第12話
「ところで、お前さん。さっきから気になっていたんだが、何でそんなダサい格好しているんだ? 自前か?」
話が落ち着いた所で、唐突にそんな質問をされた。応えるのも億劫だったが、変に思われるのも嫌なので話すことにした。
「そんなわけないだろ。これは戦闘服だ。というか、あんたのほうが詳しんじゃないのか?」
「俺がここに来て二年くらい経つが、そんな服は見たことがないぞ? だいたい戦闘服っていったら今俺が着ているようなラフなものが多いし、それぞれの能力に合わせた性能の服になっているはずだ」
「なら、これが俺の能力に合わせたデザインってことだろ。ユナもそんなことを言っていたからな」
「そうは言ってもなぁ。もう少しマシなデザインがあったんじゃないか?」
「それはこの服を設計した奴に言ってくれ。格闘系用に合わせた戦闘服がこれだったんだろ」
俺がそう話した瞬間、男の動きが止まった。そのまま数秒間停止していたが、震えながら確認を取るように言った。
「お、おい。聞き間違えじゃなければ、今格闘系って言ったか?」
「あぁ。俺の能力は格闘系に分類されるみたいだからな」
「…………はぁ!?」
男の叫び声が食堂全体に木霊する。再び周囲の目がこちらに向いた。しかし、男は気にせず捲し立てる。
「マジで言っているのか!? 格闘系だぞ!?」
「落ち着けよ! 格闘系の第二人種がそんなに珍しいのか?」
「珍しいってもんじゃねぇぞ!? お前、格闘系の第二人種が【SCCO】に、いや世界にどれだけいると思っているんだ?」
「それは……他と比べて少数派だとは聞いているが、少なからずいるんじゃないのか?」
男は俺の言葉を聞いて頭を振ると、ため息を吐いて言った。
「いいか、仮に世界中に第二人種が一億人いたとしたら、その中に十人いるかいないかってレベルだ。無論、【SCCO】の本部の中にはお前以外いない」
「本当か? あんたが知らないだけで、さすがに一人ぐらいはいるんじゃないのか?」
「自身の筋肉で戦うって意味なら、確かにそういう連中もいる。だが、そういう奴は大抵武器を持っているからな。格闘系には分類されていない。つまり、お前さんはかなり珍しい存在ってことだ」
知らなかった。格闘系がそこまで珍しい種類の第二人種だったなんて。だが、そうなると余計に気になってしまう。
「じゃあ、今回の連続殺人事件の犯人は、かなり特殊な第二人種ってことか……」
独り言のように呟いた途端、さっきまで陽気に振舞っていた男の顔が曇り、声を潜めて話しだした。
「お前さん、その情報もユナから聞いたのか?」
「そうだけど……。急にどうしたんだ? さっきまであれだけ騒いでいたのに」
周りの視線――いつの間にか人気は殆どなく、残っている人も少ないが――を気にせずに大声で話していたこの男の態度が変化したことに不審に思う。すると、男が続けて話した。
「いいか、任務の内容はここでは機密事項だ。任務遂行中は、例え知人でも任務を達成するか指示があるまでは絶対に話すな。思ってもいない所から情報が漏れることだってあるからな」
「わかった。けど、さっきの呟きをあんたに聞かれた時点で、規則を破っていることにならないか?」
「俺はいいんだよ。同じ部隊に入れられているわけだしな」
「…………は?」
今度は俺の方が間抜けな声を発してしまった。聞き間違いじゃなければ、この男も部隊入りするほどの実力者ということになる。俺は確認のために聞き返すことにした。
「悪い、あんた今同じ部隊にいるっていったか?」
「おう! よくぞ聞いてくれたな。俺も既に部隊に配属されているんだ。それで、恐らく人数的にお前さんは俺と同じ第二部隊に入ったと思うぞ」
「あんたに実力があるようには見えないんだが……」
「失礼なやつだな。俺は歴とした全七部隊で構成されている内の一つ、第二部隊のメンバーだぞ?」
男は胸を張って自慢げに話した。その態度から察するに他のメンバーもたいした事は無さそうに思える。相槌代わりに、話を逸らすことにした。
「……そういえばユナも第二部隊に入れるって言っていた気がするな」
「だろ? まぁ、そんな訳だからこれからよろしく頼む……えっと、お前さん名前何てったっけか?」
名乗ること自体に抵抗はなかった。が、この男と親交を深めることは、ここにいる間、最低限の人数とだけ関わることにした俺のポリシーに反しているとも言える。
良識のある人なら名前くらいでと思うかもしれないが、このまま名乗ならければ次に話しかけられることもないかもしれない。そうかと言って、こいつがもし他の連中に無礼な奴だと噂をすれば、ここにいる間の数日の居心地は悪くなるだろう。
名乗るかどうか迷っていると、男の方から自己紹介してきた。
「あぁ、悪い。まずは俺の方から名乗るのが礼儀だったな。俺の名前は
「……速見アルトだ」
要らぬ情報まで聞いてしまったが、結局俺も簡素な自己紹介をすることにした。
「おう! よろしく! アルト!」
「いきなり呼び捨てかよ。まぁ、取り敢えずよろしく、かねさき」
悪態をつきながら、差し出された右手を握り返す。しかし、突然この空気を一変させる放送がチャイムの後に流れた。
「各部隊に所属されている方は、至急、第三会議室にお集まり下さい。繰り返します。各部隊に……」
慌ただしい女性の声が食堂全体に反響する。この放送を隣で聞いていた兼先が口を開いた。
「おっ、どうやら任務の開始時間が迫っているな。行こうぜ、アルト! 会議室はこっちだ!」
俺の返事も聞かずに、兼先は走りだす。ため息を吐きながら、その背中を渋々追いかけて行った。
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