第26話 魔女の悪戯 後編
「ねえ、ギル。今度はちゃんと前に進んでいるの?」
「安心しろ、サーシャは二回も同じことはしないから」
「ならいいけど」
どうやらリファはサーシャの時空間魔法の被害にあってから疑心暗鬼になっている様子で、そんな姿にギルは思わず苦笑する。
サーシャからの横やりもなくなった今ようやく終焉の森を突き進むことが出来る三人は道を開拓して進んでいる。
「でも、思ったよりも普通の森みたい……」
リファが辺りを見渡して言う。
「もっとおどおどしい感じを想像していたのか?」
近くを歩いているデュークが答えてくれる。
ギルとのこれまでの旅やサーシャからの悪戯を通じてリファは予想を超える速さで成長していき――というよりも逞しくなり――誰かの助けなくてもあれだけ怖がっていた終焉の森の中を縦横無尽に歩いている。
「サーシャの悪戯の有無に関係なく未開拓の道に樹木が覆い茂り太陽光が遮断される場所が多いから気を抜くと本当に遭難しそうだな、……って元々どこにたどり着くかなん分からないんだけどな」
「――え!? 分からないの!」
何気なく放った一言はさっき隔離空間に放り込まれたことによって超常的な遭難をしたリファにとっては『遭難』の言葉はトラウマにでもなっていることだろう。
体をビクッと震えさせて強張る様子は見ていて面白いがこれ以上怖がらせるのは不必要な発言を非難したがっているような目をしてこっちを睨んでいるデュークに説教されてしまう。
「ま、安心しろ。俺たちは何やかんやで繋がっているからいつかは辿り着くよ。それにサーシャが満足したのならあっちから招待してくれそうだしね」
「う、うん」
それだけ言って優しく手をリファの頭にのせる。すると、リファは恥ずかしそうに顔を赤らめて深く頷いた。
「でもさ、どうしてサーシャさんはこんな辺境な場所に住んでいるの? 普通に町の中でもいいのに」
身長の高いギルを見上げるように聞いてくる。
「実験だ、なんとか言っているけど根音的にはサーシャは人と積極的に触れ合うのが好きじゃない奴だからね。静かに暮らしたいと思ったんだろ」
「嘘はよくない、ギル」
「!?」
「ちょ、デューク! 人がせっかく急降下しつつあるサーシャの株を上げてやろうと思ったのに」
先頭を行くデュークは振り返ることをせずに、……表情が見えないから確実なことは言えないが多分涼しい顔をしていると思う。
そんな言葉に慌てるギルにジト目で無言のビームを放つリファ。
……修羅場?
「嘘なの? ギル」
「必ず嘘とは言えないけど、……まあ、一番の目的は言ったかもだけど実験素材が手に入るからだ。街中で人を攫って人体実験をすると大きな問題になる、失踪事件とか言ってね。そこでサーシャが考えたのは死にたい人間を活用することだ。こんな場所に来る人間なんて自殺志願者だけだ」
「聞くたびにすごそうな人としか思えなくなってくるよ」
――リファの当然の指摘を真に受けつつ、それからも進んでいった。しかし、サーシャの姿を捉えることは出来ない。
「まだまだサーシャさんの悪戯が続くと思っていたのに来ないね。このまま悪戯される前に見つけられるんじゃないですか?」
欲に深い意図なく言った言葉だったがギルとデュークはピクリと眉を揺らす。
「リファ、それは禁句だ」
「ここはあいつのテリトリーだからな。俺らの会話なんて当然聞いているに違いない」
デュークとギルの言葉に首を傾げるステラだったが、ほどなくしてその言葉の意味を、身をもって知ることになる。
草木が次から次へと行く手を阻んできて進むことに至難していると、遠くからズドーン! と低く響く音がした。
「はあ、サーシャからの贈り物かな」
デュークが頭を押さえて考え込む。
ドンドン、ドンドン近づいてくる音。聞いていけばそれが足音だということに気付いた。
「今度は何!?」
度胸がついてきたと思っていたステラだったがやはり、実際に何かが起きるとまだまだ対応できないようだ。
背の高い樹木の間からそれは顔をのぞかせた。
「ひっ!」
驚いたリファは肩をすくめる。それも無理がないことだった。三人の前に現れたのは大きな、大きな猛獣だった。
