降下猟兵
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──降下猟兵
ティゲリアム王国王都郊外第1降下猟兵旅団駐屯地。
「出撃する! 我が国は侵略を受けているのだ!」
同駐屯地の旅団長執務室にて王国陸軍の戦闘服に少将の階級を付けた初老の男が叫んでいた。第1降下猟兵旅団旅団長のアルフレート・ハイドリヒ少将だ。
「しかし、政府の命令もなく出撃するのは軍法に反します」
「その政府とやらが侵略者を招き入れているのだ! 我々はこの国を守らなければならない! その義務がある! この国の主権と民主主義、そして国民を守るのは我々の義務である!」
参謀が制止するのにハイドリヒ少将は椅子から立ち上がって叫び続ける。
「大隊長を全員集めろ。指示を出す。速やかに王都に出撃し、帝国軍及びクーデター軍を排除する。何をしている! 急がんか!」
「閣下。正規の命令なしに動くわけにはいきません。ここは待つべきです。このまま動けば軍法会議になりますよ」
「構わん! 私が全ての責任を取る。軍法会議では私の命令だったと証言してやる。喜んで銃殺されてやろう」
参謀が必死で止めるがハイドリヒ少将は命令をごり押しする。
「いいか、参謀。軍法会議になれば処刑されるのは私だけだが、このまま侵略を許してみろ。帝国軍によって将校は全員処刑され、兵卒たちは流刑地で強制労働だ。どちらがマシかは言うまでもないな?」
「それは……」
「急げ。大隊長を集めろ。今、まさに現在進行形で我々は侵略されているのだぞ。放置すれば手遅れになる。まだ王太子殿下が亡くなったというニュースはない。可能であれば王太子殿下を救出して、こちらも正統な政府を樹立する」
「分かりました。閣下のご覚悟に敬意を表します。政府を樹立するであれば民主派議員も必要でしょう。この近くに自由民主党の議員で民主派議員で知られる庶民院議員のクルト・コール議員がおられます。保護を」
「よろしい。すぐに保護せよ。部隊を編成して送る。大隊長を集め、作戦を命じる。速やかに行動せよ」
「はっ!」
参謀が通信参謀に伝え、第1降下猟兵旅団に所属する4個降下猟兵大隊の大隊長が旅団長執務室に集まった。
「諸君。我が国は侵略を受けている。戦わなければならない。ここに全員が国を守ると宣誓して軍人になったのだ。義務を果たすぞ」
「了解です、旅団長閣下」
第1降下猟兵旅団は4個降下猟兵大隊と1個降下砲兵大隊、1個後方支援大隊を基幹として編成されている。
空挺降下も行うが、もっぱらヘリによる空中機動によって展開する。降下砲兵大隊もそうでありヘリボーン可能な軽量の口径105ミリ榴弾砲を装備していた。
「まず第1降下猟兵大隊から1個中隊を抽出し、民主派議員の保護を行う。他は速やかに王都に向けて展開。通信中隊がクーデター軍の無線を傍受している。目指すは王国議会及び官庁街、そして国王宮殿の制圧だ」
「空港は帝国軍に制圧されました。クーデター軍も王都内に展開しています。展開手段はヘリボーンですか?」
「そうだ。第2降下猟兵大隊は王国議会議事堂を。第3降下猟兵大隊は内務省を最優先として官庁街を。第4降下猟兵大隊は宮殿だ。第1降下砲兵大隊は王都を射程に収められるこの地点に布陣し要請に応じて火力支援を実施」
大隊長のひとりが尋ねるのにハイドリヒ少将が地図を広げて命令する。
「閣下。第1降下猟兵大隊は?」
「重要な任務を任せる。王太子アウグスト殿下を保護せよ。情報は少ないがなんとしても殿下をお助けするのだ。我々には殿下の存在が必要になる」
第1降下猟兵大隊大隊長の質問にハイドリヒ少将が険しい表情で告げた。
「クーデター軍の無線は傍受して、解析している。それを利用して殿下を救出せよ。殿下が賊軍の手にかかる前に。いいな?」
