これはとてもとてもしあわせなゆめでした。

 自爆スイッチを押した瞬間、私はがっかりした。

 死ねないことがすぐにわかったからだ。

 体は爆発して散り散りになったけれど、出血もなければ生々しい体温すらもない。私の体は全て機械になっていた。

 炭素50%。 酸素20%、水素10%、窒素8.5%、カルシウム4%、リン2.5%、カリウム1%その他から出来ているはずの体はよくわからない金属に成り代わっていたのだと今さらわかったのだった。

 いつの間に作り変えられていたのだろうか。おかげで痛みもなにもないじゃないか。そうか、だからレーザーが眩しくないし鼓膜も破れないのか。私が人間だとおもっていたのは私だけだったのか。

 でも爆発しても脳だけは残ったらしい。厳重に守られた私の脳。なぜ私だったのだろうか。私の脳を遺す努力よりもアインシュタインの脳を復元する方がきっと人類にとても素晴らしい叡智をもたらしただろうに。

 何でできているのかよくわからないけれど、とにかく頑丈で衝撃を吸収するものの中に私はいることがわかった。体が支配下になくなったのだから私はもう脳だけだ。

 人造人間。脳だけは昔のまま。二千年は意外と短かったな。けれど、あと三千年は長すぎる。私の脳はなぜ腐らないのだろうか。そろそろ死なせてくださいよ、神様。

 私は眠りについた。誰かが私の脳を拾ってくれたなら。

 また体が手に入ったら、こんどはひまわりをみにいこう。


 目を開けた。

 体があるのだ。

「鈴? 起きてるの?」

 ずっと長いこと眠っていた気がするのだ。

「なんだ、起きてるなら早く朝ごはん食べに来てよ。食器片付かないじゃない」

 まだすっきりと目覚めていない体と頭のままでふらふらとベッドを降りた。

 私はなぜ体があるのだろうか。

「なんで」

 ゴッホの「ひまわり」。五本のひまわり。

 私はなぜ、このひまわりのポストカードを丁寧に額に入れて飾っているのだろうか。

「――ひま?」

 オルゴールなんて持っていないのに、金属の音楽が鳴っている。

 音源はどこ?

 これは何?

 曲名は知らない。それでも、どこかで聞いたことがある気がするのは、どうして。


 急に全てが真っ暗になった。光をまったく感じられなくなった。

 そして突然理解したのは、私は全ての役割を終えて、もう用済みだということと、私の側に二人の人間がいるということだった。

 私が動かせるものは何もない。拘束されているわけでも、眠らされているわけでもないのに、腕が切り落とされたのにまだ腕が存在するように思考して腕を動かしてしまうような虚無感があった。そういえば、ないんだったな――という具合に。

 全てが終わったらしい。とても楽しい娯楽だったと。そう語られているようだった。けれど、耳もないのだから、いったい何がこの音波を得ているのだろう。

 他人の人生は楽しかった。そして、既にアインシュタインの脳の復元は必要ないと。

 そう、伝わった。

 これで全部が、終わった――ということを、強制的に理解させられた――?

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