「これって……熊?」
最後に『?』をつけて自信なさげに言うリファだったが見た目はそのまんま熊である。しかし、その大きさが尋常じゃなかった。
通常森の奥にいる熊の全長――四足歩行時の地面から背中まで――の高さは大体百センチから百五十センチ程度である。威嚇時に二足歩行となるが、それでも二百センチで収まる。
この熊にはそんな常識が通用しなかったようだ。はた目から見ても通常の熊の最低六倍の大きさはある。
その目は赤く血走り、四肢は図体以上の筋力があり、黒い体毛は全身で逆立っておりすでに臨戦態勢であることがわかる。
「こんな熊っているんですか!」
悲鳴に近い声で問い詰めるリファ。
「いるわけない。これはサーシャが作ったものだ」
「つ、作ったって……熊を、そんなことできるわけ……」
「できるさ、君の目に映るものが証拠だ。とはいってもさすがのサーシャも命を創ることは出来ない。故にこれは改造された熊と言っていいだろう」
ギルの返答に余計興奮度合いが増してきたリファは荒れる息を抑えることもせずに言い続けようとしたが、冷静さが売りのデュークが口をはさんできた。
「……改造って」
涼やかな口調にあてられたのか少し頭を冷やしたリファは呼吸を整えつつ聞く。
「まず、不自然に成長した体躯、あれは生命系の魔法を使い強制的に成長させて、異常なまでに発達した筋力は力魔法で倍増したのだろう。多分他にも様々な改造をされているんだろうな」
「なら、デューク。さっさと『剥奪』してしまってよ」
付けている眼鏡の位置を直しつつ言うデュークに頭の後ろで手を組んで気楽そうに用件だけを言うギル。
「残念だが、私が出張ることは出来ない」
「――はあ?」
まさかの拒絶に口をあんぐりと開けて唖然とする。
「どうしてまた……」
「なぜサーシャがまた仕掛けてきたのか考えて見ろ。私の行動で満足していたのならすぐにでも転送してくれていただろう。それをせずにまた悪戯してくるということは私の行動が気に入らなかった。または、私では役不足だということだ」
嘆息するようにデュークが言う。
「正解はおそらく後者だ。サーシャの実験で一番付き合わされていたのはギルだっただろう。なら今回もギルがどうにかすべきじゃないのか」
「えー」
デュークの説明に露骨に嫌な顔をするギルは隠すことなく顔を引きつる。
「でもな……!」
言っていることがあながち間違いではないと理解できる点があるため判断が鈍っていた。……すると、急に風切り音が急接近してくる。
これまで律儀に体をフラフラさせつつもこちらの動きを待つかのように動かずにいた巨大熊がギル達に向けて攻撃を始めた。
「リファ!」
急なことだったためリファを保護できなかったギルは慌ててさっきまでリファがいた方向を見た。
「私は大丈夫」
そこにはデュークに抱きかかえられて無事に避難できているリファの姿があった。
「ほら分かっただろ、ギル。お前がやるしかない」
「あぁ~、もう、仕方がないな。やると決めた以上サーシャ! 自慢の改造生物一瞬で倒しても後で怒るなよ!」
言い放つと急にギルを囲む雰囲気が大きく変化した。さっきまでの和に流れていたものと大きく違う殺伐とした戦闘に臨むときのそれだ。
「ほっ!」
熊との距離を一気に詰める様に足に電気負荷をかけて高速移動をする。
「ぐるるるる」
体が巨大なだけに細かな動きには対応がかなり遅い。その隙にギルは熊の足、胴、肩を踏み台にして顔正面に躍り出た。
「さあ、その顔に穴をあけて終わりにしようか」
未だに熊はギルに動きについて行けずにノーマークで攻撃態勢に入る。
「ボルグ・ギニス」
白銀色の雷槍を手に作りだすと大きく振りかぶって熊の鼻先目掛けて放り投げる。
一寸の狂いもなく鼻先に吸い込まれていき命中、……しなかった。
「なっ!?」
ギルが驚いたのも仕方がない。突如発生した水の膜の様なものが熊の全身を包んだのだ。雷槍は接触と同時にほとんど弾かれて空気中に霧散した。
「――あっ! やべぇ」
この一撃で終わると思っていたため自分の体を防御するための魔力を一展開していなかった。そこにようやく体の動きが追い付いてきた熊の手による強烈な一撃がギルに直撃する。
