第15話

「……はぁ、寂しいな。エクスと二人きりとか誰得なんだって話だよね」


 フローラとミリアがロザリーの転移魔法で立ち去るのを見守って数分も経たないうちに、僕は寂しさからため息を付いてしまった。

 これからずっと一人きりだと思うとかなり気が重い。いや、エクスと一緒な分だけまだマシなのかも。一般的なのはパーティーを組んで迷宮に潜るのが普通なんだろうけど中にはソロの人もいるはずだし、その人はこんな魔物が出る場所で自分だけとか心細くないんだろうか。


「それは俺のセリフだ、トン。馬鹿なことを言ってねぇでこれからについて考えやがれ」


 うーん、そうだよね。エクスの言う通りだ。と、そんなこと言われてもってのが僕の正直な感想かな。

 戦闘技術の向上や槍の腕前が上がるわけでもないし、ましてや心を鍛えるとか抽象すぎて分からないもん。だから、僕はまずは肉体の強化を、つまり進化するのが最優先だと思ったんだけど……。


「ねぇねぇ、エクスさんや。僕の進化についてどうなってるんだい?」

「――ハッ、教えてやろうか? 何一つ変化はねぇ。マジでお前は才能がねぇんだな。普通は処刑人との戦闘や女から手ほどきを受けたらレアな進化先が現れてもおかしくねぇと思ったんだが、はぁ。チッ!」

「お願いだからやめて! 僕のライフはもうゼロよ。エクス、お前は僕を精神的に殺す気なのか!」

「死ぬなら勝手に死ね。――そんなことよりぶっちゃけた話をすると現状は手詰まり。これ以上ここで雑魚魔物を狩っても稼げる存在値は微々たるものだ。そこで、そろそろここを出て下の階層を目指してもいい頃合いだと俺様は考える」

「そっか、あれから結構時間が経ってるし、僕狙いの冒険者も少なくなってるよね。じゃあ目指すは第十階層のボス?」

「ああ。だが、今戦えばあの女が言ってた通りお前は負ける。それに関しては俺様も同意見だ。ならどうするか、万全の準備を整えて少しでも勝つ可能性を上げるしかねぇだろ」


 魔法か……実際に受けたからどれだけ厄介なのかは身をもって知った。でも、対策しようにも今の僕には受け止めるか避けるしか選択がないのが問題なんだよね。僕の魔法は役に立ちそうにないし、せめて一対一なら戦いようがあるのに。くそっ、これがソロプレイヤーの弱みか。エクスの魔法吸収からの無効化が自由自在にできたら話は別だったんだろうけど。


「事前準備が大事ってのは分かったけどさ。一体何の準備をするの? 弁当でも作って持って行くとか?」


 そりゃお肉たっぷりの焼肉弁当があれば僕のやる気もグンッと上がるのは間違いないけど、ボスとの戦闘には役に立たないと思うよ。


「馬鹿かお前は? 俺様が言う準備ってのはな……あー、言葉で説明するよりも実際にやってもらった方が早いか」

「……?」


 途中で言葉を切り最後の方は独り言のように呟くエクスに、僕は首を傾げて左腕を見下ろす。


「オラッ、何してやがる! さっさとここから離れるぞ。もう戻ってくるつもりはねぇからな。覚悟を決めろよ」


 いきなりだなオイ! ま、いいけど、どうせここには何もないし持ち物はこの槍だけだもん。今、改めて見たらかなり良い業物だよねこれ。結果的にアンジェリカから奪っちゃったとはいえここまでくれば愛着が湧く。


「うーん、銀月とか? それとも銀世界?」

「あ? 急にどうしたんだついに頭がおかしくなったか?」

「違うよ。この槍の名前だっての。いつまでも槍だとちょっと味気ないというか呼ぶときに便利だと思ってさ」

「盗んだものに勝手に名づけする図々しさは置いておくとして、悪くねぇと思うぜ。前にババアがお前の名付けをしたときにも言われたと思うが、名前ってのは重要なんだ。生きているいないに関わらずにな」

「そういえばそんなこと言ってたような……それを知ったら気軽に名前を付けられなくなったよ。エクス、何か案とかある?」

「知らねぇよ、いいからさっさと決めろ」


 目を瞑り眉間に皺を寄せて悩むこと一分。ほぼ直感で僕はこの銀色の槍の名前を決めた。


「よし! 決めたこの槍の名前は白銀(はくぎん)にする!」

「あ、そう、じゃあ行くぞ」


 かるっ!? もっとこう驚くとかしろよ。せっかく考えたのに萎えるだろうが。

 僕はぶつくさと文句を垂れながら、死者の迷宮第一階層の隠しエリアの入り口へ向かって移動をする。

 魔法で隠された入り口の前で立ち止まり、一呼吸おいてからエクスに声をかける。


「うーん、なんだろう妙に緊張する。どうしようこの先に大勢の人間が待ち受けていたら……」

「そんなわけねぇだろうがお前は馬鹿か? いいから早く行け」


 そんなことないとは言い切れないだろ……いや、ないか。魔法で気づかれないようになってるんだもんね。分かっててもドキドキするのは仕方ないことだ、うん。

 

 僕は朝に近所の公園へ散歩するときのような気持ちで何の気負いもなく魔法の入り口を通り過ぎた。


「ブヒィ?」

「「あん?」「へ?」」


 まさか人がいるとは思わず僕は驚きの声を上げる。相手もまさか何の変哲もない岩壁の向こうからオークがすり抜けてくるとは考えなかったのだろう。同じように驚きで表情が固まっていた。

 先に僕が動けたのは事前にエクスと馬鹿話をしていたおかげだ。少しだけ心の内でもしかしてと構えることが出来たから、一手先んじることが出来たんだと思う。


「うぉぉぉぉぉぉぉ――っ!?」

 

 僕は咄嗟に白銀を振り回し槍の石突の方で、金髪のチャラそうな見た目の男の後頭部を殴る。


「ぐぁっ!」

「ゼロス! ――くそっ」


 茶髪の男が動く前に僕はうつ伏せに倒れたゼロスへ白銀の穂先を向けた。動けば殺すと目で制止してからチラリと見下ろす。


 かなり良いのが入ったけど死んでないよね? あ、起き上がれないみたいだけどピクピクと動いてる。フー良かった。でも、問題はここからか。僕も茶髪の人も迂闊に行動できなくて膠着状態だし。と思ったらエクスがとんでもないことを言い出した。


「ハッ、こいつはラッキーだぜ。さっそく身ぐるみを剥げ。脅してとってもいい。冒険者なら戦闘に役立つアイテムの一つや二つぐらい持ってるだろ」

「えっ、まさかお前が言ってた準備って……そういうこと?」


 襲いに来た冒険者たちを返り討ちにして持ち物を奪うとかちょっと酷くない? ――と思ったけど、僕の命を狙ってきてるんだもん。荷物を少し頂戴するぐらいなら別にいっか。


「お、オークが喋っただと!?」


 何か凄い驚いてる。ああ、そういえばフローラとミリアを除いて人前で話したのってこれが初めてだっけ。アリスたちのときはまだブヒブヒと喋ってる風だったから言葉が通じてなかったしね。


「うーん、これって拙かったかな?」

「どうせバレるのは時間の問題だっただろ」

「そうだよね。それよりエクス戦闘に役立つアイテムって何さ」

「回復薬(ポーション)、魔力回復薬(マナポーション)、万能回復薬(エリクサー)とか魔法巻物(マジックスクロール)、魔導書など。つーか、全部だ全部。お前に関していえばスキルの効果で無駄なものは一つもねぇだろうが」


 スキル? ……そうだった覚えるのにあれだけ苦労したのにすっかり忘れてた。ははは、つまりまた食べるんですね。フローラの美味しい料理を食べた後だからより憂鬱だよもう。


「……あ…く……にげ…ろ……マック」 


 うめき声を上げて仲間に逃走を促すゼロス。それを聞いたマックは悲痛な表情を浮かべ僕を見た後、再びゼロスを見つめる。

 

「――くっ、馬鹿野郎。そんなこと出来るわけが……」


 どうやら仲間を救出するか逃げるか迷っているみたい。腰の剣に手を掛けないのもたぶんその時点で殺されてしまうと思っているからだと思う。元々僕に殺すつもりはないけどそれを感づかれても面倒だし。


「僕たちの会話は聞いてたでしょ。武器を捨てて所持品を差し出せば二人とも助けてあげる」

「ふざけるな! そんなこと信じられるかっ!」


 叫ぶマックに僕はこれ見よがしに白銀をゼロスの首元へと近づけて脅しながら、


「どっちみちそっちに選択肢なんてない。どうせ僕を狙ってきたんだろうし、まだ命があるだけマシだと思うけどな」


 それが最後の一押しになったらしく、マックは鞘から剣を抜き地面に放り投げた。


「分かった。抵抗はしないから助けてくれ」


 それを見て僕はホッと安心し白銀を引いたところでとあることに気づいた。マックの投げた剣が中間のちょうどいい位置にあったことに、もしかしてこれ拾って斬りかかろうとしてるんじゃ……。そう頭によぎったとき案の定マックが予想通りの行動に移った。

 内心大慌てだったけどそんなことはおくびにも出さず、剣の刀身を踏んで持てないようにしてから白銀の柄を短く握り穂先をマックへと向ける。


「何のつもり? そんなに死にたいとは思わなかったよ」

「――くそがっ、すまんゼロス。不甲斐ない俺を許してくれ」


 目を瞑り項垂れるマック、動けなくても戦意は失ってないのか「マックに手を出してみやがれ。テメェ、ぜってぇ許さねぇからな!」と喚くゼロス。僕はやれやれとため息をしつつも、心の中では二人の絆に感心していた。


「はいはい、殺さないから今度こそ大人しく所持品を分けてくれる?」


 これでも反抗するならこのマックっていう人も、殴って動けなくしてから奪うしかなくなるんだけど……。


「こ、殺さないのか?」


 マックが呆気に取られた顔で僕を凝視する。頷いて突きつけた槍を引く。一応、念のため足元の剣を蹴って遠くへ吹き飛ばし、それから倒れてるゼロスの剣も抜いて投げ捨てる。


「分かった。もう抵抗しない。何でも好きなものを持ってけ」


 うん、茶髪の人と金髪の人から反抗する意思は感じられないから今度こそ諦めたみたい。まぁ、さすがに全部は可哀そうだしほどほどにしてあげようかな。


「ありがとう、本当に大事なものがあったら教えてくれる? それは取らないから」

「ああ? 自分を殺そうとした奴だぜ。全部根こそぎ奪っちまえばいいだろうが」

「うるさいな。この人たちも生活ってのがあるだろうし、僕のせいで露頭に迷ったら嫌だもん。で、何を貰えばいいんだよエクス」


 見た感じ荷物は腰にあるポーチと青と赤の液体が入った細長い瓶だけかな? ちょっと日帰りで出かけようって思って迷宮に潜ったんだろうけどいくらなんでも軽装すぎだと思うのは僕だけだろうか。


「チッ、大したもん持ってねぇぞ。こんな装備で迷宮に潜るとか馬鹿じゃねぇのかこいつら」

「うーん、それについては僕も同意かな。僕が言うのもなんだけどもう少し装備を充実させてから潜った方がいいんじゃないの?」


 図星を突かれたときのように気まずそうな顔でマックがポツリと呟く。


「俺たちは素材収集に来ただけだ。その、低階層だし魔物に囲まれなければ大丈夫かなと……」


 あー、僕も同じ立場ならこの二人と同じことをしたかも。魔物の強さもそこまでじゃないし、実際逃げ道を塞がれなければ大丈夫だと思う。今までは上手く行っていた。でも、今回は運悪くオーク(僕)と遭遇しちゃったってことか。


「そうか、良かったな。お前らの装備を全部よこせ。喜べ武器だけは勘弁してやる」


 もうちょっと反応してあげなよ。ほら傷ついた顔してるじゃん。と思いつつ僕もマックから腰のポーチと液体の入った瓶を受け取る。


「そっちの奴が持ってるナイフも回収しとけ。採取とかのときに役に立つだろ」


 ゼロスはヨロヨロと起き上がり地面にお尻を付けたまま後頭部を押さえる。そして、僕に腰の裏に格納していたギザギザが付いているナイフを革製の鞘ごと渡してくれた。


「ほらよ。持ってけ安物だが市場で買ったばかりの掘り出し物だ。大事に使ってくれ」


 奪ったものを装備してっと。うん、いい感じ。なかなか似合ってるんじゃないか。何か僕も冒険者になったみたいでちょっとドキドキとワクワクが内から湧き上がってる気がする。