「この胸の降下猟兵徽章にかけて必ず成し遂げて見せましょう」
「よろしい。では、出撃準備に入れ」
大隊長たちが了解し、第1降下猟兵旅団が動き出す。
「閣下。弾薬庫の兵站将校が正規の命令書がなければ弾薬は渡せないと言っています」
「指示待ち人間が。悪しき官僚主義の権化め。そのような愚か者は殴り倒していい。気絶させてカギを奪え」
「了解」
駐屯地の弾薬庫が屈強な降下猟兵たちに襲われ、弾薬庫から武器弾薬が運び出された。それによって兵士たちが武装する。
「ヘリの準備はいいか?」
「飛行隊は全員が国のために命を捨てていいと言っています」
「よろしい。5分以内に出撃せよ! 私は第2降下猟兵大隊に同行する! いくぞ、諸君! 今日を以てして戦争処女は卒業だ! 帝国の侵略者と逆賊どもを始末しろ!」
「了解!」
第1降下猟兵旅団の降下猟兵たちは速やかに装備を受け取り、大隊ごとに輸送ヘリに乗り込んだ。輸送ヘリの編隊には小型の汎用ヘリをロケット弾と重機関銃で武装させたガンシップが同行する。
「旅団長閣下。お供できて光栄です」
「私もだ。この国を守るぞ。何としても」
そして、第1降下猟兵旅団の駐屯地から無数のヘリが離陸し、王都へと向かった。
その一方で民主派議員を保護するために1個中隊が議員の邸宅に向かう。
「旦那様。クーデター軍が来ております。お逃げください」
「賊軍ごときに怯えてなるものか。連中に民衆の力を教えてやる」
民主派議員の粛清に動いていたクーデター軍の機械化歩兵部隊が民主派議員のひとりクルト・コール議員の拘束及び処刑に向けて彼の屋敷に向かっていた。
『敵の
『やれ。交戦開始! 祖国のために逆賊を討て!』
その上空から迫った第1降下猟兵旅団第1降下猟兵大隊の1個中隊がクーデター軍への攻撃を開始する。
ガンシップが装備したロケット弾が
「クソ! 爆撃だ! 迎撃しろ!」
「対空射撃、対空射撃!」
攻撃を行うガンシップに向けて
『ドーラ・アイン、被弾、被弾!』
ガンシップと言えど汎用ヘリに武装を取り付けただけに過ぎないもので、防弾性はないに等しく、対空機銃を受ければ蜂の巣だ。
だが、それでもガンシップは輸送ヘリから狙いを逸らし、彼らが着陸するための時間を稼ぐことに成功した。
「降りろ、降りろ! 逆賊を制圧して議員を救出する! 俺に続け!」
「大尉殿に続け!」
ヘリボーンに成功した降下猟兵たちが狭いヘリの中でも抱えられるように設計された折り畳み式銃床を備えた半自動ライフルや短機関銃を持って、民主派議員のいる屋敷へと突撃を開始。
「クソ。降下猟兵が裏切ったぞ!」
「任務を果たせ! 売国奴の議員を探し出して殺すんだ!」
迫る降下猟兵にクーデター軍の機械化歩兵が応じる。
軽機関銃が弾幕を展開し、破壊されて炎上する
「伏せろ! 蜂の巣にされるぞ!」
「選抜射手! 機関銃の射手を仕留めろ! このままでは前進できん!」
中隊長の大尉が叫んで選抜射手を呼ぶ。
「中隊長殿、選抜射手が配置に着きました!」
「よし。いいぞ。機関銃の射手を叩いたら、速やかに前進再開だ!」
降下猟兵中隊隷下の降下猟兵分隊には中距離の狙撃を担う選抜射手が存在する。狙撃を任務とするがあくまで分隊レベルの作戦においての狙撃だ。あまり長距離の狙撃を行うことはない。
「目標を確認。やるぞ」
選抜射手が光学照準器を除き、軽機関銃で制圧射撃を行う兵士の頭をレティクルに収めると引き金を引いた。
銃弾が軽機関銃の射手の頭を弾き飛ばし、軽機関銃が沈黙。
「軽機関銃がやられた! 射手を代われ!」
「車載機銃も使え!」
クーデター軍の機械化歩兵は大慌てで応戦しようと必死だ。
だが、
「突撃!」
そして、降下猟兵が装備す売る半自動ライフルに装備されたライフルグレネードが一斉に発射され、クーデター軍の機械化歩兵を吹き飛ばす。そこに降下猟兵中隊が全力で突撃していった。