「嘘だろ!」
モロに受けた一撃によって思いっきり地面にたたきつけられた。
土煙がもうもうと立ち込めてそこには大きなクレーターが作りだされた。
「ギル!」
そんな様子を見ていたリファは悲痛な声をあげる。
「心配するな、あの程度で倒れる奴じゃない」
抱きかかえられたままのリファはデュークの顔を見る。やはりと言うべきかその顔は涼しいものだった。
「――デュークさん、どうしてさっきのギルの雷は弾かれたんです? あれって水でしょ。普通は相性がいいはず……ですよね」
「普通は、な。水は通常水中に存在する不純物が電気を通す役目を果たす。これは魔力で作った水にも言える。しかし、サーシャは完璧に制御した魔力による不純物が一切ない純水を創り上げたんだ。だから、ギルの攻撃が弾かれた」
その説明を聞いてリファは目を丸くする。
「とっても奥が深いんだ……」
「ゴホゴホ」
顔面を覆い尽くす土煙が喉に入ってせき込んでしまう。
「サーシャめ、……純水を使うなんて面倒なことするじゃねーか。てかこれって完璧俺対策だよな。ただでさえ純水を作るだけでも大変なのにここまで制御できるようにするなんて、どれだけ俺をおちょくりたいんだよ」
背中から地面にたたきつけられたようだが幸い骨が折れていることはなさそうだ。
「痛ててて」
のらりと立ち上がるとクレーターから脱出した。
巨大熊は枷の外れた猛獣が如く自由に暴れまくっていて、その様子を少し離れた場所からデュークとリファが眺めている。
――どうやら本当にデュークは加勢する気はないようだ。
「サーシャがその気だってなら俺も本腰入れるかな」
――さすがに制御器でもない剣じゃしんどいな。
そう考えたギルは指輪を変化させてアルグラードへとした。
「んじゃ、猛獣駆除と行きますか」
アルグラード片手に再びギルは駆けだした。
ギルが動き出したと同時に理性を失ったように暴走していた熊は狙いを定めてギルを攻撃しだした。
どうやら、自分に近づいてくるものを攻撃するように仕込まれているのだろう。
ギルの走路に合わせて次々と振り下ろされる巨大な手を掻い潜りさっきと同じように足や肩を踏み打にしてジャンプした。
――違ったのは、到着場所。
鼻先ではなく、顎の下に……。
「せっかく俺のために救ってくれたのに悪いけど、純水だって電気を通さないだけのただの水。魔力が込められていないから水自体を操作できない。今も魔法によって外部から操作しているんだろ。それなら難しいことは出来なかよな。だったら雷光を纏わせていないアルグラードなら突き刺せるってことだ」
生物にとって鍛えることが難しく皮の薄い場所、それは首。そのことを知っていたギルはアルグラードを力の限り熊の喉に突き刺した。
今の熊の喉の厚みとアルグラードの刀身の長さでは殺害できるとは言えない。別にそれで構わない。
「よし!」
目いっぱい、力いっぱいに差し込んだアルグラードは水の層を難なく破り熊の喉に達した。
無論、殺すことは出来ず熊自身も刺さりが甘かったのか特に悶える様子は見られない。
「別にそれでいいさ、アルグラードの一部が熊の中に入っていれば」
重力によって落下してしまう前にアルグラードの刀身を手で掴んで、
「ボルティック!」
声高らかに叫んだ。
「ぐるわわわわわぁぁ」
ここでようやく苦痛に悲鳴を上げた熊。
純水の膜があるため雷光による攻撃はほとんど通用しないことは理解していた。しかし、それはあくまでも外側の話。
純水の膜と聞こえはいいかもしれないが所謂ただの水だ。
――とはいっても魔力という不純物を一切残さず、且つ操作するという規格外なこともしているが……。つまり、斬撃に対しての防御力はない。
しかし、そこでアルグラードによる斬撃を斬り返しても固い皮膚、筋肉、脂肪に遮られて致命傷を与えることは出来ない。
雷光とアルグラードの両方を封じた良案だと彼女は考えたのだろうか、……しかし、一つ見誤ったことがある。それはギルの頭の回転速度だ。
サーシャはどうやらギルのことを馬鹿にし過ぎていた。
