第27話 茶会
周りは何の変哲もない樹木が並ぶ中、ポツンと開けた空間がある。そこには白い木を丁寧に組み作られた平屋の家があった。
屋根に伸びる小さな煙突からモクモクと煙が立っていている。
ちょっかいをかけられたせいで時刻は夕暮れになっていた。元々、深緑の森で太陽の光が届きにくい。そのためか小さな小屋が光っているのがよりわかる。
「いくぞ、リファ」
ギルが率先して歩いて行く。
「まったく」
デュークは既に前にいる。
「ちょっと待って!」
遅れないようにリファも後を追う。
近づいてみても特に変わった様子はない。家には窓があったが逆光の影響なのか中を詳しく見ることは出来なかった。
そして、正面に広がる扉。そこから漏れる光は他の場所と打って変わって不思議と安心感がある。
「よし!」
小さな決意をしたギルがノックもせずに扉を開けた。
扉はまったく重みを感じさせることなく開いてくれた。そして、開くと同時に漏れだしていた光が三人を直撃する。
「キャッ!」
薄暗くなっていく中、急に光を浴びたことによってリファは思わず目を閉じて可愛く小さな悲鳴を上げてしまう。
次第に光に目が慣れていき、部屋の中を鮮明に映し出すようになる。
そこには四角いテーブルに空席の椅子が二つ。その椅子の側には女性が優雅に椅子に腰かけていて、その女性の後ろにはたくさんの難しそうな本が並んでいる。
後は横の方に小さな給仕するための場所があるだけの簡単な作りになっている。そのすべてが木で作られていた。
――部屋の中には一人の女性がいた。
「やあ、久しぶりだね、兄弟」
その女性はギルとデュークの姿を確認すると微笑みながら言ってきた。
「久しぶりだな、サーシャ」
「変わりが無い様で、何よりだ」
二人は簡単に挨拶を終わらせる。リファも何か言おうかと悩んでいると先手を取られた。
「おや、可愛らしいお嬢さんだね。そうか、兄弟以外に感じていた反応は君だったのか。是非名前を聞かせてもらえると嬉しいな」
「――」
フレンドリーに話しかけてくれる妙齢の女性につい緊張してしまったか固まっていると、なにかを思い出したかのようでリファを再び見た。
「これは失敬、そうだよね、人に名前を聞くときは自分から名乗るのが当然の流れと言うものだ、オホン。初めましてと言うもの可笑しいね。ボクは君たちのことをこの森に入った瞬間から見てきたのに。まあ、そのことは、今は置いておいて、ボクの名前はサーシャ。サーシャ・スネークと手配書ではなっているかな。そこにいる兄弟と同じただの犯罪者さ。お嬢さんの名前も聞いていいかい?」
「あ、あの、私リファって言います。縁あってギルとあって色々あってここに来ました」
「そうかい、よろしくね、リファ」
微笑を浮かべるサーシャには美しさすら覚えた。
椅子に座っているから正確なことは分からないが長い黒髪を腰まで伸ばして黒い瞳に滑らかな白い肢体コントラストはよく映える。
多分、身長はリファより高くギルよりも低い。
豊満な体を隠すことのないビキニスタイルで、太ももまでブーツで覆われている。
なんというか選ばれた人しかできないファッションスタイルと言えた。
「ん? なにかボクの顔についているのかな?」
「い、いえ、別に、……何でもないです!」
ついジロジロ見てしまっていた。緊張と重なって語尾も声が裏返ってしまう。迂闊だった、誰も顔を凝視されてうれしい人はほとんどいない。
「謝らなくていいさ」
失礼にあたるリファの行動をサーシャは笑って許してくれた。
この人がここまでの道程で悪戯を仕掛けてきた張本人とは思えないほどに優しい笑顔に、物腰柔らかな声は周囲の人の緊張すら溶かしてしまうそうだ。
リファも大分落ち着いてきた。
「そんなことはいいから、重要な話がある」
「あ~あ、せっかくギルは用事なしにボクに会いに来てくれる優しい弟だと思っていたのに、残念……」
露骨にテンションを下げて見せる。
「まあ、いいや、久しぶりに会ったんだ、色々と積もる話もある。ゆっくりとして言ってくれ。……と、いけないな、この家にはボクが使っているのを含めて椅子が三つしかないんだった」
「あ、別に私無くても」
ポン! と手を叩きながら言うサーシャはどこか申し訳なさそうだったためリファが名乗り出るが、
「リファ、その心意気は称賛に値するが、気持ちだけ受け取っておこうかな。客人に無礼をすることがあればパピーに怒られてしまうよ」