「怯むな! 進め! 賊軍を討てえっ!」
中隊長自らが先頭に立って敵を銃撃しながら走って進み、降下猟兵中隊の兵士たちも射撃を行いながら突撃していく。
「白兵戦だ! 着剣しろ!」
眼前に降下猟兵中隊が迫るのにクーデター軍の機械化歩兵の兵士たちが銃剣を付け、スコップを握り、白兵戦に備える。
そして、両者が衝突した。
「殺せ!」
「やっちまえ!」
銃剣が敵を突き、スコップが頭を叩き割る。
実に原始的な戦闘が繰り広げられたが、勝利したのは練度の上で上位である降下猟兵中隊だった。近衛装甲擲弾兵師団と言っても近衛の練度はさして高くはない。
「やったぞ。敵を殲滅した。議員を保護する。少尉、お前の小隊は付いてこい」
中隊長は血を帯びた銃剣を握ったまま、1個小隊を連れて屋敷に入る。
「やべえ。俺、人を殺しちまったよ」
「敵だよ。賊軍だ。悪いことはしてない」
だが、実戦というものにおいては降下猟兵たちも初めてだ。兵士たちはまるで夢を見ていたかのような気分で戦い、現実味のない血の生ぬるい感触に僅かに怯えていた。
「賊軍か!」
降下猟兵たちが屋敷に入るのに猟銃を構えた庶民院議員のコール議員が現れた。
「違います、議員閣下。我々は正統な政府に忠誠を誓っております。帝国軍の侵略に対抗するために議員のお力が必要です。同行していただきたい」
「陸軍にも正しいものがいたか。君たちは英雄だ。では、放送局に向かうぞ」
「放送局? 議員には安全な場所に避難していただくようにとの命令を受けております。我々の駐屯地に来ていただきたい」
「ダメだ、大尉。我々は正統な政府が存在することを内外に示さなければならない。今の帝国軍の侵略を招いた政府は簒奪者が作った不当な政府だということを知らせ、我々こそが正統な王国政府だと知らせるのだ」
「本気ですか?」
「私は本気だ。この国の民主主義のためにならば死んでもいい。君の兵を貸してくれ」
「分かりました。向かいましょう!」
猟銃で武装したコール議員を連れて降下猟兵中隊は再び輸送ヘリに乗り込む。
そして、降下猟兵中隊は王都にある王立放送局に向かった。
その頃、第2降下猟兵大隊は王国議会議事堂に向けて空中機動していた。
「旅団長閣下! 議事堂に賊軍の自走対空砲を確認しました!」
「先を越されたか。自走対空砲の射程に入る前に降下しろ。ガンシップは上空待機だ。我々が賊軍の自走対空砲を潰したら支援をさせる。それまでは我々が己の手で道を切り開く。行くぞ、諸君!」
クーデター軍についた近衛装甲擲弾兵師団の自走対空砲中隊に配備されていた口径37ミリ2連装高射機関砲を備えている自走対空砲が議事堂を守っている。
第2降下猟兵大隊は自走対空砲に撃墜されないように、議事堂手前の国会公園に着陸し、兵士たちが降下して展開した。降下猟兵たちが降り立ち、ヘリで輸送した迫撃砲などを公園の中にに広げる。
「旅団長閣下。第1降下砲兵大隊が位置につきました。火力支援可能とのこと」
「気を付けろ。いつ航空優勢が奪われるか分からんし、賊軍や帝国軍の対砲迫射撃もある。可能な限り陣地を偽装させろ」
通信兵もアンテナを広げて通信を行う。
「第1降下猟兵大隊より連絡です。コール議員を保護しました。ですが、コール議員の要請で王立放送局に向かっているとのこと。正統な政府の存在を放送によって内外に示すそうです」
「なんと! コール議員は漢だな。流石は我が国の政治家だ。勇気がある。我々も議員に負けぬような戦いをせねば。第1降下猟兵大隊には王立放送局の制圧を許可する。これで我々の士気は上がるぞ!」
ハイドリヒ少将が歓声を上げる。
「降下猟兵諸君! 賊軍から国会議事堂を奪還し、我らが軍旗を掲げるぞ!」
「イエス、サー!」
降下猟兵たちは自分たちが国を救うのだとして士気が高い。
