議事堂での決戦
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──議事堂での決戦
王国議会議事堂で第2降下猟兵大隊がクーデター軍から議事堂を防衛しているとき、マリーたちがいる王立放送局には駐屯地から大量の弾薬と燃料を運び出して来た第1降下猟兵大隊本体が合流していた。
ガンシップに護衛された輸送ヘリが王立放送局に面する道路に着陸する。
「大隊長殿。アウグスト陛下とコール議員を保護しています」
「よくやった、大尉。これで我々は正統性を得たぞ」
第1降下猟兵中隊中隊長の報告に第1降下猟兵大隊大隊長が喜んだ。
「これから議事堂に向かうぞ。第2降下猟兵大隊は苦戦している。戦友たちと旅団長閣下を助けなければ。準備はいいか?」
「できております」
「よろしい。一応放送機材は破壊しておけ。賊軍に後から取り戻されて利用されては困る。ここは放棄することになるからな」
「了解」
第1降下猟兵大隊は王立放送局の放送機材を破壊して輸送ヘリに駆ける。
マリーたちもそれに続いた。
「ふうむ。これは空を飛ぶのか?」
「そうです、お婆様。私も乗るのは初めてですが」
セラフィーネがしげしげとエンジンを始動しローターを回転させるヘリを眺めるのに、マリーがそう言って返した。
「空を飛ぶのは鳥とドラゴンの特権だったが、今や人すらも空を飛ぶのか。なんとまあ。想像もできないな。だが、面白そうではある。逃す手はないな」
セラフィーネは意気揚々と輸送ヘリに乗り込み、マリーも続く。
『大隊全員搭乗! 出撃せよ!』
『了解!』
輸送ヘリが上空に浮かび上がり、ガンシップが輸送ヘリの編隊を先導する。
「ほうほう。これはこれは。愉快だな。空を飛ぶというのはこれほどまでに愉快だとは。このような経験ができるとは現世もいいものではないか」
セラフィーネはヘリから地上を見て愉快そうに笑っていた。
『議事堂まで4分! 総員戦闘準備!』
無線を通じて第1降下猟兵大隊の兵士たちに指示が飛び、降下猟兵たちが空挺兵用の半自動ライフルや短機関銃を握り締める。
『大隊長殿! 先行しているガンシップからの報告です! 議事堂を攻撃している賊軍の規模は2個連隊以上! 戦車を含む装甲部隊です! また、その後方に砲兵陣地を確認したとのことです!』
『ガンシップに砲兵陣地を叩かせろ! それで援護する!』
『了解!』
ガンシップがクーデター軍の自走榴弾砲が並ぶ砲兵陣地を捕捉。油断して防空体制を取っていなかったクーデター軍の砲兵に向けてガンシップが襲い掛かる。
『爆撃だ! 退避、退避!』
自走榴弾砲は装甲化されていると言っても敵の対砲迫射撃による砲弾の破片を防ぐ程度のものにすぎず、ロケット弾の直撃を受けると撃破された。
砲弾が誘爆して大爆発を起こし、弾薬を輸送していたトラックも攻撃を受けて吹き飛ぶ。クーデター軍の砲兵は自らの準備不足のツケを身を持て支払うことになった。
『カエサル・アインより大隊本部! 敵砲兵陣地を撃破しました!』
『よくやった! 速やかに合流せよ!』
ガンシップが攻撃を終えて王国議会議事堂に向かう第1降下猟兵大隊の輸送ヘリの編隊に再び上空援護機として加わった。
『間もなく議事堂です!』
『降下できる場所はあるか!?』
『議事堂正面は賊軍だらけです! 議事堂の後ろに回り込みます!』
第1降下猟兵大隊を乗せた輸送ヘリの編隊は地上に大量の戦車と兵士たちがいるのを見下ろしながら議事堂の裏に向かおうとする。
「降りんのか? 敵がいるぞ?」
「無理です! 装甲車の残骸だらけでヘリが着陸できません!」
「そうか。だが、私はここで降りるぞ」
「何を──」
セラフィーネが同じヘリに乗っている降下猟兵に言うと開きっぱなしのヘリの兵員室の扉から地上に向けて飛び降りた。