笑顔で突っ返させてしまう。
「扉の周りから少し離れていて、危ないからね」
その忠告に三人は扉付近から家の中、テーブルの周りに移動した。
「じゃあ、やろうか」
パチン! と綺麗に指を鳴らす音が部屋の中に木霊する。すると、部屋の外で信じられない様な光景が広がった。
家の外に鋸や金槌が何の前触れもなく現われるとサーシャが軽く指を振る動作に合わせて自動的に動いて適頃な大きさの木を伐り始める。
鋸をもって木を切り倒すと、他にもたくさんの木材を加工する道具が現われてきて重力に反発するようにフワフワと浮かぶ木を加工していく。
葉を落されて、枝も全部斬りおとして皮をはいでいく。それが終われば切断していき椅子を構成するパーツに分けられた。
「次だ」
サーシャが言うと役目を終えた道具は消えていき、その代わりに加工された木が移動を始め部屋の中へと入ってくる。
再び指を振るう。すると、テーブルの空いた箇所に椅子を組み立てていく。もちろん自動的に……。
――鋸が木を斬りおとしてから数分もしないうちに立派な椅子が完成した。
「さあ、これで数はたりたかな。どうぞ、お疲れでもあるだろう。腰を下ろしてくれ」
「一体、誰のせいだったかな」
微塵も負い目を感じさせないサーシャはギル達に座るように言う。横目を向きながら憎まれ口を言うギルだったか気にも留めていない。
「あわわ、すごい」
一方、リファは目の前で見せられたサーシャの技に感服している。これまで、ギルの能力やデュークの能力は見てきたが、サーシャはそのどれとも違う、と直感的に感じた。
デュークが言った、彼女は魔法使いだと。
聞きなれない言葉だったから特に気にしていなかったけど、今、その意味をよく理解した。
サーシャは魔法を操る、未知の存在だと。
「リファ」
「は、はい!」
「なにボーとしてんだ。椅子座れよ」
ギルに誘われるまま席に着く。ちなみにそれぞれの座席は四角いテーブルということが相まって四方を囲む形になっている。
最深部、本棚の手前に座っているサーシャの目の前にはギルが、サーシャから見て右にリファ、左にデュークが座る構図になった。
「お茶も無しに魔女の茶会は開けないな」
また、指を鳴らす。
今度は給仕室でポン! と音を立ててやかんが登場したかと思うと勝手に水を入れてこれまた不思議な宙に浮く火によって加熱されていく。
「ボクは紅茶をだけど、デュークもそれでよかったかな?」
「ああ、構わない」
「リファはなにがいい? 希望はあるかな?」
「わ、私は、あ、いえ、私も紅茶をお願いします」
「わかった、用意しよう。最後にギル。君はコーヒーで良かったかな? 砂糖とミルクはどうするんだい。前のようにたくさんいるのかな」
「コーヒーでいいことには異論はないけど、ブラックでいいかなら! いつまでもガキ扱いするな!」
「おや、怒られてしまったようだ。しかし、君はボクにとってかけがえのない弟だという事実は変わらない。子ども扱いしたい気持ちも分かってほしいね」
「かけがえのない、ね。……ちがうだろ。恰好の実験体だろ」
「ははは、物はいいようと言うやつだね」
口をイの字にして眉を吊り上げて怒るギルにサーシャはいつもの微笑みを崩すことなく口に手を当てて微笑する。
一通り話がまとまったところでピュー! と蒸気が吹き上げる音がして沸騰したことを知らせてくれる。
またまた自動で作られた各々の飲み物が宙を浮かんで運ばれてきた。
「久方ぶりの魔女の茶会だ。各人楽しんでいってくれ」
サーシャの言葉を皮切りにカップに口をつけるリファ。しかし、ギルとデュークは飲もうとしない。
「おや、口に合わないかい」
「いいや、ただまた変なものでも入れていないか心配になっただけ」
「ぶっ!」
リファはギルの意味深な発言に口に含んでいた紅茶を遠慮がちに噴き出す。
「えっ! それって!?」
「安心しなよ。魔女の誇りに誓って『今回は』何も入れていないよ」
必要以上に『今回は』を強調するサーシャにリファはなんとなくこれまでの境遇を悟った。
「んなこと言っても他の魔女も性格碌な奴いねえんだろ」
「ん~、否定が出来ないところが辛いね」
何やかんやで穏やかな会話に戻っているようだが言葉の節々には聞いてはいけない様な不穏な単語が混じっている。