ありったけの雷光を、アルグラードを通じて体の内側に流された熊は悶絶し血走った目は一気に生気が失われていき白目と化した。
吐く息に黒煙が混じる、肺も焼けてしまったことが原因。
どれだけサーシャの魔法で強化されたとはいっても熊は熊、内側の体組織を焼かれてしまえば生きていく事は出来ない。
次第に全身が真っ黒に焦げていき巨大熊は絶命した。
「ぉおっっと!」
同時に二足で立っていた熊はバランスを失い後方へ倒れていく、首に刺さったままのアルグラードを急いで抜いてギルも足早に熊から離れる。
ズドーン! と先ほどの足音とは比べ物にならない轟音を鳴らして熊は地面に倒れ込んだ。
ギルは倒れた熊の上に乗ると勝ち誇った顔で叫んだ。
「サーシャ! どっかで聞いているんだろ? 残念だったな、どうやら俺の勝ちのようだ。見誤ったんだよ俺の強さを。もうお前に悪戯されて泣き喚いていたころとは違うんだよ。分かったか! バーカ、バーカ!」
ドヤ顔で言うギルの近くで聞いていた二人は、
「デュークさん、ギルって悪戯されて泣いていたの?」
「言うな、ギルが本当に泣き喚くぞ」
脅威がいなくなったことから抱きかかえられていたリファは離されてデュークと一緒に手ごろな大きさの石に腰かけていた。
「おい! そこの二人せめて俺に聞こえない様にしてくれ……」
昔あったことを自らで赤裸々に告白した形になったギルはそっぽを向きつつも顔が赤くなっていることがわかる。
※
『あらら、負けちゃったな……』
椅子に座りつつ戦況を確認していたサーシャにとってこれは予想外の事だった。
『ん~、デュークが多少なりとも手を貸すと思ったけど、まさかギル一人で倒すなんて、成長したものだ、感心』
口では褒めることを言っているようだがその顔は決して優しいとはいいがたい。
『でも、ボクに生意気なことを言うなんてお姉ちゃん悲しくなってくるよ。そんなギルにはお仕置きをしないとね。君が言った内側を意識した悪戯をしてあげよう』
席を立ち、後ろ側にある本棚から一冊の本を手に取った。
開いたページは限界までの文字が書かれている。
『きっと懐かしむことが出来ると思うよ』
今日一番の笑顔で笑うサーシャはとても怖い。
※
「……これは、一体」
唖然とするリファ。他の二人も無言のまま立ち竦んでいる。
「露骨に仕掛けてきたな、サーシャの奴」
熊との一戦で背中を軽く負傷したギルはその個所を手でさすりながら状況を見据える。
「ここで止まっていても仕方がない、先に進もう」
切りだしたのはデュークだった。
――そもそも、何が起こったのか、それは目の前に広がる光景を見れば一目瞭然だ。
そこには草の壁によって形成された迷路があった。いつからあったのか、熊と出会う前はそこには獣道しかなかった。つまり、サーシャがこの一瞬で大迷路を制作したのだ。
「何を言ってんだ、デューク。こんなもん上から行けば早い話だ」
そう言ってギルは高さ三メートル程ありそうな草の壁をジャンプして乗り上がろうとする。
――しかし、
「うっ!」
頭が壁の高さを超えようとした時、急に体が重くなってそのまま地面に押し付けられる。
「痛ててて、……」
まるで、重力が強まったようだ。
腰を押さえつけられるように振りかかってくる力につい言葉が漏れる。
すぐに解除されたが上からはいけないことが自分の身をもって実証した。
「イカサマ禁止ってことか。クレアの能力まで再現するなんて努力家だね、サーシャ」
腰をいたわりつつデュークも元へと帰還するギル。さっきまでのギルの行いを見ていたデュークの目は冷たいものがある。
「浅はかだな。サーシャがその程度のことも予測していなかったとでも思ったのか」
「はいはい、悪ぅござんした」
「つまり、地道に行くしかないってこと……」
「そうだ」
リファの言葉をデュークが肯定する。
簡単にいっているが迷路の規模が分からない以上ただ歩くだけでも精神的に多大なダメージを食らうのは確実だ。
「多分、これも俺が支配して攻略してもサーシャは満足しないだろう。ギル、お前が先頭に行って道を模索しろ」
「……了解」
デュークの高圧的な文言にも慣れたもの。軽くストレッチをしてギルを先頭に迷路の中に入っていく。