「大隊長。指揮は任せる。第1降下砲兵大隊に支援を要請してもいいぞ」
「了解しました、閣下。第1降下砲兵大隊の
「うむ」
第1降下砲兵大隊の
「見えたぞ。議事堂だ」
「戦車がいる。軽戦車だ。近衛装甲擲弾兵師団の奴だな。クソ、戦車が相手とは」
偵察分隊は軽戦車小隊に所属する5両の軽戦車と2個機械化歩兵中隊所属の26両の
「装甲目標が多い。厄介だな」
「大隊本部に連絡しよう」
偵察分隊と
「敵は2個機械化歩兵中隊と1個軽戦車小隊、そして1個自走対空砲小隊。砲兵に叩かせるしかなさそうだな。それから闇を活かす」
第2降下猟兵大隊の大隊長が地図を広げ、偵察分隊が確認した敵の配置を記し、友軍の配置も記した。
「砲兵で装甲目標を可能な限り撃破し、闇に乗じて敵に肉薄。携行対戦車兵器で残存する装甲目標を掃討し、敵の自走対空砲を破壊。その後、ガンシップの支援を受けて敵の歩兵戦力を殲滅する」
中隊長たちを前に大隊長がそう作戦を説明する。
「皆にとって初の実戦となるが落ち着いて行動せよ。このような事態に備えて我々は演習を重ねてきたのだ。日ごろの鍛錬の結果を存分に発揮するように」
「了解です、大隊長殿」
王国陸軍で実戦を経験した人間はひとりもいない。前の大戦を経験した兵士は今では全員が現役を退いている。
「大隊長。準備はいいか?」
「はっ。いつでも賊軍から国会議事堂を取り戻して見せましょう」
「よろしい。私も同行する。指揮官が模範を見せねばならん」
「しかし、閣下」
「銃を撃てる人間がひとりでも多い方がいいであろう。お前の指揮には口を挟まん」
「ご武運を」
「お前もな」
ハイドリヒ少将も短機関銃を握り、戦列に加わった。
「
降下猟兵たちが静かに国会議事堂に近づく中、第1降下砲兵大隊の
『初弾発射。弾着まで15秒!』
第1降下砲兵大隊が装備している口径105ミリ軽榴弾砲が砲撃を開始。
砲弾は王都の上空を飛翔し、議事堂前の道路に展開している軽戦車と
『小隊指揮車より各車! 被害報告!』
『グラウ・ツヴァイより小隊指揮車! 砲撃により履帯破損!』
『グラウ・ドライより小隊指揮車。被害なし』
流石に軽戦車は軽榴弾砲の砲撃では撃破できなかった。
「戦車が生きてる」
「俺たちがやるしかない」
砲撃の混乱に乗じて接近した降下猟兵たちが対戦車ロケットの狙いを軽戦車に向ける。主砲として60口径76.2ミリ戦車砲を備えている軽戦車の弱点となる砲塔側面を狙って対戦車ロケットを発射した。
『うわ──!』
軽戦車の弾薬が爆発して砲塔が吹き飛び、燃え上がる軽戦車から火達磨になった戦車兵が転がり落ちてくる。
「いいぞ。敵の戦車は殲滅した。後は自走対空砲を叩いて、ガンシップに支援させて賊軍を殲滅してやろう」
「大隊長。突撃か?」
「そうです、旅団長閣下」
「やろう。我々の勇気を賊軍に見せてやれ」
第1降下猟兵大隊の各中隊が配置に着き、議事堂を降下猟兵たちが睨む。
「突撃!」
そして、突撃が始まった。
大隊所属の口径82ミリ迫撃砲が支援し、応戦しようとするクーデター軍の機械化歩兵たちを道路から退け、それと入れ替わるように降下猟兵たちが道路を駆ける。
「突撃だ! 私に続け! 降下猟兵の誇りを示すのだ!」
ハイドリヒ少将も短機関銃を構えて突撃に参加し、クーデター軍の機械化歩兵たちと交戦する。腰だめで短機関銃を乱射して敵の頭を押さえ、議事堂に作られた土嚢によるバリケードを乗り越えた。
「応戦しろ! 機関銃班、制圧射撃! 突撃を阻止しろ!」
「グレネード!」
クーデター軍の機械化歩兵が重機関銃の掃射で降下猟兵による突撃を粉砕しようとするがライフルグレネードが重機関銃を射手ごと吹き飛ばし、反撃を阻止する。
「クソ! 退け、退け! 議事堂内で応戦する!」
「友軍の撤退を支援しろ!」
議事堂の窓から狙撃手が無防備な降下猟兵を狙撃し、降下猟兵が血の中に倒れる。
