歩いていると夜刀神社にたどり着いた。
「本殿に向かって家族に喋りかけてみろ」
「お母さん!お父さん!」
僕は目をつぶって呼んだ。
突然前から母と父の声が聞こえた。
僕は驚いて目を開けて前を見るとそこには両親が目の前にいた。
「渉!ごめんね…1人にして…」
「お母さん、お父さん、僕もう大丈夫だよ。もう1人じゃないから!」
「夜刀神様。私たちの渉をどうかよろしくお願いします…」
お母さんとお父さんは夜刀神に向かって土下座した。
「表を上げろ。我は何もしていない。我のことを信じてくれたのはこの子だ。ただそれに応じているだけだからな」
「渉!夜刀神様と仲良くね?お母さんとお父さんはもう何も心配ないから安心してね?」
そういうとお母さんとお父さんはゆっくり消えかけていた。
「あ!そろそろみたい。もう行くね?渉がどうかこちらに来ないことを祈っているわ!」
「ありがとう!今まで!ずっと大好きだよ!お母さん、お父さん!」
そうして2人は空の彼方に消えていった。
「話したいことは話せたか?」
「…うん。」
夜刀神は心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
僕は泣いていたが安心して微笑んでいた。
「夜刀神さん。ありがとう」
「家に戻ろう」
そうしてその日は祖父母の家で夜刀神と一緒に寝た。
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