第24話
二○三七年四月六日、俺はSCCOの地下一階にある資料室へとやって来ていた。この部屋にはいくつかのステンレス製の整理棚と一台のパソコンがデスクの上に置かれており、SCCOがこれまでに収集した第二人種に関するデータを一挙にまとめたファイルが並べられている。
その中で、特に重要な情報は今俺が閲覧しているパソコンの中に保存されていて、例えば、これまでSCCOの部隊がこなしてきた任務に関する記録などは、すべてこの中に収められていた。
こういった機密情報を取り扱っているため、この部屋に入ることができるのは、ユナを含めた極一部の限られた人物だけであり、新人である俺は当然入ることを許されてはいない。
それなのに、何故俺がこの部屋に居るのかというと、取調室において俺がユナに頼んだことが、この部屋の使用許可をもらうことだったからという理由だ。
しかし、当然長いこと機密情報を閲覧することは許されておらず、一時間だけの猶予をもらって今に至る。
ここに入った時は午後十時を回っていたため、少なくとも十一時頃までには退出しなければならない。
現在、パソコンに表示されたデジタル時計が午後十時四十分を指している。
ブラッディ・レベルのボスである河原靖史のことについても調べようと思ったが、そっちは皆川さんやユナが手を回すと考え、俺はこのSCCO内部にいる可能性がある裏切り者について調べていた。
「ここもダメか……」
俺はパソコンのモニターに表示された、SCCOに所属している全三百人ほどの第二人種と、組織に出入りする約二百人の政府関係者の過去の犯罪記録を調べていた。
ブラッディ・レベルに目をつけられるのだとしたら、過去に何か罪を抱えた人物が狙われると思ったのだが、やはりSCCOに加わる時点でそういった記録は既にチェックされているのか、誰一人として黒い過去を持つ人物はいなかった。
「よし、それなら……」
俺は気合を入れなおすと、過去にSCCOが担当したブラッディ・レベルに関する任務の記録を閲覧した。
しかし、ここで意外なことが起きる。どのファイルを見ても【none record】と表示されるだけであり、記録が一切出てこなかったのだ。
俺は慌てて別の任務に関するデータを検索した。奴らとは関係のない第二人種の犯罪記録は、しっかりと残っている。
「間違いない……ブラッディ・レベルに関するデータだけが消されている……」
これらのことから考えられるのは、吉川の言う通り裏切り者が確実に存在するということ、既にその裏切り者の手によってブラッディ・レベルに関する重要なデータが選別されて消されたということだ。
「クソッ!」
俺は思わずデスクを叩いた。後一歩のところで裏切り者の正体をしれたかもしれないのに、そいつは常に俺の先を読んでいるようだった。俺が裏切り者の存在を知ったのはついさっきのことで、俺がそいつを追っていることは知られていないはずなのに……。
「……いや、待てよ」
俺は画面に表示された【none record】の文字を見つめる。
「おかしい……過去のデータだけならまだしも、吉川の連続殺人事件に関する最近のデータまでもが消されている」
確か、兼先の話だと任務終了まではこの件の情報を口外してはならない決まりだったはずだ。
奴が捕まったことで一段落は付いたが、取り調べによる内容はまだ記録されていないはずだから、わざわざあいつのことを調べない限りそのデータが見つかることはない。
吉川のことを知るものは、裏切り者本人と任務に携わった部隊のメンバーの中に限られる。 そしてその中で裏切り者はこの部屋に入ることを許された特別な権限を持つものだ。
俺はゆっくりと記憶を辿りながら、今までのみんなの会話の内容を思い出していった。
吉川の事件がブラッディ・レベルに関わりがあると知ったのは、確か四月二日の朝の会議でのことだ。その時に、第六部隊以外の全ての部隊長とあの場にいた全員が証拠を消そうと考えられたはず。
俺がSCCOに来るよりも随分前にデータが消されている可能性は低い。何故ならもし消されていた場合、資料室を利用する他のメンバーが異変に気づいたはずだからだ。
つまり、裏切り者は吉川が捕まったことで、自分の存在がバレないように慌ててブラッディ・レベルに関する全てのデータを消したことになる。
そして、そいつは吉川を倒したことを知っていた第二部隊か第七部隊のどちらかであり、ここに入ることが許された特権を持つ人物ということだ。
だが、俺はここでユナの言葉を思い出しあることに気がついた。
「いや、違う。もう一人だけ可能だった人物がいたはずだ」
俺はパソコンをもう一度使用してブラッディ・レベルとは関係のない資料を読み比べた。 そして俺はある結論に至った。SCCOに潜伏し、ブラッディ・レベルと繋がった裏切り者の正体について……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます