第23話

 隣の部屋へと戻ると、俺は開口一番二人に謝った。

「すまない、あまり詳しい情報は聞き出せなかった」

 頭を下げた俺を見た皆川さんはユナと顔を合わせると、俺の肩に手を添えて言った。

「いや、君はよくやってくれたよ。お陰で奴らに一歩近づくことができた」

「そうね。後は私達に任せて速見君はゆっくり休んでくれていいわ」

 俺は顔を上げるとユナの方へと向いて言った。ボスの名前は、この二人もこの部屋に設置された監視モニターを通して聞き取れたかもしれないが、裏切り者に関しては聞こえていなかったかもしれない。話によっては吉川が新たなブラッディ・レベルの一員とやり取りをしていたと聞こえかねないからだ。

「その事なんだが……ユナ……」

 俺はSCCOの裏切り者の存在について話そうとしたが、言い淀んでしまった。彼女は、組織の仲間に対して信頼を寄せている。そんな彼女に残酷な現実を突きつけたくはなかった。

 ユナは俺の顔を不思議そうに見ていたが、側にいた皆川さんに声をかけられたので、俺との話は中断した。

「長塚君、私は帰って河原靖史について調べてみることにするよ。彼の自宅は既にもぬけの殻になっている可能性が高いが、何か手掛かりがつかめるかもしれないからね」

「はい、そっちはお願いします。私達は独自のデータベースで検索してみますので」

「うむ。何かあればまた連絡するよ。さて、それではお先に失礼することにしよう。仕事が山積みになっているからね。速見君、君とはまた今度ゆっくりお茶でもしながら会おうじゃないか。良ければ、君の能力について聞かせてくれ」

「まぁ……機会があれば」

 俺がそう答えると、皆川さんは笑顔を見せて部屋から出て行った。その姿を見送った後、ユナが俺に再度話しかける。

「速見君、本当にありがとう。あなたのお陰でブラッディ・レベルとの戦いに終止符を打つことができそうだわ。河原について調べることで奴らのアジトを見つけられるかも知れないし、あなたとの契約はもう終わりにする。あとは、あなたの師匠のことについて何か分かったら連絡するから、あなたはいつでも元の日常生活に戻っていいわよ?」

 彼女は少し寂しげな表情をしながら話したが、俺は首を振って答えた。

「言っただろ? 俺は今、もう少しだけSCCOに居ていたくなったって。それに……少し調べたいことがあるんだ」

「速見君の師匠の情報以外に? 何を調べるつもりなの?」

 俺の考えを探るようにユナは首をかしげながら顔を見つめていたが、俺はもう一度首を振って答えた。

「確実な情報が手に入るまでは、まだ何も言えないんだ……」

「それは、さっきの取り調べで吉川に何か言われたから気になっているの?」

 さすがに、ユナは勘が鋭い。変なごまかしは通用しないだろう。内容は伏せたいが俺は素直に頷いた。

「……分かったわ。それ以上は聞かない。ただ、危ないことに首を突っ込むつもりなら一人で抱え込まないで、私達に知らせて?」

「あぁ、約束する。……それと、ユナに一つ頼みがあるんだ」

「……?」

 彼女はまた不思議そうにこちらを見ていたが、俺は裏切り者を確かめるために、長官であるユナの権限を利用しようとある一つの提案をしたのだった。

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