『ブラウ・アインより師団本部。砲兵の支援がない。どうなっている?』
『師団司令部よりブラウ・アイン。現在確認している。攻撃は実施せよ』
『クソ。話と違うぞ。このまま攻撃したらまた──』
戦車の1台が近衛装甲師団司令部と通信していたとき、突如としてその上面装甲が貫かれて車長が真っ二つに引き裂かれて死亡した。
『な、何が……?』
『ブラウ・ツヴァイよりブラウ・アイン! 敵だ! 何者かがそちらの砲塔に乗っているぞ! 気を付けろ!』
戦車の僚車から警告が飛ぶも手遅れた。
「貰った」
朽ちた剣で戦車を貫いたセラフィーネがそのまま朽ちた剣に炎を宿し、戦車内を焼き尽くす。砲弾が暴発し、爆炎が吹き上げる中でセラフィーネが戦車を飛び降りる。
「血の臭い。鉄の臭い。人の焼ける臭い。まさに戦場。とくと味わわせてもらうとしようではないか。さあ、戦士たちよ。死を恐れることなく猛々しく戦って名誉ある戦士として果てるがいい」
セラフィーネが朽ちた剣を踊らせるとゴーレムが20体出現する。
『敵だ! あれは敵だぞ! 撃て!』
『砲兵の支援はどうなってるんだよ!?』
『ブラウ・ドライより大隊指揮車! こちらに敵が向かって──』
戦車が次々にゴーレムの構える巨大な剣によって引き裂かれ、爆発し、炎上し、残骸を議事堂前庭に晒していく。
「炎はいい。炎は勇気あるものと臆病者を分ける。炎を前に臆さぬものこそ真の戦士だ。人が火を手にした時から我々はこの熱を帯びた悪魔と踊って来た。敵を殺すために、自らを焼くために」
『クソ、クソ! 装填手、
戦車がゴーレムを砲撃するもその歩みは止まらず、また戦車が炎上する。
次々に爆発して炎上する戦車が溢れ、地獄の業火のように議事堂前庭が魔境染みた明かりに照らし出された。鉄が燃え、人が燃える。
「前方で凄まじい炎だ。何が起きた?」
帝国の第234親衛空中突撃連隊を中核とする諸兵科連合部隊からの炎は見えた。前方で激しく炎が燃え上がるのに指揮官の帝国空挺軍大佐が空挺可能な
「大佐殿。王国軍の先遣部隊と連絡が取れません」
「敵は燃料を使った仕掛け爆弾を大量に設置しているとの報告だったな。それにやられたか? それにしては爆発音が少なかったが……」
「どうなさいますか?」
「前進だ。こちらの砲兵に支援させて、反乱軍を殲滅する。連隊、前進せよ」
帝国空挺軍大佐の命令で部隊が前進する。
完全な空中機動部隊であるオスキン大佐の第591親衛空中突撃連隊と違って、この第234親衛空中突撃連隊は装甲化されていた。
口径73ミリ低圧滑腔砲を備えた
『ボスホート・トゥリー、前進、前進』
第234親衛空中突撃連隊に与えられた自走重迫撃砲を装備する砲兵が砲撃を行い、部隊の主力が議事堂に向けて突き進む。
『クソ。炎が正体が分かった。王国軍の戦車が片っ端から撃破されてやがる』
『どうします?』
『進め。撤退は許されていない』
帝国空挺軍の
「おや? 新手か? よく来た。歓迎しよう」
そして、彼らを砲塔が吹き飛んで炎上する戦車に腰かけたセラフィーネが出迎えた。
『なんだ、あれは……』
『ボスホート・アジンより大隊各車、警戒せよ』
先行していた大隊の
「何をびくびくしている? 戦士なのだろう? 覚悟をして戦場に飛び込んだはずだ。それとも迷子か? 戦場に迷い込んだ間の抜けた酔っ払いか? そうでないならば、戦士として相応しい態度を取れ」
「止まれ! 動くと撃つぞ!」
「ふん。戦士となる気がないなら、ただの死体になれ」
帝国空挺軍の兵士が突撃銃の銃口を向けるのにセラフィーネが朽ちた剣を振るった。
「なっ──」
朽ちた剣から無数の刃が生まれ、それらが兵士たちに襲い掛かる。