いろいろ言いたいことがあるのを必死に我慢して周りを見渡す。ギルもデュークもサーシャから差し出された飲み物を口にしていることを確認して再び口にした。
「ふわぁ~、おいしい」
「そう言ってもらえると嬉しい限りだ」
思わず口から出てしまった言葉だったが決して建前ではなくて本心からの言葉だ。
「――」
常に笑顔で見てくれるサーシャはとても素敵だった。さっき見せてくれた魔法? もそうだが物腰が柔らかくて敵意が感じられない。
それに、長く艶やかな黒髪に目が惹かれるため気付くことが遅れるが年齢が年齢のため色々と平坦なリファから見ればサーシャの体は魅力的すぎた。
短いスカートにロングブーツで足回りを固めて豊満な胸は黒ビキニだけで押さえていて下手をすればはみ出してしまいそうだ。それに、マントのような上着を一枚羽織っている。
思い返せばオーラも胸は大きかったが、あれはどっちかというと母的な大きさだったと思う。でも、サーシャは女性としての胸の大きさを持っている。
「ふふふ、そんなに気にしなくていいさ。リファも大きくなるよ。まだ若いから自分を信じて、それに、ボクだってソフィアには勝てていないんだ。魔法を使うのはフェアじゃないからね。頑張っているけどなかなか難しい」
「――あ」
考えていただけだったのについ行動に出てしまったことに赤面する。
「大体サーシャ、お前もそろそろいい歳だろ! 少なくとも十代は終わっているはず。いつまでそんな露出の多い服を着ているんだ、歳を考えろ、歳を」
ピクッ!
コーヒーを飲みながら何気なく言ったギルの一言だったがなぜだろう、優しく微笑むサーシャの表情がさらに優しくなった気がする。
「ギ~ル」
いつまでも笑顔で言うサーシャだったがその言葉に関しては表情と一致することなく凄まじい怒気が含まれていた。
「やべっ!」
ここでようやく地雷を踏んだことに気付いたギルは椅子を後ろに引き倒す形にして体に電気負荷をかけて後ろに飛び下がろうとした。
それを見逃してくれるほど、魔女様は寛容ではない。
「――なっ!」
飛び下がることは出来なかった。その理由は、ギルの体が宙に浮いて地面を蹴ることが出来なかったからだ。
仕掛けた張本人であるサーシャは笑っている。
「ギ~ル、ずっと前から言ってきたよね、女性に歳の話はするなと」
さらに指を振るうともう少し高くギルが浮いた。
『デュークさん、助けなくていいんですか?』
リファが最小限の口パクと身振り手振りでデュークに救援を求める。
『放っておけ、いつものことだ』
と、目が言っている。
『ううう』
デュークに言われたら下がるしかない。
サーシャはゆっくり立ち上がると正面の扉まで移動して扉を開けた。そこに宙に浮いて手が使えないギルを連れてくる。
「このままやられるかよ!」
事実、現在のギルは足を使うことは出来ないが手は使える。片手を出してサーシャに照準を合わせて、
「ボル……」
「バインド!」
鳴らした指が合図となって光の縄がギルの手足を縛りあげる。
「くそぉ~」
「ギルは確かにボクたちの誰よりも速い。瞬間的な速さならハルすらも凌ぐ。でも、ハルとの大きな違いは空中で方向転換ができないことだ。地面から足が離れれば抵抗できない、なにか対策を考えたかと思っていたけど杞憂に過ぎなかったようだね」
「落ち着け、落ち着けってサーシャ、なあ?」
必死に説得を試みているが折れる気はなさそうだ。
「選ばしてあげるよ、ギル。このままボクにふっ飛ばされるか、時空間魔法で別空間に閉じ込められるのか、どっちがいいかな」
「ははは、どっちも遠慮するよ。」
愛想笑いを浮かべながら言う。
「ふ~ん、そうか、ギルはそっちがいいんだね」
「ちょ、まだ何も言ってないでしょうが!」
そう言っている間に右手を突き出したサーシャの手のひらには強大な紫色の球体が出現している。
「よりにもよって力魔法か」
「己の愚行を反省してまた来なさい、ギル」
放たれた重力球によってギルは周辺の木をなぎ倒して後ろへ、後ろへ飛ばされていく。
「デリカシーを身に着けることをお勧めするよ」
※
「それで君たちがわざわざ僕に会いに来た理由を聞こうか」
ようやく本題に入れるようになったのは出された紅茶が温くなり、また新しく入れ直した後だった。
「ようやくだな」
変わることのない席順。優雅に足を組んで紅茶を口に運ぶサーシャの目に座るのはボロボロになったギルだ。