「あの、頭の方は大丈夫? 結構強く殴っちゃったけど吐き気とかしてない?」

「痛みはあるが大丈夫だろ。つーか……いや、何でもない」

「良かった。じゃあ僕たちは行くから追ってこないでね。――あっそうそう、武器を投げ捨てちゃってごめん。僕らが見えなくなったら拾っていいからね」


 そう告げて僕がウキウキな気持ちで手を振ると二人も戸惑いながらも「あ、ああ」と返事をしてくれた。ちょっとだけ仲良くなれた気がして嬉しい。ま、敵同士なんだけどね。たぶんこの後ふたりは第五層の街に戻りギルドに報告するんだろうな。その結果、僕を狙って冒険者たちがぞろぞろとやって来る。


「トン、そいつらに構ってねぇでさっさと行くぞ」


 エクスの言葉に頷きながら、僕は戸惑いの表情を浮かべてるマックとゼロスを残してこの場を後にした。

 

 




「なぁ、俺ら夢でも見てたんかな?」

「どうだろうな。お前はどう思う?」


 オークが立ち去り、残されたゼロスとマックはどこか浮ついた気分で会話をする。つい先ほどまでの出来事が信じられないのか、ゼロスは大きな瘤が出来た後頭部を強く触った。


「痛っ! イテテテ、やっぱり夢じゃねぇか。喋るオークだなんて俺初めて見たぜ」

「奇遇だな俺もだよ。しかも、殺そうとしたのに見逃されたぞ。どうなってるんだこれは?」

「さぁ? マック、あのオークって依頼に出されてた魔物でいいんだよな?」

「ああ、依頼書に記載されてた特徴とも一致してる。だが、喋るなんて聞いてない。なにより印象とだいぶ違う。もっとこう厄介で悪辣なイメージを抱いていた」


 自分たちの武器を拾い自身の剣を鞘に戻したマックは、ほらとゼロスに剣を手渡した。受け取ったゼロスは刀身に映る自分の顔を一瞥してから鞘に納める。


「確か【光の戦乙女】のアリスは精神に異常をきたすほどの酷い目に遭ったって俺は噂で聞いたんだが、あれを見たら噂の方がデマだと思っちまうな」


 ゼロスの脳裏には自身から受け取った素材採取用のナイフを装備し、子供のように喜びはしゃぐオークの姿があった。

 通常のオークとは、言語を喋らず女を見たら血眼になって追いかけ攫い凌辱して繁殖する魔物。もし発見した場合は駆逐することが推奨され、それが不可能のときはギルドに報告が義務付けられている。が、今それらに当てはまらない特殊個体と遭遇してしまった。ギルドに報告しようにもはたして信じてもらえるだろうか、下手すれば頭がイカれた奴ら扱いされて冒険者登録をはく奪されるかもしれない。

 

「だから言っただろう噂など当てにならない、といつもなら言うんだがな。さすがにあれは例外だろう」

「まぁな。それよりどうするよ」

「何がだ?」

「ギルドへ報告。さっき見たことをそのまま言うのか? 俺ら気を狂ってるって思われるんじゃねぇの?」

「む……」


 返事を窮し厳しい顔つきで悩むマック。しばらく考え込みどうするか決めて固く閉じていた口を開いた。


「見たことをそのまま全部報告しよう。判断するのはギルドだ。それにあのオークと遭遇するのは俺たちだけじゃないはずだ。喋れるのを隠している様子もないようだし大丈夫だろう」

 

 特に反対意見のないゼロスは頷いた後、気まずそうな顔を話を切り出す。


「了解。――あ~その、なんだ、悪かった。完全に油断してた。まさか壁の向こうからオークが現れると思わなくてな。お前装備一式取られたけど平気か?」

「俺はどこぞ誰かと違って貯めこんでるから平気だ。予備もあるからしばらくは問題はない」


 お互い笑みを浮かべ軽口を叩き合うゼロスとマックは、オークがすり抜けてきた壁の方を凝視する。


「どこからどう見ても壁だよな」

「安心しろ。お前の目は節穴じゃない。俺も壁にしか見えん」

「誰が節穴だ馬鹿。っで、どうする。確認するかそれとも帰るか」


 今の状況を踏まえてゼロスがマックに聞く。二人組のパーティーで片方は頭部に負傷、もう片方は武器以外の装備を盗られてしまっている。安全を第一に考えるとしたら帰るべきだろう。しかし、冒険者として考えるなら進むべきなのかもしれない。


