傀儡政権

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 ──傀儡政権



「どうなっている。反乱軍に加わったのは第1降下猟兵旅団だけなのだろう? どうして未だに反乱を鎮圧できていないのだ!」


 国王の住まいであり、王国の精神的象徴である宮殿では国王の地位を簒奪したゲオルグが国家非常事態評議会によって樹立された政府の閣僚たちを見て叫んでいた。


「分かりません。宮殿を攻撃しようしていた部隊は退けましたが、王立放送局及び王国議会議事堂の奪還を目指した部隊とは全く連絡がつかないのです!」


 暫定的な陸軍参謀総長に任命された将軍が混乱した様子で答える。


「迅速に鎮圧しろ! 諸外国の介入を招くことになるぞ!」


「帝国に支援を要請してはどうでしょうか?」


「帝国の軍事支援は既に行われているはずだ。そう報告を受けている」


 閣僚のひとりの提案にゲオルグが陸軍参謀総長の方を見る。


「帝国空挺軍は既に王都内に展開しています。王国議会議事堂の奪還作戦には彼らも参加したはずですが」


「まさか帝国も撃退されたのか?」


「可能性としては。彼らからの報告はありませんので断言はできません」


「どうして報告がない! 共同作戦を行って居るのだぞ」


「しかし、帝国軍は情報共有を拒んでいます」


「クソ。なんたることだ」


 陸軍参謀総長の報告にゲオルグが吐き捨てる。


「陛下。恐れながら申し上げます。王都は今戦場となっており、危険です。一度地方都市に避難されてはどうでしょうか?」


「カイテル。お前は私に王都を放棄しろというのか? 我々の正統性にケチが付くぞ」


「しかし、もし反乱軍に宮殿を襲撃されるようなことがあれば」


「ううむ。分かった。考えておく」


 王国宰相に任命された陸軍上級大将のカイテルが意見するのにゲオルグが呻いた。


 そこで陸軍将校が会議室に入ってきて、陸軍参謀総長に耳打ちした。


「どうした? 何があった?」


「装甲教導師団が王都に向かっています。また第1降下猟兵旅団は官庁街に集結しつつあり、同旅団の砲兵が官庁街に位置する中央公園に展開しました。宮殿は今や敵砲兵の射程内です」


「速やかに官庁街を奪還しろ。すぐにやれ!」


「畏まりました、陛下」


 そして、クーデター軍の残余戦力も官庁街へと向かい始めた。


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