「おい、上等兵! その対戦車ロケットの弾薬はまだあるか!?」
「あります、閣下!」
「では、あそこに叩き込め!」
「了解!」
ハイドリヒ少将は狙撃手に向けて短機関銃で銃撃を行いながら、対戦車ロケットを装備している兵士に目標を指示した。
「後方に警戒!」
対戦車ロケットが狙撃手が銃口を出している窓に命中し、狙撃手を撃破。
「残りは自走対空砲だ! 片付けるぞ!」
「進め、進め!」
降下猟兵たちが議事堂前庭奥に潜んだ自走対空砲に向かう。
『ベーシュ・アイン、敵歩兵に機関砲の水平射撃を実施せよ』
『ベーシュ・アイン、了解!』
そこで自走対空砲が俯角を降ろして対空機関砲を水平に構えると迫りくる降下猟兵たちに向けて射撃を始めた。
「クソ、なんてこった! 纏めてやられたぞ!」
「下がれ、下がれ! ミンチにされちまう!」
対空機関砲の速射性は凄まじく、その水平射撃は歩兵にとって大きな脅威であった。
「大隊長! 敵の自走対空砲が水平射撃で抵抗しています! 被害甚大!」
「迫撃砲に煙幕弾を撃たせろ。敵の視界を塞いで肉薄し、これを撃破する!」
「了解!」
再び迫撃砲が火を噴き、今度は煙幕弾を議事堂前庭に降り注がせる。
『ベーシュ・アイン! 視界がふさがれた!』
『撃ち続けろ!』
視野を奪われた自走対空砲が対空機関砲を乱射する。
「怖いよ。殺される」
「俺たちは勝てる。怯えるな」
機関砲弾が飛び交う中、降下猟兵の兵士たちは工兵用の梱包爆薬や対戦車ロケットを持って自走対空砲に肉薄した。
「食らいやがれ! 戦友の仇だ!」
降下猟兵たちが一斉に手榴弾と梱包爆薬を投擲する。
王国陸軍の装備している自走対空砲はレーダーの小型化がまだ難しいため、搭乗員の視界を確保するためにオープントップの構造をしている。
そのために放り投げられた手榴弾や梱包爆薬は装甲も何もない砲塔上部が車内に入り、そこで炸裂した。爆発によって弾薬が暴発し、車体は炎上。乗員たちがそれに巻き込まれて死亡した。
「このまま全て仕留めるぞ。気合を入れろ!」
降下猟兵たちは自走対空砲に暗闇を活かして肉薄しては対戦車ロケット、手榴弾、梱包爆薬でそれらを始末していった。
「やったぞ! 大隊本部に自走対空砲壊滅と知らせろ!」
通信兵が自走対空砲の全滅を大隊本部に知らせる。
『ドーラ・ツヴァイ、いつでも航空支援可能』
「ドーラ・ツヴァイ! 全ての兵装を使って議事堂の賊軍を叩きのめせ! 発煙弾で目標を指示する! 赤の発煙弾が目標だ!」
『ドーラ・ツヴァイ、了解』
議事堂内に侵入した降下猟兵たちが赤の発煙弾をクーデター軍の機械化歩兵たちの陣地に向けて投げ込み、議事堂の外からロケット弾と重機関銃という火力を叩き込んだ。
「中隊長殿! このままでは全滅してしまいます! 撤退の許可を!」
「クソ、なんたることだ。やむを得ん。議事堂を放棄して撤退する!」
航空支援を受けている降下猟兵を相手にクーデター軍の機械化歩兵は劣勢に追い込まれ、圧倒的火力で押される中、撤退が開始された。
撤退と言っても装備を放棄し、とにかく逃げるだけの壊走だ。
「旅団長閣下。賊軍が敗走します」
「砲兵に吹き飛ばさせろ。賊軍に情けは無用だ」
砲撃で破壊された
第1降下砲兵大隊の砲兵が牙を剥き、逃げる兵士を空高く舞い上げる。
「賊軍たちは多くの装備を放棄していったな。回収して使用できるようにせよ。これからは持久戦だ。銃弾の1発すらも重要になるだろう。兵士たちにそれを徹底させて、回収させるように」
「はっ、旅団長閣下」
兵士たちがクーデター軍が放棄していった弾薬を回収し、陣地を構築し直す。
そして、王国議会議事堂の頂点に第1降下猟兵旅団の軍旗が掲げられた。
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