先の騒乱で重力球が直撃した反動で力の限りふっ飛ばされて周りの木々に関係なく真っすぐな軌跡を描いていった。
ギルとの衝突で薙ぎ倒されていった木々はサーシャの手で元通りにされ、ギル自身もしれからしばらくの時間を経て木の枝を杖代わりにしておぼつかない足取りではあったが帰還する。
たった一撃を受けただけと思えないほどに満身創痍になっていて半開きの目に草木がのっかったままの綺麗な銀髪はどことなくくすんですら見える。羽織っているコートもヨレヨレになった。
そんな彼の風貌を見てサーシャとデュークは特に意に介する様子はなかった。
それよりもリファは決して言葉や態度に出さないように気を付けたが、それでも逸る心を抑えることは出来ない。彼女の心中は現在二つの感情があった。
一つ目はこれまでファーガルニであったり、道中であったりギルの戦う様子を何度か見たことはあるが弱いと感じたことはなかった。
むしろ誰よりも強いと言っても過言じゃないくらい感じていたが、そんな彼がサーシャのまだまだ余力がありそうな一撃を食らっただけでボロボロになったという計り知れない使徒の強大な力に畏怖した自分。
二つ目は恐らくこれまでの口振りからいて兄弟となっているギルの他の人は最低でも彼以上の力を有していて、それが今、自分の味方であるという安心感である。
二つの感情が入り混じり渦を巻いているがただ一つ言えるのは彼に付いてきてよかったことだ。ギルがいなかったら今頃世界貴族に連れていかれてオーラは殺されて、きっと無力に泣くことしかできなかったはず。
一つ咳払いをして話し出す。
「周りくどいのは無しにしよう。単刀直入に言う。手を貸してほしい」
「内容によるかな。何をするつもり?」
「ファーガルニ王国は知っているだろ。俺は最近、あそこでそこにいるリファに世話になった。その時にちょっと世界貴族を挑発してしまってな。後始末がしたい。加えて、ファーガルニもあの時のロンドリアに向かいつつあるから、適当に壊そうと思って」
胸の前で腕を組み真っすぐにサーシャの目を見て言う。
ギルだって一筋でうまく事が進んでいくとは思っていない。でも、魔女という生き物は自分にとっての利点を説明すれば頷くはず。
「もちろん、お前がなかな――」
「いいよ、協力しよう」
「か、前向きにならないことくらい、……って……なんだって」
必死になって説得にかかろうとしていたが出鼻をくじかれた。
「協力しようと言ったんだ」
「――」
「おいおい、人が快く引き受けたのに急に遠い目をしてボクの心を覗こうとしているのはいささか悲しいものがあるね」
豊満な胸をさすりながら悲しむそぶりを見せる。
「いや、お前が間髪入れずに賛同してくれたことは嬉しいけど、……何を考えている。お前は特に気にならないことはやらない主義じゃなかったか? だから、俺も説得の言葉を結構考えてきたんだが……」
「無論、得をせず損だけするのならボクがやるわけないさ。でも、ボクにとっての得があると判断したからやるんだ。この意味、ギルならわかるだろ?」
そこまで言うと、サーシャは席を立ち後ろにある本棚から一冊の本を手にしてペラペラトページを捲る。
「最近、この森の凶悪さに気付いた人が多くて、なかなか立ち入ってくれなくなった。それで、ボクの研究に停滞が発生しているんだ。理論だけはいくらでも構築できるけど、実証して初めて成功と呼べる。ギルの言い方は抽象的に過ぎなかったが結局ファーガルニとの戦いになるのだろう。なら、いいさ、戦場は恰好の人体実験場だ。参加の条件としてある程度好きにやらせてもらうよ」
本を閉じてギルの目を貫くように見る。
「構わない、だが、他にも何かあるんじゃないのか性根の悪い魔女」
その言葉に口元を少し釣り上げる。
「さすが、わかっているじゃないか。そう、あくまでも今回の発起人はギルバード・ボア、君なんだろう。ならギルとボクの間で魔女の取引が成立する。姉弟割引を適応して、そうだな、――等価交換で手をうとうじゃないか」
「覚悟の上だ」
「さすが理解の速いことだ。伊達のボクと過ごした時間が長いだけのことはある。中身については事が終わってからでいいかな? 今回の難易度が分からない以上、どうこうと言えないからね」
「ああ」