「運よく命を拾った手前言いにくいが確認しよう。あのオークが出てきたということは魔物にさえ気を付ければ危険性は低いはず……たぶん」

「おいおい、大丈夫かよ」 

「うるさい。俺は装備を失ってるんだぞ。採取とかして少しでも損失を補填しないとやってられん」

「プッ、ハハハハハ! そうだよな。ま、ここで帰ってたらそもそも冒険者なんてやってねぇ。――つーわけで行くぞ、マック」


 オークが現れた壁の手前で並び立つ二人。ゼロスはそーっと右手を前へ伸ばし壁へ触れようとして、手応えなくするりと通り抜ける。マックの方を振り返り興奮した面持ちで頷き、壁の向こう側へと進む。続いてマックも後を追う。


「こいつは驚いたぜ。第一階層にこんな場所があるとは思わなかった」

「ギルドの記録にも載ってないはずだ。ここの情報を伝えるだけ今回の損失を補える。――よし、警戒しながら慎重に行動するぞ。ゼロス、お前のポーチに採取用の布袋はあるか?」

「当たり前だろ。悪いがまだ頭が痛ぇ。採取は俺がやるからマックが周囲の警戒をしてくれ」


 ゼロスはポーチから折りたたまれた伸縮性のある布袋を取り出す。上口を閉じ持ち運ぶための紐の部分を握り、剣を鞘から引き抜く。


「壁沿いに左回りで動こう。魔物が現れたら討伐してヤバそうだったら即撤退だ。いいよな?」

「おう。せっかく拾った命を無駄に捨てたくねぇ」


 自身も剣を抜いて構えながらマックは死者の迷宮第一階層の隠されたエリアを進む。

 運が良かったのか魔物と遭遇することなく、ゼロスとマックは稀少な植物や茸、薬などに使う貴重な薬草を次々と拾っていく。


「マック! またあったぞっ!! エラル草だ! これ一つでブロンズランクの依頼10回分の価値があるぜ!」

「そっちのカザン茸も忘れるなよ。確か貴重な薬の素材の一つとして取引されてたはずだ」


 持ってきた布袋の容量ギリギリまで採取し、二人がそろそろ帰還をするかと考えたとき、人の手によって整備された妙な場所を発見する。


「何だここ?」

「つい最近まで誰かが利用していたみたいだな。見ろ食材の切れ端や食べかすが落ちている」

「ん? 本当だ。となると、もしかしてあのオークがここを利用してたのかもしれねぇな。あっちの大穴から妙な気配を感じるが……」

「ゼロス、それはスキルの効果で判明したのか?」

「ああ、俺の直感がそう言ってる」


 それを聞いてマックはゼロスを制止し迂闊に触れるべきではないと判断した。


「このこともギルドに報告し後は任せればいいだろう。帰るぞゼロス異論はあるか?」

「ない。いや~一時はどうなるかと思ったが俺たちは運が良かったぜ。アルメリアの街についたらギルドに報告してその後は互いの装備を一新、アイテムも買ったら少し豪遊しないか? それぐらいの稼ぎにはなっただろ」

「いいだろう。だが、お金の管理は俺がするぞ。お前に任せると全部使い切りそうで怖い」

「おっ、珍しいなマックがそう言うなんてよ。てっきり止められるかと思ったぞ。ならオススメの娼館があるんだがそこ行こう。『ヴィーナスローズ』って店だ」

「俺だって偶にはハメを外したいときぐらいある。『ヴィーナスローズ』だと? あそこは高いから駄目だと言いたいところだが、オプションを付けないなら許可してやる」

「よっしゃー! そうと決まれば早く帰ろうぜ。ほら行くぞマック!」

「――たくっ、油断するなゼロス。その様子だと傷はもう平気だろ。お前の直感で周囲を警戒してくれ。俺が採取したやつを持つ」

 

 ゼロスはパンパンになった布袋をマックに渡すと来た道を先導して戻り始める。道中、魔物との戦闘が何度かあったものの特に怪我などをすることなく無事にアルメリアの街へと帰還した。

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