第7話 ウワサ

「聞いても大丈夫でしたか?」

彼女は心配そうな顔をしている。

「大丈夫!私ね、ねら、ねらっ、狙った相手をトイレに行かせる能力っ!」

 顔が一気に赤くなったのが自分でわかる。声に出して言ってみると恥ずかしい能力だ。我ながら落ち込む。


「なにそれ、めちゃくちゃ凄くないですか⁉︎トートーさん、すごいピンポイントにレアな能力ですね‼︎」

彼女は思いっきり素直に驚いてほめてくれた。ほめてくれた?

「うん、微妙すぎて今もほめられたのかどうかちょっとわからなかった。」「あ、ほめてますよ、もちろん!対人関係の能力は重要ですよ!影響力大きいし。」

「嫌な人トイレに行かせる位じゃ何の役にも立たないと思うけど。」

「私も自分の能力何の役にも立たないと思ってるけど。しかも隠すばっかりで、むしろない方がスッキリしてよかったなって思ってます。

でも今はゆーりんちーの仲間がいるから。もしかしたらこのいろいろな能力持ったメンバーで、日本の危機を救うかも。世界平和を守ったりとか。こんな能力でも役に立ってよかったってことがあるかも。」

「ファーブルちゃん、なんかポジティブ。私隠すこと、隠れることばっかり考えちゃって。」


「あ、この噂知ってますか?あの中の人が本屋さんのYouTubeに出てくるブッコローの声をやってるかもしれないって噂。」

「えー!あの毒舌パペットの声やってる人が中の人?それもし本当だったらめちゃくちゃ危険じゃない?ぬいぐるみで話せる能力ある人がぬいぐるみのアテレコやっているなんて。」

「あくまでも噂だけど…。でも中の人ならやりかねないような。もしそうだったら本当に面白いかも。」

「私にはとてもそんな勇気ないけど。でも前向きに自分の能力活かしている人もいるのかなぁ。」

「いろんな人いるよ!トートーさんまだSNS登録してないでしょ?名前見たことなかったから。私よく見てるんです。トートーさんも登録してみて。」

「うん、やってみるよ。なんか今日初めて会ったけど、一緒にお話しできてすごくうれしい。」

「私もです。やっぱり学校の友達でも親にでも本当の事は話せないから、どこか冷めたところがあって。でもゆーりんちーには素直になれる。」

「私も知り合えてよかった!色さんのおかげだね。」

「色さんは、ぼーっとしてる状態の能力ある人は見つけやすいって言ってました。トートーさんもぼーっとしてたんですか?」

「うん、めちゃくちゃぼーっとしてた。でも、ぼーっとしていたおかげで皆と知り合えたから、本当よかった。」

「トートーさんが一緒なら、昼間のオフ会とかリモートとか参加できるかも。さすがに合コン・飲み会は行けないから。羨ましかったんですよー。」

「そうだね、私も実際にファーブルちゃんと会ったから、何か参加できそう。連絡取り合おうね。」

「もちろんです!よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく!」

私たちは缶コーヒーとペットボトルで元気よく乾杯して再会を誓って別れた。

 まるで失われていた自分の半身にあったかのようだった。自分の心がパーッと世界に広がって明るくなる感じ。

 こんな人間関係は初めてかもしれない。友達って呼べる人、今まで私に存在していた?今までどんなに自分が孤独で殻に閉じこもっていたのか改めて自覚した。

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