とりあえず安心
幼馴染二人に心配をかけてしまったことを反省しながら教室に入る。
説明もなしに急に教室に転移させてしまったから、怪我をしていないかとか、精神面が心配な後輩が何人かいるのである。
ボクってホントに成長してないよなぁ。
少し昔の色が視界に掠めただけであそこまで動揺するなんて。
「みんなー、大丈夫?」
「あっ、先輩!」
「怪我とかしてないのな?」
「怪我してないよ。」
「何にもなかったよ~」
「ちょちょちょ、大丈夫だから」
思ったよりも冷静に事態に対応できていたようで、あからさまに危ない子はいないみたいだ。よかった。
リユラに飛びつかれているセラが動転している隣で、ボクたちの心配をしてくれる可愛い後輩たちに胸を撫で下ろす。
「おら、ステラも来たし降りろっ。オレは偉大な先輩であって遊具じゃねぇんだっつーのおおおおお」
「しょうがないですねぇ」「今度にお預けですねぇ」
両腕を双子に拘束されていたカイが悲鳴をあげている。おやや。
「みんな、床で悪いんだけど一旦座ってほしいな。カイもね。」
「オレは一年じゃないんだけど!?双子もはーなーっせえええええ」
反論も虚しく双子に腕を掴まれて体育座りさせられるカイ。解せん。とありありと顔面に書きながら両腕で膝を抱えている。壮観だな。
他の後輩たちが全員床に座り、揃っていることを確認して口を開く。
「みんなで楽しく追いかけっこをしていたのに中断させてごめんよ。さっきボクの昔の知り合いが訪ねてきたんだけど、みんなには会わせられないタコ野郎だから。急に転移させちゃって、怪我とかした子はいない?いたらセラが治療するから言ってね。」
「僕なんだ。いやするけど」
「これぐらいは全然なんでしょ。」
「まぁね」
セラのツッコミに笑いながら言葉を返せば、まんざらでもなさそうな声が返ってくる。さすが。
怪我をした子はいなかったようで、誰も言わず。ただ、
「先輩の昔の知り合いかぁ」
「リン先輩がタコ野郎なんて言ってるの初めて聞きました」
「タコ野郎とはなんでしょうか?」
「知らなくても構いませんわよぉ」
ボクが普段話題に出さない単語に興味を持ったり、天然を発揮している良い子な後輩たちの囁き声が耳に届く。
おっと、思わず口が悪くなってたか。
「まぁ、そういうわけで。そいつが置き土産をくれたから、ボクはそっちの方に行かなくちゃなんだ。ついでに防衛結界にも異常がないか確認してくるよ。三人とも、後輩たちのこと頼めるかな。」
「あったり前っ」「了解」「へいへい」
置き土産とは当然、あの盗賊崩れのことである。わざわざ持ってきたということは、それなりに意味があるのか。それは調べないとわからない。
ボクの急な提案にも慣れている三人は難なく返事を返してくれる。持つべきものは友って言うのはこういうことを言うのかな。
「助かるよ。それじゃカイ、鍵頂戴。」
どうせカイのことだ、盗賊を幽閉している土には暗号魔法やらなんやらを施して余所からの接触を弾く仕様にしているに違いない。
案の定カイは土製の鍵を放り上げてきた。
「ん?あぁ、ほい。一応言っとくけど変な気起こすなよ」
「わかってるって。じゃあいってくるね。」
ボクがこの件を深く話す気がないのを感じ取ったのか、後輩たちは囁くのをやめていってらっしゃいと手を振ってくれた。
察しのいい後輩たちに感謝しながら手を振り返して教室を出る。
———さ、【天帝】の置き土産は何を吐いてくれるのかな。
鍵を指先でくるりと回して、考え得る予想に目を細める。
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