第6話 二人で

 外はほんの少し風が吹いていて気持ちがよかった。

 見ず知らずの大人が突然女子高生を連れ出して良いものかどうかちょっと迷ったが、彼女から声をかけてくれたし、場所が図書館の隣の開けた公園だし、と自分を納得させた。普段全く冒険をしない小心な自分が恥ずかしい。女子高生の方が堂々としていて大人っぽい。

「何か飲みましょう。」

お金を出そうとする彼女を止めて、私は自動販売機で缶コーヒーを選び、彼女に好きな飲み物を選んでもらった。彼女は炭酸飲料のペットボトルのボタンを押した。

「ありがとうございます。」


 少し歩くと木陰になったベンチがあったのでそこに2人並んで腰を下ろした。

「あの、ゆーりんちーですよね。」

女子高生は控えめに質問した。

「そうなの。つい最近ゆーりんちー知ったの。あなたもそうなの?これしゃべった?」

私はブッコローのぬいぐるみを持ち上げて彼女に見せた。彼女は瞬く間に笑顔になった。

「良かった!当たりだ!私もブッコローで中の人とお話ししました!私のハンドルネームはファーブルです。」

「私はトートー。変な名前つけられちゃった。」

「中の人、勝手にハンドルネームつけますもんね。私、虫の性別が分かるんです。なんか微妙な能力ですけど、それでいきなりファーブルと言う名前をつけられました。思いつきそのまま、ダイレクトすぎ。ひどくありません?」

「いや、ほんとひどい。私、トートーってトイレのブランド……もっといい名前がよかったな。」

二人で顔を見合わせて笑った。

「突然ベラベラ喋っちゃってすみません。」

「ううん、全然!虫の性別わかるのすごいね。すごく役に立ちそう。」

「いえ、そんなことないです。私虫嫌いだし。将来研究者になるならいいかもしれないけど、虫嫌いすぎてありえないし。隠すのが大変。虫の性別うっかり言っちゃいそうで。」

「そうだね、人にバレちゃ困るもんね。」

わかる、わかる。私は力強くうなずいた。初めて会ってものの5分で誰にも言えなかった自分の秘密を言い合っているのが不思議だった。


「その能力にはいつ気がついたの?」

「物心ついた頃からそうだったから、当然皆もわかっていると思っていました。でも虫の性別が感覚的にすぐに分かるのは私だけだって知った時は、すごく驚いた。どうして皆わからないのか理解出来なかった。」


「パパとママは私が片言の言葉を話し始めた頃から虫に向かってオス、メスって言ってたからおかしな子だなぁって思ってたらしいけど。小さい子どもだけの何か特別な才能で、大人になったらなくなると思っていたみたい。私も皆はわからないんだと知ってから口に出すのを躊躇するようになって、幼稚園卒園ぐらいから絶対に言わなくなったから。」

「性別が分かるってどんな感じかなぁ。あ、いろいろ聞いちゃってごめんね。」

「いいえ!大丈夫です。人を見るとパッと見た目で分かるのと同じですよ。でも人の方が難しいかな。服装とかお化粧とか、今はいろんな人が自由にしているから。」

彼女は笑った。

「トートーさんはどんな能力なんですか?」

 私は一瞬ウッとつまった。緊張が一気に肺に集まって恐れが喉をしめつける。

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