「クソ! 撃て! 殺せ!」
『ボスホート・アジンより大隊各車! 射撃開始、射撃開始!』
兵士たちの銃火器と
「戦士らしくなってきたな。真の戦士となり名誉ある死を迎えるがよい。あるいは私を殺して勝者として戦場に立つかだ。戦場にはふたつの運命しかない。戦って死ぬか、戦って勝つかだ」
セラフィーネが銃弾、砲弾、対戦車ロケット弾という殺意を帯びて飛来してきたものを次々に暴発させながら朽ちた剣を躍らせた。
それによってゴーレムが出現。巨大な剣を構えた鋼鉄の巨人たちが帝国空挺軍の部隊へと前進していく。それに向けて兵士たちは狂ったように火力を叩き込む。
「畜生! 対戦車ロケットを撃て! 叩き込め!」
「後方に警戒!」
王国陸軍の装備している対戦車ロケットより弾頭が大きく、貫通力の高い対戦車ロケットがゴーレムに向けて発射される。
「命中、命中!」
「効果がないぞ! どうなってる!?」
対戦車ロケットの
「
『ボスホート・ピャーチ! 射撃、射撃!』
兵士の要請を受けて
だが、この帝国空挺軍の装備する
放たれた砲弾がゴーレムに当たらず、ゴーレムが
『うわっ──』
空挺仕様のため戦車よりも遥かに薄い装甲があっさりと切り裂かれ、弾薬ごと炎上する。火だるまになった乗員が生きたまま焼かれ、悲鳴を上げ続けていた。
「歌だ。戦場の歌だ。戦士たちが上げるは悲鳴に非ず。歌である。真の戦士が己の苦痛に泣き叫ぶものか。彼らは歌うのだ。自らの生を歌った歌を、戦いの歌を」
「化け物め! 死ね!」
帝国空挺軍の兵士がゴーレムではなくセラフィーネに向けて対戦車ロケットを発射した。だが、セラフィーネはそれを見切り、空中で引き裂き、暴発させる。
「私は宴というものはさして好きではない。もちろん、将が兵たちを死地に向かわせる前にその心を鼓舞するのような宴はいい。だが、ただのくだらぬ祝いのために肉を貪り、酒を呷るのは退屈だ。喜びを感じない」
「機関銃班! あの女だ! あの女を狙え!」
セラフィーネが剣を舞わせ、無数の刃が、血で軌跡を描きながら舞う。
「しかしながら、戦場とはまさに宴のようだとは思わんか? 歌を歌い、戦士たちが歓声を上げ、血と殺戮に酔う。血に酔うのはまこと甘美なことよ。血の臭いは戦士を興奮させ、美酒の如く酔わせる。私も少し酔ってしまったな」
「畜生、畜生。何で死なないんだ。何で弾が当たらないんだ。こいつは一体何なんだよ、クソッタレ!」
突撃銃にマウントされたライフルグレネードがセラフィーネに放たれた。
「酔え。恐怖も痛みもなくなるぞ」
兵士の首がまた刎ね飛ばされる。
「連隊本部、連隊本部! こちらボスホート大隊! 大隊は全滅だ! 大隊の残余戦力は残り数個分隊のみ!」
『こちら連隊本部。何があった?』
「化け物だ! 化け物がいる! 皆殺しにされた!」
『よく聞こえない。正確に報告せよ。繰り返せ』
「畜生」
死んだ通信兵の無線機にしがみついていた大隊長が顔を上げる。
「よく戦った。戦士として死ぬがよい」
朽ちた剣を構えたセラフィーネが大隊長の前に立っていた。
「
「ほう。私の正体を当てたのはお前が初めてだよ。素晴らしい。だが、終わりだ」
セラフィーネが大隊長の首を刎ね飛ばし、鮮血が吹き上がる。
「血に酔えば孤独も忘れられる。もはや現世には我が好敵手であった吸血鬼も、人狼も、ドラゴンもいないことを忘れられる」
少し寂し気にセラフィーネが呟く。
だが、帝国空挺軍は彼女の感傷どころではなかった。
「ボスホート大隊が壊滅しただと。まさか、そんな。敵に増援か?」
「はっ。斥候が敵の空中機動部隊1個大隊相当を確認しております」
「1個大隊の軽歩兵で戦況がここまで変わるだろうか。どうにも嫌な予感がする。楽な戦争だと思っていたが、何かが介入している」
