血の目覚め、獣の目覚め
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──血の目覚め、獣の目覚め
爆撃が終わった。
「無事か?」
セラフィーネがそう尋ねる。
「何とか生きている。私も悪運が強い」
ハイドリヒ少将が瓦礫を払いのけて立ち上がる。
「優れた戦士も運によって生きることもあり、死ぬこともある。それを含めて戦士の能力と言えるだろう。よく生き残った」
セラフィーネはそう言って砲撃と爆撃によって廃墟と化した宮殿を見渡した。
「旅団長閣下。クイルンハイム戦闘団が宮殿北棟の賊軍の降伏を受け入れました。現在武装解除が進行中です」
「宮殿は取り戻した。とは言え、いつまた元の姿に戻るかは分からんが」
旅団本部の通信兵が報告するのにハイドリヒ少将がため息交じりにそう言った。
宮殿での戦闘で打撃を受けたバルクマン戦闘団は再編成を始め、クイルンハイム戦闘団は北棟で降伏したクーデター軍を武装解除して国家憲兵隊に管理を任せた。
「ハイドリヒ。宮殿は取り戻したな。次はクローネヒューゲル空港だ」
「ああ、バイエルライン。帝国軍を王都から一掃しなければ。それに賊軍の首魁たるゲオルグも空港に逃げたに違いない。奴を捉えなければならんぞ」
「既にオルブリヒト戦闘団がクローネヒューゲル空港への突撃を実行しようとしている。我々も向かうぞ。賊軍の弾薬と
「助かる」
輸送ヘリを失った第1降下猟兵旅団は徒歩で機動するしかなくなっていたが、ここでクーデター軍が残した
第1降下猟兵旅団の生存者たちは次に戦場に向かうために
「この宮殿のために何人死んだんだ……」
アウグストはマリーとともに激戦の末に奪還され、王国の国旗と第1降下猟兵旅団、装甲教導師団の軍旗が掲げられた宮殿を見上げる。
「必要な犠牲です。これで諸外国は我々の援助に前向きになるでしょう」
「そうだが。しかし、何の意味もない建物のために」
「陛下は王冠と王座を無用のものと思われますか? それらは歴史であり、歴史が作った権威となります。権力は権威によって裏付けられる。コール議員だけでは王国の主権を主張することはできません」
アウグストが唸るのにマリーが淡々と述べた。
「君は冷静だな。このような悲劇を前にそこまで冷静であるというのは驚かされるよ。まして、君のような子供がそうだとは」
アウグストはマリーの様子に驚いたように返す。
「どうでしょう。私は自分が冷静だとは思えませんが」
マリーは臭いを嗅いでいた。
血の臭い。人が焼ける臭い。臓物から漏れた汚物の臭い。
それらがマリーを奇妙なまでに落ち着かせていた。
戦いと殺戮、死を前にして恐慌するでもなく、不安になるでもなく、悲観するでもなく、マリーはどこまでも冷静だった。
「血が目覚めたな」
そこにセラフィーネが現れた。
「お前の中に流れる私の血が目覚めた。獣の血が目覚めた。もはやお前はただの無力な小娘ではない。戦士だ。命を奪い、殺戮を演じるものだ」
「お婆様」
「恐れるな。別に恐ろしいことではない。人と獣が有する本能に従うだけだ」
マリーが半自動ライフルを抱えてセラフィーネを見るのにセラフィーネはそう言って装甲教導師団隷下クイルンハイム戦闘団の有する
「お前も来い。その血の力を示すがいい」
「マリー嬢。我々が空港に行く必要はない」
セラフィーネが誘うのにアウグストがマリーを呼び止める。
「行きます」
「よろしい。それでこそだ」
マリーも
「陛下。コール議員がホルティエン共和国の大使と話し、同国の支援を取り付けました。ホルティエン共和国は王国の正統な政府からの要請があれば、停戦監視のために軍を派遣する準備があるとのことです」
「停戦監視か。直接的な支援ではないが、それでもありがたい。これ以上、帝国が我が国を侵略することを阻止できる。コール議員にはただちに共和国に要請を」
「畏まりました」
装甲教導師団本部の通信兵からの連絡にアウグストが頷いた。
『装甲教導師団本部よりバルクマン戦闘団及びクイルンハイム戦闘団へ。前進開始。空港を帝国軍から奪還する』
そして、装甲教導師団と第1降下猟兵旅団が帝国軍が展開するクローネヒューゲル空港に進む。
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