第20話 罪人の素顔

 それから一日が経過した。

 歩けば一週間かかると言われた道程だったが馬車を使えば二日と言うことで、この馬車の行き先がギル達の目的の場所であるキリル王国は目前に迫っている。

 この一日間はほとんど動くことのない生活が続いた。時折、体をくねらせて暇をつぶす。

 ギルが言ったように奴隷は国家の所有物ということでひどい扱いは受けなかった。きちんと食事も出るし、衛生面でも完璧とはいないが不便を大きく感じることもない。

 周りの人も奴隷になるのが嫌で反発するかと思ったけど、案外おとなしく運命を受け入れている。むやみに死ぬよりも生きることを選択した、と言うことだろうか。

 それに、ギルに話し方だと行き先の国によって異なるのだが、最低限の権利を認める国もあるようで、奴隷だからと言って悲観するのは早計だそうだ。

 ギルも同じようにおとなしかった。最近はずっと目も瞑ったままだ。しかし、キリル王国が近づいてくるということは面倒くさいことに巻き込まれるということなのでギルは黙ったまま辟易していた。


 リファもここまで動かない時間が続いたのは初めてだったのだが、思う程気を取り乱していなかった。

馬車の中に窓がなく外の風景を楽しめないのは残念に感じたため、出発して数時間後にギルに頼んで他に人や騎士に気付かれないよう細心の注意を支払って木製の外壁に片目だけが覗ける小さな穴を穿ち、そこから見える一定の景色を楽しんでいる。

 その隣では、一人で悶々と説教シミュレーションでもやっているのかギルは唇を微かに動かしている。そんなリファの耳に届いてくる音は周りに人の吐息と駆ける馬の足音だった。

 

 それからまた数時間が経過した。誰にも気づかれないように穴から外の様子を窺うと、太陽は地平線に顔を隠しはじめていて、辺りは茜色に包まれている。

 今は夕方に近い時刻だろうか。

 残り時間から考えておそらくもうキリル王国の領土に入っているはず。

 外に出ていない日々がここまで続いてしまうと、太陽の変化を体感で把握できないため、目に見ている情報がいまいち信用できないが、目しかない今、信じるほかない。

 特に何もすることが無いリファはこれまでと同じように馬の駆ける足音を聞き続ける。

そんな時だった違和感を覚えたのは、どことなく馬の足音がいつもと同じように軽快なリズムを刻んでいない。

 休憩かなっと思ったが、考えてみれば少し前にしたばかりだった。だったら、これは一体どうしたのだろうか。

 不安になってギルの方を向くと、いつもは目を閉じているギルが起きている。


(ギル、何だが嫌な予感がするの)


(……正解、運がなかったね。あと少しだったのに……この馬車は外れだね)


(? どういう――)


 悔しそうに軽く舌打ちをするギル。

どういう意味なのかリファが聞こうとした瞬間、ドゴォォン! と何かが地面に強く叩きつけられるような音が響いた。その音に驚いたのか馬も悲鳴を高らかに上げる。

 それが合図になったのかもしれない、オォォォォオ! と野太い男の声がいくつも聞こえた。


「ギル! 何が起きたの!」


「……盗賊たちだ。十回に一回くらいの割合でこうした襲撃があるんだ。奴隷を狙っている。盗賊にとっても奴隷は貴重な高級取引資源だからだ、とはいっても盗賊にとって重要なのは外側じゃなくて、内側、つまり、臓器や血だ。人身売買と言うよりも臓器売買と言った方が近い」


