第8話 変化

「おはようございます」

「バックにブッコローついてる!」

「え、これ知ってるの?」

「もちろん。YouTube面白いし、文房具好きなんで。こういうの好きだったんですね。知らなかったー。なんかマニアックな話ができそうでうれしいな。」

「最近見始めたんだけど、あのYouTubeすごく笑えるよね。もしかしてゆーりんちー?」

「毎週火曜日YouTube見てるから、ゆーりんちーかな。」


 なるほど、薄い能力者でゆーりんちーを隠れ蓑にしている人達と、普通に本屋さん・ブッコローのファンでゆーりんちーな人達の、2種類がこの世の中に存在するわけか。

 薄い能力を持つ人は何となくピンとくるものがある。そういえば、電車の中で頭の中に閃光のように浮かび上がったあの光景が影響しているのかな。今度ファーブルちゃんに会ったら聞いてみよう。何となくコツがつかめてきた。

 ブッコローをもらってから、いろいろな人と話すようになった。前は職場で仕事以外の事は話さなかったのに。


「お疲れ様です。先輩、この間はありがとうございました!」

「あー、えっと、あのクレーマー?」

「そうです、助けて頂いて。」

「いや、いや、助けただなんて、そんな大したことじゃないよ。」

「なんかだかいきなり怒鳴られて、フリーズしちゃったところ、すぐに対応代わって頂いて…本当に助かりました。」

「全然、大丈夫。」

「すぐに助けてくれるの先輩だけですよ。本当に感謝です。ちゃんとお礼が言いたくて。これよかったら召し上がってください。」

「仕事だし、お礼なんて必要ないよ。」

「これ揚げ物のお菓子。私、絶対食べないけど。」

後輩は笑いながら、私の好物のお菓子を差し出した。

「これ、私大好き。なんで知ってるの?」

「休み時間に先輩買ってるところよく見かけてたから。私、絶対食べないけど。」

彼女はまたも笑いながら"絶対食べない"を繰り返した。

「じゃあ、遠慮なくいただきます。ありがとう!」

私も笑顔でお礼を言った。


そういえば、クレーマー対応、あの後怒鳴られちゃって嫌な気分ではあったけれど、サービス業はこれでお金もらってるんだからと思って我慢していた。まさかこんなに感謝されるなんて思ってもみなかった。私の好きなお菓子わざわざ用意してくれて、改めてお礼も言われて本当にうれしい。


 ほんの少しの事だけれど人の役に立てたり、コミニュケーションを取ったり、そういった小さな積み重ねが大切なのかな。

 今まで自分のことを隠し縮こまって、自分を追い込んで高い壁を作って疲れきっていたけれど、少し周りを見渡せばいろいろな人がいるし、小さなうれしいがあちこちにある。

 こんな風に前向きになれたのも、ゆーりんちーのおかげ。ほんのささいなきっかけで自分の運命が大きく変わっていく。私は両手をあげて大きく背伸びをした。

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