「ホルティエン共和国の特殊作戦部隊でしょうか?」
「可能性としては」
帝国が脅威として考えているのは精鋭として知られるホルティエン共和国の特殊空挺部隊の介入だった。彼らはどんな困難な任務だろうと成功させると言われている。
「だが、いずれにせよ航空支援も砲兵による火力支援もない軽歩兵だ。こちらが装甲戦力と火力を投じれば勝てない相手ではない。やるぞ。皇帝陛下万歳」
「皇帝陛下万歳」
そして、帝国空挺軍大佐が命じたとき爆発音が響いた。
「何だ?」
「敵です! 敵の攻撃です! 敵は前方の部隊を殲滅しながらこちらに向かっています! 応戦は困難とのこと!」
帝国空挺軍が攻めあぐねていたとき、セラフィーネが突撃してきたのだ。
「クソ。応戦しろ! 撤退は許可しない!」
帝国空挺軍がセラフィーネに応戦する。
「
鋼鉄の軍馬に乗ったセラフィーネが同様に鋼鉄の軍馬に乗ったゴーレムたちとともに帝国空挺軍部隊を撃破し、皆殺しにしながら突撃していくる。
「突破される! 突破されるぞ!」
「最終防護射撃、最終防護射撃! 全ての火力を叩き込め!」
戦友たちを屠りながら突撃するセラフィーネに向けて帝国空挺軍が火力を集中。
歩兵を直接支援する口径82ミリ迫撃砲が一斉に火を噴き、後方からは重自走迫撃砲が砲弾を放ち、部隊に加わっていた口径57ミリ戦車砲を備えた空挺自走対戦車砲がフレシェット弾を叩き込む。
「撃て、撃て! とにかく叩き込め!」
歩兵も重機関銃や軽機関銃の銃弾を放ち続ける。
「騎兵突撃において重要なのは決して止まらぬこと。何があろうと止まることは許されない。速度こそが、その衝撃こそが騎兵の武器。止まることはただの的に成り下がることを意味する。止まらず、死に飛び込め」
その猛烈な火力による鋼鉄と殺意の嵐の中をセラフィーネがゴーレムたちと駆け抜ける。彼女の語るように決して止まることなく駆け抜け、敵を裂き、敵を踏みにじり、突撃していった。
「大佐殿! 敵がこちらに来ます! どうなさいますか!?」
「王国軍に支援を要請しろ! 何が起きているというのだ、クソッタレ!」
第234親衛空中突撃連隊司令部に向けてセラフィーネが迫る。
『サリュート・アジンより大隊指揮車! 敵を砲撃するも効果なし! 突破され──』
空挺自走対戦車砲大隊も壊滅。
「敵、来ます!」
「我々は退かんぞ。やってやる」
帝国空挺軍大佐自ら空挺仕様の突撃銃を握り、銃口を炎が広がっていく前方に向けた。次々に装甲車が撃破されては炎上し、炎が迫ってくる。
「来た──!」
そして、セラフィーネを先頭として突撃してくる鋼鉄の騎兵たちが現れた。
「撃てえっ!」
あらゆる火力がセラフィーネに牙を剥く。
「よろしい。最後まで抗ったな。戦士として死ぬがよい」
「化け物め……! 貴様は私が殺してやる!」
装甲車も兵士も切り倒される中、帝国空挺軍大佐が対戦車地雷を手にセラフィーネに向けて駆け始めた。
「喰らえ!」
そして、対戦車地雷を鋼鉄の軍馬が足元に放り込む。
爆発。
対戦車地雷は帝国空挺軍大佐ごと爆発した。
「連隊長戦死! 繰り返す、連隊長戦死!」
帝国空挺軍の兵士たちが叫び、対戦車地雷の爆発による煙が立ち込める中、ゆっくりとセラフィーネが煙から現れる。
「素晴らしい。名誉ある戦士だ。恐れを知らぬ戦士であった。そのようなものと戦えたことが我が栄誉よ。讃えよう。戦士の勇敢さを。勇者の死を」
セラフィーネは歌うようにそう語り、ゴーレムたちは殺戮を続けた。
王国議会議事堂奪還を目指していたクーデター軍と帝国空挺軍はこののちに完全に壊滅し、撤退を強いられることになる。
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