装う平静
まずは防衛結界を確認しようと、一旦鍵を仕舞って昇降口へと降りる。
【天帝】が防衛結界を弄って侵入してきていたので、念のために確認しておこうと思ったのだ。
防衛結界は防御結界とは異なり、規模が大きく魔法式も桁違いに繊細で、勿論取り扱い方も大きく異なる。何かあっては不審者や魔物が侵入し放題である。
昇降口に立てかけてあった長杖を手に取り、外へ出て魔力を流す。飛空魔法で浮いた長杖にひらりと飛び乗り、高度を上げていく。
学院の敷地内では原則飛空魔法の使用は禁止されているけれど、今は別に構わないでしょ。うん。クロ先生に怒られたら逃げよう。
球体に張られている防衛結界の天辺にまで上り、透明で不可視の防衛結界に触れる。 ひやりとした水面に触れているような感触。
管理者以外が防衛結界に干渉しないように掛けられた、複雑極まる魔法式の暗号化と擬態を解いていく。非常事態だからさ、うん。
「魔力補給源異常なし…どこも穴は開いてない、強度と規模共に異常なし。維持系統も問題なし。自動修復も大丈夫。ついでに改竄の痕跡もないか…天下の【天帝】様は手際がいいな、ったく。」
魔法式に異常がないことを時間をかけながら確認していき、防衛結界から手を離した。すぐさまボクがさっき解いた暗号とは違う暗号が防衛結界の魔法式にかかる。うん、大丈夫そうだね。
じゃあ防衛結界はよし。
——ん、んん~……あそこらへんかな。
仕舞っていた鍵を取り出し、校庭に向かって放り投げる。
校庭の角付近に落ちた鍵がキラリと光って砂に戻った。同時に校庭に魔法式が点滅。
「おぉ、暗号化も上手くなったもんだねぇ。」
そして鍵に暗号を解く用の魔法式は組んでくれていないと。普段の意趣返しかな。
真面目に暗号を解くのももう面倒くさいので、魔法式ごと長杖の先で突いて粉砕する。
「さっさとしないとね。カイあたりは勘で気付いてそうだ。釘も刺されちゃったし。」
あぁやだやだ、出来れば友人の頭は弄りたくないものだよ。
視線を落として長杖を放り投げる。カラン、カラ、カラ、という音で瞬き。そうだ、道具は大事にしないとだった。
「……まぁいいか。」
鍵を象っていた砂が動き、足元の地面がガコンと正方形に凹む。その凹みに飛び乗った瞬間、視界がふっと下がった。
「おいおい、乱暴だなぁ。」
…まぁいいか。
口に出さずに心の中でもう一度同じことを呟いたことには気がつかず、荒く砂埃が舞う地下でよっこいせと身を起こす。
風通しがないに等しいこの空間の土煙は鬱陶しいので舞う砂に魔力を繋げて地面に全て落とした。でもやっぱり土の匂いが濃いなぁ。
「ぇ、え……?」
「あ、起きてたんだね。よかったよ、起こす手間が省けた。」
にこりとボクが微笑む頭上で穴がガコリと塞がる。
光が一切ない、土の匂いが籠るそこで、あえてボクは明かりを一切つけずにしゃがみ込む。
「さ、時間も有限だ、キリキリはいてもらおうか?」
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