とりあえず片っ端からローラー作戦を開始した。
――数時間後。
「おかしい、全く突破口が見つからない」
三人は未だ迷っていた。既に入ってきた入り口もどこかへ行ってしまい引き返すことも難しい。
「ねえ、ギル……」
「わかっている。多分もう少しだと思うんだよな」
かなり長い距離を歩いたことで疲労が蓄積しているギルは虫の息に近い。
ちなみにデュークは息一つ切らさずに静かについてくる。
「そうじゃないの、なんかこの迷路おかしいと思わない」
「……と言うと」
「なんか、複雑な時と簡単な時がある、みたいな。最初の時と比べると迷路が複雑化
していると思うの。単純に時間経過とともにってわけでもなさそう」
「――あ」
リファの言葉に何か気付いた様子のギル。
「やっと気づいたのか」
ギルが反応を示したことでここまで沈黙を保ってきたデュークが口を開く。
「デューク、お前気付いて……」
「当たり前だ、サーシャが迷路を作りだした。この条件だけで気づくことは容易い。本来ならお前も入る前に気付くべきだ。まんまとサーシャの掌の上で踊らされたことになるからな」
「あ~」
深い溜息を吐き手を額に当てる。
「攻略方法が分かってたんですか?」
「まあな、でも、これはギルの試練だ。私が簡単に手を差し出したら意味がない」
「うう、確かにそうかもですけど、これまでの苦労は一体……」
歳に似合わない疲れ切った顔で溜息を吐くリファ。
「もう! ギル、早く攻略してしまってよ!」
どうやら疲労で感情が不安定になっている様子だ。
「はいはい」
ギルは静かに壁に手をついて瞑目して精神を集中させる。
――すると、迷路は音を立てることなくこの構造を変化させていく。
ギルが目を開けた時、壁は一直線にゴールを結んでいた。
「すごい、多少変化している感があったけど、ここまでなんて……」
一直線になった迷路……これは迷路と呼べるのだろうか……を目の当たりにしてリファはこぼした言葉はもっともだ。
「早く行ってしまおう」
デュークが歩き出した。その後に続くようにステラもついて行く。
一人取り残されたギルは深い溜息を吐く。
「これを持ってくるとは余程さっきのことが尾を引いているんだな。でも、それを差し引いてもやっぱりお前は性格が悪いよ、サーシャ。まだ弱かった時の自分を思い出すじゃないか……」
静かに呟いて後をついて行った。
「やったー! 出口!」
ようやく抜け出た迷路に歓喜するリファ。最後のあたりは駆け足になっていた。
「ふ~、ようやくか」
次にデュークが無表情で出てくる。一緒になってあれだけ動き回ったのに汗一つかいていない。
「はい、クリアっと」
そして、最後にギルがでてきて全員揃った。
「先に進もう! と言いたいけど、疲れたから少し休憩したいです」
リファはへなへなと地面に座り込んでしまう。
自分の体を見ていたデュークはここにきて少し笑むとリファに言った。
「どうやら、もう歩く必要はなさそうだ」
「え!?」
また変なこと言って、みたいな反応をして目を丸くする。逆を見ればその言葉の真意を理解しているのかギルも脱力して座り込んでいた。そして、リファも気づく。
「体が……!」
白い光に包まれているのだ。
次の瞬間には三人はその場から姿を消した。
瞬きをしている間に景色が一変した。さっきまで見渡す限り樹木しかなかった。少なくとも人の気配は全くしなかったし、人が住んでいた形跡も見当たらない。
しかし、今はどうだろう。
三人が飛ばされた先の眼前に映っているのは、
「家、ですよね」
自信なさげにリファが言う。
そう、急に飛ばされたかと思った先には素敵な小屋があり、それも明かりがついているため誰かいるということだ。
驚くリファだったがデュークとギルはそこまでもない。
「リファ、ついてきて」
デュークに言われるがままに腰を上げてついて行く。先にギルが扉の前に立っていて、その扉を躊躇なく開ける。
――そこには、
「やぁ、久しぶりだね、兄弟」
性格の悪い魔女がいた。
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