「国家の所有物だから大丈夫って!」


「物事に絶対はない。あくまでも可能性が低いだけ!」


 既にリファとギルは大きな声で会話をしている。周りも沈黙を貫いていたのが嘘のように慌てている。

この中には大人の男はいないため女性たちが子供たちを不安がらせないようにしているが、耳に届く低音の声は幼い子供にはあまりにも凶悪な音になって胸を騒がせる。


『何で、急に!』

『知らない国の奴隷も嫌だけど、盗賊につかまるのはもっと嫌だ!』

『大丈夫、護衛がいるんだから!』


 襲撃を受けて左右に揺れる馬車。

 飛び交う奴隷たちの言葉。

 リファはギルにしがみついて……というよりも手足が拘束されているため正確にはぴったり寄り添い離そうとしない。他の人もパニックにはなっているが誰一人として外に出ようとする人はいなかった。

 外にいる護衛たちが迎撃してくれるからだ。自分たちは本来、守られるような身分じゃないけど、今は奴隷だ。つまり、国家の所有物である限り護衛が命を懸けて守るのは当然の道理と言うことである。


『やれ!』

『全員殺せ!』

『殺してから奪え!』


 どうやら外は大乱戦が始まっているようだ。絶え間なく声が荷台の中まで届いているが、おそらく襲撃した盗賊は十人を超えて二十人に近い数いるだろうか。それに、皆が低く如何にも極悪な声をしている所から男であると考えていい。

 中にいる奴隷たちは数か所にまとまって誰かに寄り添うことで今にも襲い掛かってくる強大な恐怖に立ち向かっている。

 さっきからリファも変わらずギルにくっついたままだ。

 当のギルは最初こそ興味があるようなそぶりを見せていたが、今では興味がなさそうに天井を呑気に眺めていた。


「こうもうるさいと寝られないよ」


「ギル状況が分かっているの! ていうか、ギルも戦うべきじゃないの?」


 真っすぐにギルに目を見ながらステラは言う。だが、ギルの反応は薄い。


「どうして、俺が戦わないといけないんだ」


 ひどく冷たく突き放されてしまう。その言葉にリファは出かかっていた言葉を飲み込んだ。ギルはこの緊急事態に緊張感をなくし、呆けていた。

 拘束されて後ろに回されている両腕はそのままだが、壁に背中を預けるとだらしなく足を延ばしてぐーたらな姿勢になっている。

 外では怒号と剣戟音によって聞きたくもない戦いの音楽が奏でられている。

 ギル以外の誰もが震えていて助かりたいと心から願っていたときだった、ドン! と乱暴な音がすると同時に奴隷たちがいる荷台の扉が開け放たれた。


「あ……あ、……に、逃げろ」


 そこにいたのは護衛を務めていた騎士の一人だった。しかし、その体には無数の切り傷があり、出血の量からして助かるのは難しい。

 本来、奴隷を勝手に解放することは重罪だが盗賊の手に渡ったと知られれば余計に護衛としての名に傷がつく為、奪われるくらいなら逃がしてしまうのが冒険者にとっての暗黙の約束だった。

 荷台にいた奴隷たちも状況がよくないことを察して一目散に逃げようとする。しかし、その場から逃げ出せたものはいなかった。


「逃げるな、せっかく一か所に集まっているんだ。おとなしく俺に殺されろ」


 不吉な声がした。


「――っく!」


「キャッ!」


 それと同時に奴隷たちを逃がそうとした護衛の騎士の頭の鼻から上の部分が吹き飛んだ。

鼻より上の吹き飛ばされた部分が宙を舞い頭蓋骨に収まっていた脳を地面にぶちまけた。

 脳を失った騎士はそのまま地面に倒れて絶命する。

 その様子を見ていたリファは思わず目を閉じる。反してギルは天井を見て憂鬱な気分を満喫している。

 倒れた騎士の後ろから現れたのは身長二メートルを優位に超えるガチムチの厳つい男だった。腕の太さが成人男性の腰に太さと同じくらいあるその剛腕で掴まれれば頭蓋骨すら粉砕してしまいそうだ。


