バーマースティア帝国空挺軍
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──バーマースティア帝国空挺軍
クローネヒューゲル空港。
ティゲリアム王国王都の主要空港であるその空港に、簒奪者ゲオルグが樹立した王国政府の軍事支援の要請を受けて派遣されたバーマースティア帝国空軍の大型軍用輸送機が何機も続けて降り立っていた。
輸送機によって運ばれたのは帝国空挺軍の空挺戦車や
「第105親衛空挺軍第591親衛空中突撃連隊パヴェル・オスキン大佐、出頭しました」
「よく来た、大佐。王国へようこそ」
帝国空挺軍のベレー帽と野戦服を纏った40代ほどの将校──オスキン大佐が敬礼するのに、帝国陸軍上級大将の階級章を付けた将軍が返す。
場所は空港に設置された王国派遣軍集団司令部だ。
「我々は友好国であるティゲリアム王国の正統な政府の軍事支援の要請を受けて展開している。我々の任務はこの正統な政府を維持することだ。あらゆる脅威を退け、我々の友好的な政府を維持する」
「はっ。把握しております」
帝国陸軍上級大将の説明にオスキン大佐が頷く。
「いいか、大佐。あらゆる脅威だ。君は何を想定している?」
「ホルティエン共和国の特殊作戦部隊の介入はあり得るかと」
「それもある。だが、君の任務はそれではない」
オスキン大佐の言葉に陸軍大将が首を横に振る。
「紹介しよう。陸軍参謀本部情報総局所属のイーゴリ・セーロフ少佐だ」
「初めまして、大佐。今回の作戦に当たって小官が同行します」
帝国陸軍の野戦服を纏った情報将校セーロフ少佐がオスキン大佐の前に出た。
「作戦目的は特殊な脅威の制圧です。我々の情報によれば王都内に特殊かつ甚大な脅威が存在するという確証があります」
「特殊かつ甚大な脅威とは?」
通常の軍事用語ではない言葉にオスキン大佐が首を傾げる。
「信じられないかもしれませんが、魔女がいます」
「魔女だと?」
「はい。確かな情報です。狂人の妄言だと思わないでください。帝国アカデミーでも神代の伝承だと思われていたことが遺跡の発掘によって史実であったことが分かっています。かつて魔女は存在し、今も存在するのです」
「情報将校がわざわざ冗談を言うために来たとも思えない。いるというならいるのだろう。では、どうすればいい? 魔女はどうやって殺すのだ?」
セーロフ少佐の発言にオスキン大佐が尋ねた。
「魔女とは言えど生き物です。物理的に殺害できます。ですが、神代の伝承によって脅威を分析した限りでは生半可な火力では退けられる恐れがあります」
「具体的に言ってほしい。歩兵の携行火器は通用するのか?」
「通じません。我が国の正規装備となった口径7.62ミリの突撃銃や軽機関銃、携行対戦車ロケット、軽迫撃砲などは全て通じないでしょう」
「化け物だな」
セーロフ少佐の説明にオスキン大佐が呻く。
「装甲戦力であれば多少なりと効果はあるはずです」
「オスキン大佐。君の指揮下に第7空挺対戦車大隊を配備する。同部隊は空挺戦車を装備している。使えるだろう」
セーロフ少佐に続いて帝国陸軍上級大将が告げる。
「助かります、閣下。それで、セーロフ少佐。決定的な戦力となるものはあるのか?」
「砲爆撃。魔女とは言え高空を飛行する爆撃機や遠距離から砲弾を撃ち込む砲兵にはかなわないはずです。少なくとも神代の伝承に該当するような兵器はありませんでした」
「なるほど。神代の時代にないもので対抗するのか」
セーロフ少佐の説明にオスキン大佐が納得した。
「オスキン大佐。この任務に当たって君は帝国空軍第722爆撃機連隊の航空支援が受けられる。いかなる場合にも、だ。それから帝国空挺軍所属の第56親衛砲兵連隊が君たちを支援する」
帝国陸軍上級大将の指揮する王国派遣軍集団は統合任務部隊として編成されており、空軍の部隊も彼の指揮下にある。
「任務を成し遂げたまえ、大佐。皇帝陛下もそれを望んでおられる。皇帝陛下万歳」
「了解しました、閣下。皇帝陛下万歳」
オスキン大佐は帝国陸軍上級大将にそう言ってセーロフ少佐とともに司令部を出た。
「セーロフ少佐。魔女についての具体的な情報が欲しい。魔女はどうやって我々を攻撃してくるのだ? 私は帝国空挺軍で軍歴を重ね、東方戦争にも参加した。並み大抵のことでは動じないつもりだが、魔女となると」
オスキン大佐が彼の従兵が運転する軍用四輪駆動車に乗り込んでセーロフ少佐に向けて尋ねる。軍用四輪駆動車は空港を入り、オスキン大佐が指揮する第591親衛空中突撃連隊の司令部を目指していた。
「神代の伝承によれば魔女というのは初代ブルーティヒラント女公セラフィーネ。伝承の中ではもっぱら“血塗れの剣魔女”として語られています」
「ふむ。剣で戦うが故にか? 戦争が剣によって戦われていた時代はもう終わったぞ。確かに銃剣やナイフを使うことが皆無になったわけではないが、主力ではない」
「剣は魔女の杖であり象徴であって必ずしもそれを使用して戦うと決まっているわけではありません。問題となるのは魔術です」
「流石に帝国アカデミーが魔術などというオカルトの存在を認めたとは思えんが」
「遺跡からは現代の科学では説明できない戦闘の痕跡も見つかっております。3000度以上の熱が生じた爆発の痕跡など。帝国アカデミーは神代の伝承にある魔術はかつて存在した事象改変的現象としています」
「随分と胡散臭い。だが、脅威をなるならば対処しなければならない」
「はい。魔女セラフィーネは伝承では数多の鋼鉄の兵士を操って軍団を撃破し、個人としては自在にあらゆるものを引き裂いたと言われています。帝国アカデミーの発掘調査では伝承にある戦場の跡地でそれらしき痕跡を見つけました」
「貴官はそのようなものにどう対応すべきだと思う?」
「神代の伝承が科学によって解析可能であるならば、神代の化け物も科学によって殺せるはずです。ひき肉になるまで銃弾と火薬を叩き込んでやれば、あるいは」
「よろしい。勝ち目がないのならば戦いは避けるべきだが、少しでも勝利できる可能性があるならば挑むべきだ。それが我々軍人だ」
オスキン大佐がそう言うと彼らを乗せた軍用四輪駆動車が第591親衛空中突撃連隊司令部に到着した。
第591親衛空中突撃連隊はヘリによって機動する空中機動部隊であり、全部隊が輸送ヘリによって機動することができるようになっている。部隊の輸送ヘリも大型軍用輸送機で飛行場に運び込まれていた。
「連隊長殿がお戻りです」
「連隊長殿。我々の任務は?」
連隊司令部の天幕に入ると連隊付の将校が尋ねる。
「王国派遣軍集団司令部は我々に魔女を撃破せよと命じた。魔女を殺すぞ、諸君」
オスキン大佐は部下たちにそう宣言した。
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