不調

屋上から校舎内へと降り、一年生を転移させたボクたち二年生の教室へと歩く。


「やっぱり『最果ての教室』は欺瞞だったんだ?」

「あれ、気付かれてたか。」

「魔法を直接見破れたわけじゃないけど、ステラの手法を考えることぐらいはできるからね」


流石、とセラの慧眼に肩を竦める。二年も同じ学び舎で過ごしていればボクのやり方なんて想像がつくか。ボクも成長しないと。


先に教室に到着していたサヤとカイが教室の入り口を指さす。


はいはい、今開けるよ。


パチンッ、と指を鳴らして教室にかけていた防御結界と欺瞞魔法を解除する。


「後輩ちゃんたち、大丈夫———っとと」

「—、」

「おっと」


教室のドアを開けた瞬間にドアの内側で膨れ上がる魔力と殺気に、サヤがすぐさま引き抜いた短剣を振るう。


幾つかの中級魔法、拘束魔法をサヤが切り伏せ、流れ弾がサヤの後ろに立っていたボクに着弾しかけてセラに叩き落とされる。


「わっ、先輩!?!」「すみません襲撃者かと思って!!」


教室から飛び出してきた双子。ボクが安全地帯に転移させたのに警戒を解かず、いざとなった場合の迎撃態勢を取っていたのか。


ほんとにボクたちの後輩は優秀だね。


「本当にすみませんっ、それでさっきの襲撃者?は何だったんですか?」

「うえぇっ、え、ぇえっと~」

「お前ら先輩の怪我の心配はしないのかよ?」

「いやだって」「俺達が先輩方にかすり傷だってつけられるはずないですし」

「まぁそれは当然だけどな。オレらに挑むにはお前らガキンチョにはまだ早い」

「「……」」

「いやだからってこんな近距離で魔法ぶっ放そうとすんな。後ろの奴らも真似すんな!?」


あからさまにではあるけれど話題を逸らしてくれたカイに目線でありがとうと伝える。カイはひらひらと手を振って教室の中に入っていき、双子もそれに続く。くるりと振り向いたサヤがあわあわと駆け寄ってきた。


「ごめんなさぁぁぁあいっ、隠すの下手でぇえ」

「いや、素直で正直なのはサヤの美点だよ。カイが取り繕ってくれたんだし大丈夫だって。」


セラが隣で苦笑し、ボクもポンポンとサヤの肩を叩く。


けれど、サヤは視線を彷徨わせながらもごもごと口を動かした。


「で、でもでも…さっきノアの魔法、私刃渡り足りなくて切り損ねたでしょ。だけど後ろステラいたし、魔法で相殺する必要もないかなってほっといたんだけど、危なかったでしょ…?」


途中でセラに視線がいったのは、ボクに当たりかけていた魔法を叩き落としたのがセラだと気付いているからだろう。


いつもならするはずのないボクの失態に、不調を気遣ってくれるようにサヤが顔を覗き込んでくる。


カイは言うまでもなく、セラどころかサヤにまで心配をかけてしまっているなんて、己の未熟さに内心で顔をしかめながら笑ってみせた。


「久しぶりに乱暴に魔法使ったからちょっと疲れただけだよ、迷惑かけてごめん。セラも何回もありがと。」

「迷惑なんてそんなことないんだけど…本当に体調悪かったら言ってねっ!」

「こんぐらい全然。どういたしまして」


気にするなというように敢えていつも通りの笑顔を向けてくれる二人。


そんな友人たちにこれ以上心配をかけたくなくて、脳裏でチカチカと瞬く赤い森から目を逸らした。

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