「さぁて、お前らの中身はいくらで売れるんだろうな。安心しな、生きたまま運ぶのは疲れるからな、すぐに殺してやるからよ。苦しまなくて死なない分いいもんだろ」


 手に持っているのは厳つい体によく似合う斬馬刀だ。

 騎士の頭を吹き飛ばしたのもあの斬馬刀だろう。その名の通りにこの馬車の馬も既に斬られてしまっていると考えた方が妥当だ。

 それに、かなりの重量を誇る斬馬刀を扱うために鍛え上げられた筋肉もさることながら切れ味的には剣に劣る斬馬刀で頭部を吹き飛ばすのは至難の業で男の実力は相当高いことを示唆していた。

 外ではまだ剣戟音がする。つまり、残り二名の騎士がまだ外で戦っていて、こいつだけが隙を見てここに来たということか。


『キャァァアア!』

『逃げろ! 逃げるんだ!』


 奴隷たちは口をそろえて連呼する。しかし、肝心の唯一の出入り口には盗賊の男が待ち構えている。

 限られている逃げ道、各自がそれぞれ自分から一番近い壁に向かって体当たりをする。何度も、何度も、壊れるまでずっと。

 元は奴隷たちの脱走防止用に作られている壁だ。いくら木製とはいえ若い女や子供しかいない今の面子で壊せるわけがない。

 誰もが一心不乱に壁を壊そうとしている中、盗賊の男は値踏みをするようにズカズカと荷台の中に入ってくる。


「さて、どいつの中身が一番よさそうかな」


 気持ち悪く舌舐めると入り口に対して左側にいる現在必死に壁を壊そうとする二十歳くらいの女性に目を付ける。


「い、嫌。……誰か…………」


 悲痛な声をあげて助けを求める女性。しかし、その手を掴んでくれるものがいるはずがない。

 奴隷。

 この言葉でひとくくりにされていても、本来的には顔見知りではないのだ。偶然移送される馬車が同じだっただけで、つながりのない人を助けるほど今のこの場にいる人の意識は集まっていない。


「ギル、ギル! あの人危ない! 助けてあげてください。ギルの力なら大丈夫でしょう」


「んあ……」


 リファに言われて指さされた方を見ると、切羽詰まった状況が目に入るが、ギルはゆっくりと目を閉じる。


「ギル、どうしてですか!?」


「俺が助ける理由はない」


「でも、ギル強いから」


「別に俺は正義の味方じゃないぞ。力を持っているからと言って進んで矢面に立つ気はない。俺が怪我でもしたらどうするんだ」


「それはっ! でも!」


 ギルが言いたいことは分かる。しかし、そんなこと言っている場合でもないことは確かだ。


「でも!」


「リファたちがどんな風に俺等を解釈しているのか知らないけど、一般的には俺等はテロリストで反勢力だ。その業務内容に人助けは含まれていない」


「――」


 リファはここでギルに言うのを諦めた。決して失望したわけではない。ギルの言い分を理解できてしまったためだ。

 ギルの言う通り、例えギルの方が強いことが明らかでも傷つかない理由にはならない。その場合、ギルからすれば無駄に怪我をしたことになる。

 

 ――ごめんなさい。


 小さく呟いて、リファは涙をにじませた瞳を固く閉じる。

 盗賊の男は恐怖の色に染まっている女性の目の前に立つと、引きずっている斬馬刀をゆっくりと持ち上げる。


「まず、一人目」


「――たす」


 斬馬刀を横薙ぎに払う。

 女性の叫びも空しくその首は斬馬刀によって切断された。

 切断というにはあまりにも切口が雑で、筋肉に物を言わせて無理やり引きちぎったといった方が近い。

 身体の司令塔を失ったことで女性の体は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。その様子を見ていた男は返り血を顔に浴びてなお、不敵の笑みを崩していない。