吊り上げている口に加えて目を細くする。それは昔からの癖でもある。……その癖とは無理難題を吹っかけて自分は遠目で鑑賞するという趣味の悪いものだが。
「リファ、君にも確認しておかなければならない」
「? はい、……」
急に話を振られてドキッ! としたがなんとか平然とした態度で返すことが出来た。
「ボクが参加する以上、君の考える最優の結果が出ることはまずない。ボクはボクのことを良く知っているからね、多分、君が思う最低の結果になる可能性の方が高い。それに、リファは愚弟の愚かな行いのせいで忘れているかもしれないが、努々忘れないでほしい。ボク達は凶悪な犯罪者であることをね」
「はい!」
言葉の後半部分には特に強調するように言う。ステラにもその真意が伝わったのかはっきりとして力強く返事をした。
※
ある程度、話がまとまったころにはすっかりカップの中身は空になっていた。
「各々、おかわりはいるかな」
サーシャの問いに全員が首を横に振る。
「そうかい」
自慢の紅茶なのだろうかギルが断った時は変に態度を崩す素振りを見せなかったが他二人が断った時はテンションが下がっていくのを確認できた。
「は~、で、まあ、気を取り直して、こうして功を奏してボクを取り込めたわけだ、ギル。君はこれからどうするつもりかな? まさか、三人でクーデターを起こそうというんじゃないだろうね」
サーシャの発言にリファは、やっぱり三人じゃ厳しいんだ、とひしひしと内心思ったが、どうやら違ったらしい。
「聞くに向こうには最低でもセカンド、運が良ければファーストが来ているんだろ。なかなか、彼らを使った実験はできていないからね。ワクワクするね、実験のやりたい放題じゃないか! 久しぶりに本気で暴れたと思っていたんだ。どうするんだい? 今すぐにやりに行こうか」
「落ち着け、さすがに三人じゃ厳しい。それに本当はもうわかっているんだろ」
興奮して手にしていた本を本棚に返すと手をわしゃわしゃさせて感情を表現していたが、ため息一つつくと裏を返したかのように冷静になった。
「ま、そうだろうね、ボクに悪戯されると分かっていながらもここまで来たということは、時空間魔法を使いたいから。つまり、次に行くのは……」
「ああ、俺もデュークも久しぶりになる」
ギルの言葉にデュークが深く頷く。
「ボクも久しぶりだな、故郷へ行くのは……」
三人を包み込む妙な連帯感に置いてけぼりにされた感があったリファはカップに僅かに残る紅茶を口に運んだ。
※
――某国、某所
「はあ~、見たくもないものを見てしまったようだわ」
「おや、どうかしたのですか?」
執務室の様なテーブルとベッド、物置、タンスがあるだけの簡単な作りの部屋にいる一人の女性。片手で片目を抑えている。
その背後からノックをして入ってきたのは背の高い男性だった。
「覚悟をしておいて、明日、……いや、明後日かな、に必ずや厄日が訪れるから」
「あなたがそう言うのも珍しいですね。……その目にどんな未来が映りましたか?」
「厄日と言ったら厄日よ。今でも大変だというのに面倒ごとがさらに増えるの」
その言葉に男性は表情を崩す。
「あなたにそこまで言わせることが出来る人はそう多くないですよね、となると彼らでも来るのですか?」
「これ以上、言わせないでほしいわ。常識人である私からしてみればアレンの面倒だけで精いっぱいなのに……はあ~」
テーブルに付随する椅子に腰かけていて額を抑える様にして考え込む。
「メイ、ため息ばかりをついていてはいけません。久しぶりに会えるのです。無事再会できた喜びを分かち合いましょう。そのために私は祈り願い続けることでしょう。私の神よ。どうか兄弟たちの道中につつがなく終えることを、どうか神のご慈悲をもって望む再会を遂げることを……あぁ、神よ。あなたのお声が今も聞こえます。あぁ、あぁ、ぁ」
頭を抱える女性の後ろでクネクネと身を揺らしながら神に祈る? 様な行動をとる弟。
いつもは彼の面倒だけで悪戦苦闘しているのに同じくらい面倒なのが三人近づいて来ようとしている。
「はあ~」
このことが発覚してから何度目かになるため息。
その度に頭痛が強くなっている感じがする。
そんなことを考えている最中も背後では祈りを超えて変なダンスのようになっている彼を横目に物置にある頭痛薬を探した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます