第5話 出会い

 ブッコローのぬいぐるみを渡されて、なんとなく仲間認定されて、ゆーりんちーのSNSをチェックするようになっても、私の日常はそこまで劇的に変わらなかった。

 仕事に行って休みはなんとなくダラダラ過ごして。そうは言っても、やっぱり中の人が言うように、自分一人だけじゃないってわかっただけでもちょっと気が楽になったかも。


 休みの日。よく晴れて空気が軽いので、いつもは行かない町外れの大きな図書館に行ってみることにした。

 そこは図書館の敷地が大きな公園につながっていて、木々にかこまれた噴水や花壇がある。私は小さなショルダーバックにブッコローのぬいぐるみをつけて肩にかけ自転車に乗った。

 

 春休みだったからか、思ったよりもたくさんの人がいた。私は本が好きだ。読書は私の唯一の娯楽。私は広い図書館の本棚の間をゆるゆると歩き回る。


 そういえば、このブッコローのキャラクターは本屋さんのものだった。生活がギリで本屋さんにはあまり行けないけれど、ゆーりんちーが間借りしている本屋さん、行ってみたいな。地方都市に住んでる私にはちょっと敷居が高いけれど。

 

 新刊コーナーにきれいな景色の大きな写真集があったのでその本を手に取り私は閲覧コーナーへ向かった。

 個人の学習スペースのテーブルはいっぱいだった。4人がけのテーブルで、制服姿の女子高生が1人本を読んでいたので、私は静かに空いている対角線向かい側の席に座った。


 私はペラペラとページをめくり、現実離れした青い空や白い城壁の景色を眺めた。

 なんとはなしに向かいの女子高生を眺めると彼女は本からノートに何か一生懸命書き写して勉強している。机の上には本が積み上がっていた。彼女は自分のカバンからペンケースを取り出そうとしてカバンを胸に抱えて蓋を開けた。


 そのカバンにはブッコローがついていた。

 

 私はブッコローを見て、あっという声にならないリアクションをとってしまった。その空気を読み取って彼女も私を見た。私はショルダーを自分の胸元に抱えてブッコローを相手に見えるようにした。女子高生もあっと声にならないリアクションをして私を見つめた。


「あの、もしよかったら外で少しお話ししませんか。」

女子高生が控えめに小声で話しかけてきた。

「ええ、そうしましょう。」

私は慌てて小声で返事をした。

 私はブッコローのぬいぐるみをつけた女子高生と2人並んで静かに図書館を出た。

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