「手っ取り早く、残りも済ませてしまおうか」


 ぐるっと首だけを回して辺り一面を見渡す男の視線は得物を狩る猛獣のそれだ。目に付着した女性に血が赤い目を実現させて群衆に恐怖を覚えさせる。


「さあ、パーティの始まりだ!」


 成人男性でも両手を使ってようやく持ち上げることが出来る斬馬刀をまるでナイフのように操る男。

 そして、蹂躙が始まった。

 逃げ惑う奴隷たちをゆっくりと追い込んで次々と首を撥ねていく。胴体は内臓が多く、高い金になるのでなるべき傷つけることはしない。

 その代わり頭は好きなように処理する。

 極まれに脳を欲しがるブローカーも存在するのだが、それに関しては優秀な人間に限られることが多いため、奴隷相手ならどれだけ首から上を傷つけても文句は言われない。後、見た目がいい人は殺さないことも多いが、生かしておくと面倒になることも多いので最近は少ない。

 唯、首を落していくだけじゃなくて斬馬刀の側面を使って頭を押しつぶすことも、騎士を殺した時と同様に頭を真っ二つにしていくことも。

 数分もしないうちに荷台に床は血で赤く染まった。


 リファはずっとギルにくっついたまま決して離れようとせずに縮こまっている。本当はすぐに目を閉じてしまいたいのだが、二度と開かなくなることを恐れて荒れた呼吸と共に目は開いていた。

 ギルに関してはここにきても盗賊の男に関して無関心を貫いていた、というよりもまだブツブツ呟いてと憂鬱なオーラをばらまき続けている。

 やはり、手を出す気はないのだろうか。

 肝心の男だったが、本来の目的である新鮮な臓器の回収はどこへ行ったのやら、今は単純に殺戮を楽しんでいるようにしか見えない。

 血が彼の中に眠る狂人を目覚めさせてしまったのだ。


「弱い! 弱い! 弱すぎる! もっと俺の血肉を掻き立てるような奴はいないのか!」


 そんな男の魔の手から逃れた奴隷たちがいた。

 皮肉にも盗賊の男が斬馬刀をやみくもに振り回したおかげか荷台の数か所に人がなんとか脱出できるような小さな損傷があった。

 頭に血が上って視野が狭くなっている内に、と生き残った奴隷たちは波風を立てないように静かに出ていく。


「おう、なんだぁ、人がいねえな。……っているじゃねえか」


 ぴちゃぴちゃと歩くたびに床に漂う血が音を生み出す。そんな男が向かう先にはギルとリファがいた。

 男がリファの元に近づいてくる。その距離が一歩、また一歩と縮んでいくたびにリファは体を強張らせた。そして、当然のようにギルは興味関心がない様だ。

 二人の目の前に男が聳え立ち肩に斬馬刀を乗せて二人を悠然に見下ろす。


「どうした、恐怖で言葉も出ないのか、今なら泣き喚いてもいいんだぞ」


「あ~、どうしようかな」


「なに?」


「ギル?」


「ごまかしは聞かないからな」


「おい、貴様、なにをブツブツと言っている!」


「また叱られるのか……はぁ~」


 天井を眺めながらギルはこれからのことを入念にシミュレーションしている。男の声は聞こえていないのか、瞳には天井しか映っていない。


「何をしているかって聞いているんだ!」


 この状況下で無視されていることがよほど癪に障ったのか男はギルの胸倉をつかんで持ち上げる。


「ギ、ギル!」


「――黙れよ。人が考え事してる最中に邪魔すんなよ」


 心配そうに見つめるリファ。そして、ここでようやくギルが眼前に控える盗賊の男に目の焦点を合わせた。


「てめぇ、よくこの状況でよくそんなことを言えるな!」


「知らねえよ、てか、それよりもこれから説教されるからさ、今猛烈に気分が沈んでいるんだ。つまり、ものすごく機嫌が悪いんだよ。だから、離せよ、今なら見逃してやるから」


 背筋が凍るような声で言うギル。


「ぁあ、誰に向かって言ってんのかわかってんのかよ! 叩っ斬るぞ!」


 そういうと男は片手で斬馬刀をギルの首に狙いを定めて振りかぶる。


「警告だ。次はない、その汚い手を離せ」


 酷く、冷たく、乾いた声で言うギルにどうやら盗賊の男の逆鱗に超絶触れまくったらしい。


「なら死ねや!」


 構えていた斬馬刀をギルの首目掛けて斬りかかる。

 一片の迷いもなくギルの首に吸い込まれるように綺麗な軌道を描く斬馬刀。


「警告したぞ」


 俯きながら言うギル。

長めの銀髪によって顔が隠れてしまい表情を窺うことは出来ないがその声には険悪さが混じっていた。

 次の瞬間、パキーン! と甲高い金属音が荷台に木霊する。ギルの手を拘束していた鉄枷はあっけなくギルの素の腕力に負けて砕け散った。

 さすがの男もギルの常軌を逸脱した行動に少しの動揺が見られたが攻撃の手を緩めることなく続行する。


「はぁぁああああああ!」


 声と共に気合の入った一撃。しかし、斬馬刀はギルの血をその刀身に浴びることは出来なかった。なぜなら、ギルが自由になった手を使って首に接触する寸前のところで斬馬刀の刀身を受け止めていたからだ。

 驚くころに手の甲だけで受け止めている。それは、切れ味が劣る斬馬刀だから出来る芸当で、それでも、人の首を跳ね飛ばす勢いがあったはずだが、ギルの手の甲は少し赤くなっただけで傷はついていない。


「なんだと!?」


 さすがに驚きを隠せない男は大きく目を見開いて声を出す。


「全くもうイライラするな!」


 この『な』のタイミングで斬馬刀の腹を、手首を返して握る。五本の指はそれぞれ刃にめり込んで、力を込めて握る。すると、パキン、と甲高い音を立てて砕け刀身は二つに分かれた。


「馬鹿な!? 俺の斬馬刀が!」


「リファ、目を閉じておけ、可能なら耳塞いで……それは無理か」


 未だ胸倉は掴まれたままのギル。目線だけリファに合わせて言う。ギルが持ち上げられた時からこっちを凝視していたリファは言われたとおりに目を固く瞑った。

 耳に関してはまだ手枷が取れていないため塞ぐことが出来ない。


「ありえねえ! ありえねえ!」


 なにやら男はいっているがそんなことギルには関係ない。


「忠告、次があれば戦う相手は選ぶんだな。お山の大将張るなら常に自分よりも弱い奴を殺していかないと、今みたいに強い奴とやれば殺されてしまうんだからね」


 慌てふてめく男を尻目にギルは手に雷光を纏わせて、素早く男の手首を斬り落とした。

 本当は片手剣を使えれば楽だったが、残念。さすがに刃物は没収されてしまったのだ。


「――が!」


 短い悲鳴を上げた男の体はふらついて一、二歩後ずさる。


「俺にちょっかいなんて出さなかったら良かったな」


 本体から切り離されたと言っても男の手はギルの胸を掴んだままだった。その手をはぎ取ると明後日の方向に投げ捨てる。そして、動こうとして気付く。

 まだ、足は鉄枷によって拘束されたままだったことを。

 少し悩んだ挙句、手刀で足枷を断ち切る。

 切れ味がよいと言っても手刀のためガシャァァン! と金属音を鳴らして砕け散る。そして、両手両足が自由になったギルはここで一旦、周りを見ると首を失った遺体が散乱していた。

 軽く吐息をつくと、片手を失ったことによる激痛に悶える男を捉えると、一瞬で懐に入る。


「――」


 盗賊の男はあまりの速さに言葉すら発することが出来ない。

 ギルは何の躊躇いもなく男の首を跳ね飛ばした。

 クルクルと回転しながら落下する男の首。斬首はこの男がもっとやってきた中で最も多い殺し方だった。皮肉にも同じやり方で生涯を閉じることになるとは思っていなかっただろう。

 ドゴン! と大きな音を立てて頭を失った男の巨体が床に衝突する。

 ここにまた一体の首なし遺体が増えた。


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